宇宙開発事業団
宇宙開発事業団では、宇宙実験の先導的役割を果たす地上研究として「課題研究」を宇宙環境利用研究システムにおいて平成9年12月から行っておりました。この度その課題のひとつである「化合物半導体結晶成長研究」において従来無重量状態でなければ不可能と思われていたインジウム・ガリウム・ヒ素の長尺均一組成の単結晶を地上で育成することに成功しました。
今回単結晶の育成に用いたのは「飽和溶融帯移動法」(Traveling Liquidus Zone Method、以下TLZ法)と名付けた新しい方法で、宇宙実験においてもわずかに残存する重力による擾乱を抑制するために試料融液組成を安定化させるように考案した結晶成長方法です。これは試料に適当な濃度勾配を付けることと温度勾配を制御することによって、試料の一部のみを飽和状態に保って融解させるものです。
ただし、TLZ法における結晶成長メカニズムの理解のためには、単結晶育成条件(温度勾配、溶融帯域など)のより正確・定量的な把握が必要であり、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」の実験装置である「温度勾配炉」を用いた理想的な条件下での実験を計画しています。得られたデータを基に、TLZ法を用いた地上での大口径均一組成単結晶育成の実用化を目指す予定です。また、当面、地上において直径20mm程度の単結晶育成の実証も計画しております。
インジウム・ガリウム・ヒ素の結晶は光通信に用いられる半導体レーザーの基板として非常に有望な化合物で、実用化された際には光通信設備の低価格化が見込まれIT基盤整備に役立つことが期待されます。