プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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熱帯降雨観測衛星(TRMM)の軌道高度変更について

平成13年9月12日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

1. 報告事項

 宇宙開発事業団(NASDA)と米国航空宇宙局(NASA)は、継続したTRMMのデータ提供及びその利用に鑑み、TRMMのミッション期間を延長する目的で、TRMMの高度を現在の約350kmから約400kmに変更したので、その結果について報告する。

2. ミッション期間延長のための軌道高度変更理由

(1) TRMMは3年以上にわたり、熱帯、亜熱帯域の降水データを取得し、これまでデータの殆ど無かった海洋上の降水分布を初めて明らかにしたほか、エルニーニョの消滅、亜熱帯反流のメカニズムに関する画期的な成果を生み出してきた。ミッション期間の延長によりさらにエルニーニョの発生等のメカニズムの解明、気候変動予測のための気候値データ生成が期待されている。
(2) 気象庁はじめ世界の気象機関がTRMMデータを数値予報で現業利用するための準備を進めてきており、ミッション期間の延長が強く要望されている。
(3) TRMMと今後打ち上げられる予定のNASAのEOS-PM1搭載改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR-E)やADEOS-II搭載高性能マイクロ波放射計(AMSR)との同時観測により、降水の推定精度の向上が期待されている。

3. 経緯

(1) TRMMは1997年11月に打ち上げられ、2001年1月に定常運用を終了した。
当初、残推薬の量から2004年初めまでの継続観測が可能であると考えられていたが、その後の計算で、再突入に必要な燃料の量が当初想定より大幅に増加(68kgから157kg)することが明らかになり、ミッション期間が短縮されることが判明した。そのために、NASAより軌道高度を上げる(350kmから402.5km)ことで、ミッション期間を延長することが提案された。
(2) 6月、TRMMの国内代表研究者(PI)会議及び日米TRMM共同サイエンスチーム(JTST)会合は、軌道高度を上げることをNASDA及びNASAに提言した。NASAゴダード宇宙センターにおいては軌道高度変更審査会が開催され、高度変更計画の妥当性が確認された。
(3) 8月3日付けでNASAアスラー地球科学局長とNASDA古濱理事の間で合意文書の取り交わしを行った。
(4) 8月7日より高度変更開始、8月24日に最後の微調整のための軌道制御(マヌーバ)を実施し、軌道高度は最終目標である402.5kmとなった。

4. 高度変更提案とその事前検討

(1) 推薬を157kg残すとした場合のミッション期間の見積り
 現状(高度350km)では、2003年2月頃に残推薬が157kgに達する。


TRMMのミッション期間の見積り

8月初旬に400kmに高度を上げた場合のミッション期間については、2007年10月頃までであり、約4年半ミッション期間が延長できる。
(2) 高度変更の影響
NASDAではNASAと協力して以下の検討を行った。
1. 衛星バス及び降雨レーダ(PR)以外のセンサへの影響
現時点でTRMMは順調に運用を継続しており、今後、軌道高度を上げても、衛星の信頼度にはほとんど影響がないことがNASAにより確認された。また、PR以外のセンサについても高度変更の影響は少ない。
2. PR観測への影響
高度を上げることにより感度が若干劣化することから最低検出可能降水強度が増加する、観測高度範囲がやや狭くなる等の影響があるが、これらの影響は現状のPRデータを用いた研究課題に対しては小さく、基本的に支障ない。
3. 地上システムへの影響
高度変更により、地上システムのソフトウエアの改修、高度変更後の検証等が必要である。

5. 高度変更実施履歴

 高度変更実施の履歴を下表に示す。高度変更は,高度変更のためのマヌーバを、1日に2回行い、これを6回実施することにより実現する計画が立てられた。当初、8月7日にこの作業を開始し、6日後に終了する予定であった。しかし、3日目のマヌーバの後、高度変更に伴う地球センサのSN(シグナル対ノイズ)比低下による太陽捕捉モードへの移行、デブリ、シャトル等との接近回避などにより途中実施が順延された。最終的には、8月24日に第6回目のマヌーバを実施、目標高度である約402.5kmに到達した。なお、衛星は、現在、正常に観測を継続している。

TRMMM軌道高度変更の実施履歴
月日時刻(世界標準時)運用
8/ 7 14:54 および15:40 高度変更マヌーバ#1
→マヌーバ後の平均軌道高度 360km
8/ 8 16:50 および 17:36 高度変更マヌーバ#2→372km
8/ 9 15:47 および 16:33 高度変更マヌーバ#3→383km
8/13 02:21 太陽捕捉モード、全センサオフ
8/17 17:10 太陽捕捉モードからの復旧
8/17 20:29頃 降雨レーダパワーオン
8/17 20:46頃 観測モード
8/21 14:24 および 15:10 高度変更マヌーバ#4→393km
8/22 18:03 および18:49 高度変更マヌーバ#5→402.5km
8/24 16:21 および 16:53 高度変更マヌーバ#6 (最終調整) 402.5km

6. 高度変更による降雨レーダ(PR)およびアルゴリズム評価

 現在総合的なPRの性能確認作業を行っている。これまで高度変更中も含めてPRデータをモニターしてきたが、特に予想外の問題は発生していない。また、高度変更に合わせて改修を施したPRアルゴリズムもほぼ正常に動作している。今後は微調整を加えた後に、観測データを一般に公開する予定である。

7. 今後のスケジュール

9月4日 PRリアルタイムデータの提供開始
9月中旬 PR初期観測データ(校正済み)の提供開始
2002年3月 PR観測データ(検証済み)の提供開始



衛星高度と残燃料の推移(8/7〜8/27)