宇宙開発事業団
世界最高速の超高速並列計算機システム「地球シミュレータ」は、宇宙開発事業団(理事長 山之内 秀一郎)、日本原子力研究所(理事長 齋藤 伸三)及び海洋科学技術センター(理事長 平野 拓也)が共同で開発し、今年3月より海洋科学技術センターの地球シミュレータセンター(センター長 佐藤 哲也)が運用しております。
今般、アメリカのメリーランド州ボルチモアで、11月16日〜22日に開催されたハイ・パフォーマンス・コンピューティング(高性能計算技術)に関する国際会議SC2002において、この分野で最も権威がある賞、「2002年ゴードン・ベル賞」を地球シミュレータを用いた研究成果が受賞しました。
ゴードン・ベル賞は、計算機設計者として著名な米国のゴードン・ベル氏が並列計算機技術開発の推進のために、1987年に創設した賞で、米国電気電子技術学会コンピュータ協会(IEEE Computer Society)によって運営されております。
この賞は、毎年、並列計算機を実用的な科学技術計算に応用し、性能を含めて最も優れた成果を出した者に与えられるもので、実効性能部門、価格性能比部門、及び特別賞について、応募のあったものから審査を行い、受賞者を選定しております。
今回、「地球シミュレータ」を用いた研究成果3件が、実効性能部門と特別賞において受賞しました。
・受賞論文:A26.58 Tflops Global Atmospheric Simulation with the Spectral Transform Method on the Earth Simulator;地球シミュレータ上で行ったスペクトル変換法による全球大気大循環シミュレーション(26.58 Tflops)
・受賞者: | |
海洋科学技術センター (地球シミュレータセンター) |
新宮 哲(しんぐう さとる)、津田 義典(つだ よしのり)、大淵 済(おおふち わたる)、大塚 清(おおつか きよし) |
日本原子力研究所 | 横川 三津夫(よこかわ みつお:現在産業技術総合研究所) |
宇宙開発事業団 | 伊藤 寛行(いとう ひろゆき) |
NEC | 高原 浩志(たかはら ひろし)、 萩原 孝(はぎわら たかし)、幅田伸一(はばた しんいち) |
NEC情報システムズ | 佐々木 祐二(ささき ゆうじ)、山田 将志(やまだ まさゆき)、渕上 弘光 (ふちがみ ひろみつ) 、小林 一夫(こばやし かずお) |
・受賞理由: 「地球シミュレータ」を用いて行われた、実用的な全球大気大循環モデル、AFES(気候変動研究に用いられるシミュレーションモデル)による超高解像度シミュレーションで、他に類を見ない実効性能26.58 Tflops、ピーク性能比約65%(640ノードで実行、ピーク性能40.96 Tflops)を達成した。前線活動や台風の目などの全球シミュレーションが、従来よりも詳細に表現可能となった。
・受賞論文:14.9 Tflops Three-dimensional Fluid Simulation for Fusion Science with HPF on the Earth Simulator;地球シミュレータで行ったHPFによる核融合3次元流体シミュレーション(14.9 Tflops)
・受賞者: | |
姫路工業大学 | 坂上 仁志(さかがみ ひとし) |
海洋科学技術センター (地球シミュレータセンター) |
村井 均(むらい ひとし) |
日本原子力研究所 | 横川 三津夫(よこかわ みつお:現在産業技術総合研究所) |
NEC | 妹尾 義樹 (せお よしき) |
・受賞理由: 自動並列化コンパイラHPF(High Performance Fortran)を用い3次元流体シミュレーションを「地球シミュレータ」で実行し、他に類を見ない高性能(実効性能14.9 Tflops ピーク性能比 約45%[512ノードで実行、ピーク性能32.77 Tflops])を達成した。地球シミュレータ用に開発されたHPFコンパイラは「地球シミュレータ」のような大規模な並列計算機に対する自動並列化に非常に有効であることが確認された。
・受賞論文:16.4-Tflops Direct Numerical Simulation of Turbulence by a Fourier Spectral Method on the Earth Simulator;地球シミュレータで行ったフーリエスペクトル法による乱流の直接数値計算(16.4 Tflops)
・受賞者: | |
日本原子力研究所 | 横川 三津夫(よこかわ みつお:現在産業技術総合研究所) |
海洋科学技術センター (地球シミュレータセンター) |
板倉 憲一(いたくらけんいち)、宇野篤也(うの あつや) |
名古屋大学 | 石原 卓(いしはら たかし)、金田行雄(かねだ ゆきお) |
・受賞理由: 「地球シミュレータ」でテスト用に行われた世界最大規模の直接数値計算による乱流シミュレーションで卓越した高性能(実効性能16.4TFLOP ピーク性能比 約51%[512ノードで実行、ピーク性能32.77 Tflops])を達成した。従来の乱流シミュレーションに比べ約64倍の高精度でシミュレーションが可能となり、乱流現象を解明し複雑な流れの予測に貢献。
並列計算機
複数のCPU(演算処理装置)がネットワーク等を通じて繋がっている計算機で、大規模な計算を短時間で処理することができる。計算物理学や構造解析、流体解析をはじめとする科学技術計算分野で幅広く利用されている。地球シミュレータの場合、1つのCPUの計算速度が8Gflops(1秒間に80億回の計算が可能)であり、これを5120個結合することで超高速(ピーク性能40.96 Tflops:1秒間に約40兆回の計算が可能)を実現している。
実効性能
理論性能であるピーク性能に対して、実効性能とは、あるプログラムを実行した時の計 算性能であり、これが計算機の実質的な性能とされる。この値は使用するプログラム毎に異なるため、どの計算機でも比較的簡単に実行できるため広く使われているベンチマークプログラムとしてLINPACKがあり、地球シミュレータは35.86 Tflopsで世界最高速の値を示している。地球シミュレータのようなベクトル型スーパーコンピュータは、米国で多く作られているスカラー型スーパーコンピュータに比べて気象・気候計算に適している。通常のピーク性能比は約30%程度であるが、5120台もの高並列計算機システムのピーク性能比約65%は驚異的である。これは地球シミュレータがベクトル性能、並列性能共に非常に優れていると共にこの性能を達成したアプリケーションプログラム大気大循環モデル(AFES)が非常に高性能であることを示している。
大気大循環モデル
(AFES:Atmospheric general circulation model For Earth Simulator)
地球シミュレータ用に開発された、全地球規模で大気の挙動を超高解像度でシミュレーョンを行うためのプログラム。
ゴードン・ベル賞
ゴードン・ベル賞は、IEEEとACM(Association for Computing Machinery)で委員会を組織、審査している。実アプリケーションの並列計算で高い性能を達成した研究者に対し、毎年SC(ハイ・パフォーマンス・コンピューティングに関する国際会議)で表彰を行っている。
HPF
科学技術計算プログラムで広く用いられている「FORTRAN言語」に、分散並列処理を自動化する機能を付加・拡張した言語。データ配置処理やプロセッサ間通信処理を意識することなく平易にプログラミングすることを可能とするものであり、効率的なプログラム開発や、既存のプログラムの活用推進によるプログラム開発の生産性向上を実現することができる。