プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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民生部品・コンポーネント実証衛星(MDS-1)の準備状況

平成13年11月14日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

1. 概 要

平成13年度冬期に宇宙開発事業団がH-IIA試験機2号機で打上を予定している民生部品・コンポーネント実証衛星(MDS-1)の衛星システム及びミッションの概要を説明するとともに打上に向けての準備状況を報告する。また合わせてMDS-1のミッションサクセスクライテリアについて報告する。

2. 衛星システム概要

  • MDS-1は将来の宇宙機の小型・高機能化、低コスト化を 目的とした、静止トランスファー軌道を通過させバンアレン  帯の厳しい宇宙放射線環境を利用して、(1)民生部品の宇 宙適用の為の評価技術の確立、(2)衛星搭載コンポーネン トの事前実証、(3)宇宙環境の計測をミッションとした重量. 約480kgの小型衛星である。
  • 衛星システムの概要として衛星の主要諸元及び搭載ミッショ ン機器の概要を以下に示す。
    衛星システム主要諸元
    本体寸法 1.2m×1.2m×1.5m
    質 量 約480kg
    発生電力 約900W(ミッション終了時)
    ミッション期間 1年間
    姿勢制御 太陽指向低速スピン安定 (5rpm)
    主要な搭載機器 6種類のミッション機器
     
    運用軌道 静止トランスファー軌道
     遠地点高度    36,000 km
     近地点高度 500 km
     軌道傾斜角 28.5



    MDS-1 軌道上外観図




    MDSー1軌道概念図

    MDS-1の軌道を1年間周回させることで静止軌道10年分の放射線を被曝



    MDS-1搭載のミッション機器

    3. MDS-1のミッション

    MDS-1は将来の宇宙機の小型・高機能化及び低コスト化を目的とし、下記のミッションから構成されている。

    (1) 民生部品の評価技術の確立
    民生部品の将来における宇宙機器への適用を目的として、宇宙環境下で民生用半導体部品及び地上用太陽電池のデータを取得し、民生部品の宇宙適用性評価技術を確立
    (2) コンポーネントの事前実証
    将来性を有する衛星搭載用コンポーネントの小型、軽量化及び高機能化を目的とした小型化技術及び耐放射線性向上技術の事前実証
    (3) 宇宙環境計測
    宇宙の放射線環境等を計測し、上記(1)、(2)の民生部品・コンポーネントに対する影響の定量的評価、及び宇宙放射線モデルの作成

    MDS-1搭載ミッション機器概要

    分 類ミッション機器名称補足説明
    1.民生部品の評価技術の確立 ・民生半導体部品実験装置(CSD) ・メモリー素子12個、
    ・論理回路(ゲートアレー)3個
    ・地上用太陽電池実験装置(TSC) ・シリコン系10枚、ガリウム・砒素系8枚
    ・CIS(銅・インジウム・セレン)系6枚
    2.コンポーネントの事前実証 ・CPV型バッテリー実験装置(CPV) ・Ni-H2電池の小型軽量化及び低コスト化技術の実証
    ・半導体レコーダ実験装置(SSR) ・搭載データレコーダの小型化、高速大容量化、信頼性の向上等の技術の実証
    ・並列計算機システム実験装置(PCS) ・高性能民生CPUを宇宙で使用するためのフォールトトレランス技術等の実証
    3.宇宙環境計測 ・宇宙環境計測装置(SEDA) ・軽粒子放射線環境の計測
    ・重粒子放射線環境の計測
    ・衛星各部の総被曝放射線量の計測
    ・軌道上の磁場の計測

    注:個別機器の実験内容の詳細は別紙に示す

    4. MDS-1のミッションサクセスクライテリア

     ミニマムサクセスフルサクセスエキストラサクセス
    1.民生部品の評価技術の確立 ・民生部品の宇宙 環境におけるデータを取得できること ・宇宙で取得したデータ及び地上での評価データを総合し民生部品の宇宙への適用のための評価手法を確立すること ・太陽活動と部品劣化との対応がモデル化できること
    2.コンポーネントの事前実証 ・コンポーネントの基本機能がすべて動作すること ・宇宙環境に対処する機能が正常に動作し、放射線環境との対応関係を評価できること ・実証機器が十分に耐放射線耐性を有し最小限度の改修で宇宙機器として使用可能なこと
    3.宇宙環境計測 ・民生部品及びコンポーネントの評価に必要な放射線データを取得すること ・高精度宇宙放射線モデルの構築を行うこと ・他衛星の観測データと比較し宇宙放射線モデルの精度向上ができること

    5. MDSー1の準備状況

    (1)準備スケジュール

    ・輸送前点検 10月8日〜11月14日に実施
    ・種子島搬入 11月18日予定
    ・射場搬入後試験 11月20日〜12月28日予定
    ・射場整備作業 12月29日以降ロケットとの結合作業開始
    ・衛星運用訓練 リハーサルについて本年9月より実施中

    (2)衛星の状況

    輸送前点検の結果衛星は下記を除き他は全て正常である。
    輸送前点検中に民生半導体部品実験装置(CSD)内の15個の半導体素子中の一つの論理回路の評価部に不具合が発見されたが、今般の目的である民生部品の評価技術の確立については、他の14個の素子で達成可能であること、及び、当該箇所の修理に伴う衛星及びロケット打上げ全体のリスクの増加に鑑み、当該部品のデータ取得を見送ることとする。



    MDS-1搭載ミッション機器詳細


    民生半導体部品実験装置(CSD)
    (民生部品等の地上評価技術検証)

    実験の目的および期待される成果
    宇宙放射線被爆量による電子部品の性能劣化の検証
    宇宙放射線による電子部品の誤動作の検証
     →電子部品の宇宙適用性評価技術の確立を目指す

    搭載評価部品
    外部専門家を含めた「民生半導体部品に
    係わる検討委員会」にて選定された電子
    部品を評価
    4Mbit-SRAMx4個、64Mbit-DRAMx4個
    1Mbit-EEPROMx2個、4Mbit-FLASHx2個
    論理回路(FPGAx2個、ゲートアレーx1個)





    地上用太陽電池実験装置(TSC)
    (民生部品等の地上評価技術検証)

    実験の目的および期待される成果
    ・地上用太陽電池セルの軌道上データの取得
     →地上用太陽電池材料・製造技術の宇宙適用性の評価

    搭載評価セル
    外部専門家を含めた「地上用太陽電池に
    係わる検討委員会」にて選定された地上用
    太陽電池を評価
    シリコン系太陽電池セルx10枚
    ガリウム・砒素系太陽電池セルx8枚
    CIS(銅・インジウム・セレン)系太陽電池セルx6枚




    CPV型バッテリ実験装置
      (CPV:Common Pressure Vessel )
    (コンポーネントの小型軽量化基盤技術検証)
    実験目的
     CPV型ニッケル水素バッテリ実験装置は、衛星質量の中で占有比率の大きい電源部の小型軽量化を目指し、バッテリ本体と高周波スイッチングを用いた充放電制御器の軌道上実証を行う。
    CPV型ニッケル水素電池組立
    評価項目
    1. 軌道上の実環境下(熱環境・無重力状態)における電池設計の妥当性確認
    2. CPV型ニッケル水素バッテリを用いた電源システム設計技術の確立
    3. CPV型ニッケル水素バッテリの運用技術の習得
    4. 高周波スイッチングを用いた小型軽量化充放電制御器の軌道上実証
    充放電制御器




    半導体レコーダ実験装置
      (SSR:Solid State Recorder )
    (コンポーネントの小型軽量化基盤技術検証)
    実験目的
     民生のメモリ素子及び高密度実装技術を採用した宇宙機搭載用小型軽量半導体メモリ装置について宇宙環境で軌道上実証を行う。
    SSR概観
    評価項目
    1. 放射線による不良メモリの発生状況の確認
    2. データ誤りの発生状況の確認
    3. エラー検出/訂正機能の有効性の確認
    4. スタックメモリモジュールの耐環境性評価
    スタック・メモリ・モジュール
    並列計算機システム実験装置(PCS)
    (コンポーネントの小型軽量化基盤技術検証)

    実験の目的および期待される成果
    高性能な民生MPUを利用した高性能計算機システムの軌道上実証を行う
     →宇宙用高性能計算機システム の実用化技術の確立

    評価項目
    ・リアルタイムフォールトトレラント動作の実証
    ・リアルタイムフェールセーフ動作の実証
    ・MPU内の放射線被曝による誤動作の頻度測定





    宇宙環境計測装置
    (SEDA : Space Environment Data Acquisition equipment)

    MDS-1に搭載する民生部品・コンポーネント実験機器のデータを解析、評価するためには、宇宙放射線環境の情報が必要不可欠である。このために宇宙環境計測装置をMDS-1に搭載して、宇宙放射線環境を計測する。

    放射線吸収線量モニタは、宇宙放射線粒子のうち、主に質量の軽い粒子(電子、陽子、α粒子)を計測する。 積算吸収線量計は、宇宙放射線粒子による被曝量を、MDS-1の構体パネル及び民生部品・コンポーネント実験機器の内部の計56ヶ所で計測する。
    重イオン観測装置は、宇宙放射線粒子のうち、主に質量の重い粒子(ヘリウムから鉄までの重イオン)を計測する
    磁力計は、宇宙放射線粒子の運動に作用する宇宙空間の磁場を計測する
    MDS-1の構体が持つ磁気モーメントの計測への影響を避けるため、3段折りで3m伸長する非磁性材料で製作した伸展マストの先端にセンサを取り付けて、MDS-1の構体から3m離して計測する