プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

プリント

スペースシャトル・エンデバー号(STS-100/国際宇宙ステーション組立ミッション(6A))等の運用結果について(報告)

平成13年5月9日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

1. 報告事項

 スペースシャトル・エンデバー号(STS-100/国際宇宙ステーション組立ミッション(6A))及びソユーズ・フライト(2S)の運用結果について報告する。

2. 飛行日程

 スペースシャトル・エンデバー号(STS-100/6A)の打上げから帰還までの日程は以下の通りである。

● 打上げ日時 2001年4月20日(金) 午前 3時41分(日本時間)
2001年4月19日(木) 午後 2時41分(米国東部夏時間)
● ドッキング日時 2001年4月21日(土) 午後10時59分(日本時間)
2001年4月21日(土) 午前 8時59分(米国中部夏時間)
● ドッキング解除日時 2001年4月30日(月) 午前 2時34分(日本時間)
2001年4月29日(日) 午後 0時34分(米国中部夏時間)
● 着陸日時 2001年5月 2日(水) 午前 1時11分(日本時間)
2001年5月 1日(火) 午前11時11分(米国中部夏時間)

STS-100 / 6Aフライト飛行概要

項目概要
STSミッション番号 STS-100
オービタ名称 エンデバー号(エンデバー号としては16回目の飛行)
打上げ日時 2001年 4月19日午後 2時41分(米国東部夏時間)
2001年 4月20日午前 3時41分(日本時間)
ロンチウインドウ (注) 5分以内
打上場所 フロリダ州NASAケネディ宇宙センター(KSC)39A発射台
飛行期間 11日21時間30分
搭乗員数
7名
コマンダー  ケント・V・ロミンガー
パイロット  ジェフリー・S・アッシュビー
ミッションスペシャリスト  クリス・A・W・ハドフィールド
ミッションスペシャリスト  スコット・E・パラジンスキー
ミッションスペシャリスト  ジョン・L・フィリップス
ミッションスペシャリスト  ウンベルト・ギドーニ
ミッションスペシャリスト  ユーリ・バレンチノビッチ・ロンチャコフ
軌道高度 投入高度:約320km(173海里)
軌道傾斜角 51.6度
帰還日時 2001年5月 1日午前11時11分(米国中部夏時間)
2001年5月 2日午前 1時11分(日本時間)
帰還場所 カリフォルニア州 エドワーズ空軍基地
(フロリダ州NASAケネディ宇宙センター(KSC)に着陸予定であったが、悪天候のため代替帰還地のエドワーズ空軍基地に着陸した)
主要搭載ペイロード カーゴベイ
SSRMS、UHFアンテナ及びそれらを搭載する輸送用パレット(SLP)
多目的補給モジュール(MPLM)「ラファエロ」
直流切替えユニット(DCSU)予備品
IMAX 3Dカーゴベイ・カメラ(ICBC-3D)
ミッドデッキ ISSへの補給品、実験装置等
(注)ロンチウィンドウ:打上げ可能時間帯

3. スペースシャトル・エンデバー号(STS-100/6A)のミッションの概要

(1)  スペースシャトル・エンデバー号によるSTS-100/6Aミッションは、シャトルによる国際宇宙ステーション(ISS)の組立フライトとしては9回目。ロシアのロケットによる打上げを含めると12回目の組立フライトである。(プログレス補給船による補給フライト3回を除く)
(2)  このフライトで、カナダのリモート・マニピュレータ・システム(SSRMS:Space Station Remote Manipulator System:愛称「カナダーム2(Candarm2))及びUHFアンテナが、米国実験棟「デスティニー」に取り付けられた。
 今回、合計2回(計14時間50分)の船外活動を実施した。ISS組立としては通算20回、スペースシャトル計画史上通算65回実施したことになる。

宇宙ステーション・リモート・マニピュレータ・システムの概要
(SSRMS:Space Station Remote Manipulator System)

SSRMS(カナダーム2)は宇宙ステーション用にカナダが開発した、関節部を7個持つ全長17mの左右対称形のロボットアームである。両端のエンドエフェクタ(LEE:Latching End Effector)が、ISSのトラスや各モジュールに取り付けられた電力・通信インターフェース付き把持部(PDGF:Power and Data Grapple Fixture)を順次把持することにより、移動することができる。

PDGFは、SSRMSの把持部となるほか、電力とデータ通信、ビデオデータのインターフェースを提供する。


(3)  多目的補給モジュール(MPLM:Multi-Purpose Logistics Module)の2号機「ラファエロ」がユニティ下方のドッキングポートに取り付けられ、搭載していた実験ラック2台(下記実験装置参照)及び補給・保管用ラック等、合計10台のラックをデスティニーへ移送した。空になった「ラファエロ」は不要品や回収される機器等が積み込まれ、再びシャトルに搭載して帰還した。

多目的補給モジュールの概要
(MPLM:Multi-Purpose Logistics Module)

MPLMはイタリア宇宙機関ASIが開発した、与圧補給品をISSへ運ぶための補給用モジュールである。「レオナルド」、「ラファエロ」、及び「ドナテロ」の計3機開発されている。

前回のフライト5A.1で「レオナルド」が運ばれ、今回のフライト6Aでは2号機の「ラファエロ」が運ばれた。

MPLMは、ロボットアームでISSの共通結合機構(CBM:Common Berthing Mechanism)に結合し、クルーがラックや補給品を搬入/搬出する。作業終了後は、CBM機構を外して再度シャトルに積み込み帰還する。

MPLMには、最大16台のラックを搭載できる。今回のフライト6Aでは、10台を搭載した。



実験装置

6Aフライトでは下記に示す実験装置を搭載した2台のEXPRESS(Expedite the Processing of Experiment to the Space Station)ラック(EXPRESS-1, 2)がMPLMで運ばれ米国実験棟「デスティニー」に設置された。

A. EXPRESS-1ラック搭載ペイロード
(1)蛋白質結晶成長装置(Protein Crystal Growth Apparatus)
(2)ISSの微小重力環境(振動)測定装置(Microgravity Acceleration Measurement System)
B. EXPRESS-2ラック搭載ペイロード
(1)能動式振動除去装置(Integrated Checkout Equipment)
(2)発展型植物成長装置(Advanced Astroculture Growth Chamber)
(3)コロイド物理学実験(Physics of Colloids in Space)
(4)微小重力環境測定装置(Interim Control Module)
注: EXPRESSラックは実験ラック(ISPR)の一種であり、宇宙実験までの準備期間を短縮すると共に、インテグレーション作業を軽減するためにNASA とボーイング社により開発されたラックである。
(4)  ISSから操作するSSRMS(カナダーム2)により、ISSに一旦取り付けた輸送用パレット(SLP:Spacelab Logistics Pallet、シャトル内でカナダーム2とUHFアンテナを搭載したキャリア)をシャトルから操作するRMS(カナダーム)へ引き渡し、シャトルの貨物室へ収納した。これは、初めての宇宙空間でのロボットアーム間の引き渡し作業である。
(5)  ISS搭載のコマンド及び制御コンピューター(C&C MDM:Command & Control Multiplexer / Demultiplexer)3台全てにアクセス不能となる不具合が発生した。復旧作業を行った結果、C&C MDM#2は正常に動作しており、#1もほぼ正常に動作している。C&C MDM#3はハードディスクを切り離した状態での動作が確認でき、基本的な機能は回復している。また、この不具合によるクルーの安全への影響はない。現在原因究明と対策の検討を実施している。

ISSのコンピューター不具合状況

(1) 不具合状況
(a) 飛行7日目(日本時間4月26日)、ISSに3台(1台主機、2台予備機)あるコマンド及び制御コンピューター(C&C MDM:Command & Control Multiplexer / Demultiplexer)のうち、主機として使用していたC&C MDM#1が、外部ハードディスクへアクセス不能となり運用を停止した。その後、自動的に切り替えられたバックアップのC&C MDM#2もしばらくして同様の問題が発生。C&C MDM#3に切り替えたが、同様に停止した。
(b) 3台のC&C MDMが停止したことから、ユニティ・モジュールにあるコンピューター(ノード1MDM)の故障診断プログラムが自動的に起動して、C&C MDM#2を再起動した。
(c) C&C MDM#2は主機として現在順調に運転中。
(d) C&C MDM#1はハードディスクが破損していたため、全体をペイロード用コンピューターのバックアップと交換し、ソフトウェアをインストールした。現在、C&C MDM#2から#1へファイルを転送を行い、2つのMDMを同一の機能にしようとしている。
(e) C&C MDM#3は故障しているハードディスクからシステムを分離し、コンピューター内のメモリー(DRAM)にソフトウェアをインストールして再起動した。現在ハードディスク無しでの動作を確認している。今後、ハードディスクの交換について検討。
(f) NASAではC&C MDMリカバリー・チームを結成し、今回の問題の原因究明・対策を検討する予定である。
(2) ISSのコンピューター・システムの概要

米国のコマンド及びデータ・ハンドリング(CDH:Command & Data Handling)システムは、下図5-1に示すとおり3つの層からなる階層的構造の中で、データやコマンドの送受信を行う。

今回問題のあったC&C MDMはテレメトリ/コマンドの制御の他、ISS全体を制御するコンピューターで、3台(内予備機2台)設置されている。

C&C MDMは最上位の第1層に位置していることから、不具合の影響は大きいが、クルーの安全には影響がない。今回影響を受けた機能の主なものは次のとおり。

・Kuバンド通信(映像データ)
・音声通信(シャトル経由に切り替えて運用)
・コマンド受信/テレメトリ送信機能
・大容量記憶装置(MSD)へのアクセスを必要とする運用(SSRMSの運用)
(3) 日本の実験棟「きぼう」(JEM)のコンピューター・システムへの影響

JEMのコンピューター・システムはC&C MDMに直結するJEM管制制御用コンピューター(JCP)、JEM RMS用コンピューター(MDP)及びそれら以下のシステムにて制御される。上位のC&C MDMに不具合が生じた場合は地上とのコマンドやテレメトリーは送受信出来なくなるが、JEM内部の制御系は独立しており運用を継続できる。

JCPやMDPで使われる外部ハードディスクはC&C MDM用と同じく米国ハネウェル社製であり、今回の不具合による影響を現在調査中。なお、JCPは一旦ハードディスクで起動すれば、その後はハードディスクに不具合が生じても運用継続に支障はない。


6Aフライト前後のISSコンフィギュレーション及び6Aフライト後のISS



4. スペースシャトル・エンデバー号(STS-100/6A)のミッションの結果

 本ミッションによりISSは次のとおりとなった。

(1)  SSRMS(カナダーム2)により、シャトルのRMS(カナダーム)に頼ることなくモジュールを移動させることができるようになった。また、シャトルのRMSとのハンドオーバーにより、シャトルから届かない場所へもモジュールを取り付けることができるようになった。
(2)  UHF通信システムにより、ISSでの船外活動時の通信(船外活動中の宇宙飛行士の音声や生体データを送信)が可能になった。
 また、UHF通信システムにより、ドッキング及びドッキング解除時に、ISSとシャトル間の直接無線通信(音声交信およびISSのテレメトリ送信、コマンド制御)が可能になった。
(3)  初めてEXPRESSラックと呼ばれる実験ラック2台が搭載され、米国実験棟「デスティニー」に設置された実験ラックが計3台となった。

5. ソユーズフライト(2S)

 ソユーズ(2S)が4月28日にカザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地より打上げられた。
 昨年10月31日に打上げられて以来、非常用帰還船としてISSにドッキングしていたソユーズ(1S)と交代した。
 なお、ソユーズフライト(2S)には一般人の米国人実業家デニス・チトー氏が搭乗し、非職業宇宙飛行士としてISSに搭乗した後、5月6日にソユーズ(1S)により帰還した。

ソユーズ(2S)運用結果

ソユーズ(2S)がカザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から下記の通り打ち上げられた。

1. 目的

ISSにはISS滞在クルーの安全上、常時緊急帰還船をドッキングさせておく必要がある。昨年10月31日に打上げられ第1次滞在クルーが搭乗したソユーズ(1S)が緊急帰還船としてISSにドッキングしていたが、約180日で交換する必要があるため、今回ソユーズ(2S)が打上げられた。

2. 打上げ結果

ソユーズ(2S)の打上げ及びISSとのドッキング日時は、以下の通りである。

● 打上げ日時 2001年4月28日(土) 午後 4時37分(日本時間)
2001年4月28日(土) 午前11時37分(モスクワ夏時間)
● ドッキング日時 2001年4月30日(月) 午後 4時58分(日本時間)
2001年4月30日(月) 午前11時58分(モスクワ夏時間)

また、ソユーズ(2S)の搭乗員は、それまでISSにドッキングしていたソユーズ(1S)で帰還した。ISSとのドッキング解除及び地上への帰還日時は次の通りである。

● ドッキング解除日時 2001年5月 6日(日) 午前11時21分(日本時間)
2001年5月 6日(日) 午前 6時21分(モスクワ夏時間)
● 着陸日時 2001年5月 6日(日) 午後 2時42分(日本時間)
2001年5月 6日(日) 午前 9時42分(モスクワ夏時間)

6. 今後のフライト予定

(1)  プログレス補給フライト(4P)
 5月20日にバイコヌール宇宙基地から打上げられる予定。
 食料・燃料その他の補給物資を輸送するためのフライトである。
(2)  ISS組立フライト(STS-104/7A)
 6月14日に次回ISS組立フライトである、スペースシャトル・アトランティス号(STS-104 / 7A)の打上げが予定されている。
 STS-104/7Aフライトでは、ISS搭乗宇宙飛行士の船外活動で使用する米国のエアロックが打上げられ、SSRMS(カナダーム2)を使ってISSに取り付けられる予定。