プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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航空機を利用した"微小重力教育実験テーマ"の選定結果について

平成14年8月28日

宇宙開発事業団

 宇宙開発事業団(NASDA)は、学生の方に宇宙環境利用について理解を深めていただくと同時に、自然科学への興味を喚起する事を目的に、「航空機(パラボリックフライト)を利用した微小重力教育実験」を実施する計画です。
 7月5日から7月末まで、高等専門学校・大学・大学院等の学生対象に、微小重力実験のテーマを募集したところ、全部で24件の応募をいただき、独創性・有効性などの観点から、航空機での実験を行うテーマとして4件を選定しましたので、下記のとおりお知らせします。

(注) 航空機を使用したパラボリックフライト(parabolic flight)とは、放物線運動を行うように航空機を操縦し、その機内に無重力環境を作り出す飛行のことです。
ボールを投げるときにできるだけ強く上向きに投げることで地面に落ちるまでの時間を長くすることができるように、航空機でも同様に長い無重力環境を作るため、飛行高度を調節します。無重力の時間は約20秒間です。

1.選定テーマ名

テーマ名学校名
磁場と重力場における化学波動の伝播 お茶の水女子大理学部化学科
微小重力下におけるサカサナマズの前庭代償による背泳姿勢制御 奈良県立医科大医学部耳鼻咽喉科
人工重力下でのメダカの挙動解析実験 東京大学教養学部理科I類
温度勾配を有するワイヤ上の液滴の挙動観察(Wicking現象の観察) 青山学院大学工学部機械工学科

2.今後の予定

2002年 8月〜12月
12月
提案者による実験装置の製作・技術調整
航空機実験実施
2003年 1月頃
2月頃
実験レポートの提出
成果報告会実施

添付:審査委員名簿 及び選定テーマ一覧

※ 本情報につきましては、「航空機を利用した微小重力教育実験テーマの募集」でもご覧いただけます。



航空機を利用した"微小重力教育実験テーマ"の選定結果について


審査委員名簿

選定委員現 職 (専門分野)
細矢 治夫
(委員長)
お茶の水女子大学名誉教授(化学)
高柳 雄一 高エネルギー研究機構教授(宇宙科学全般)
竹内 伸 東京理科大学教授(物理学)
岡田 益吉 国際高等研究所副所長筑波大学名誉教授(生物学)
中丸 邦男 NEC東芝スペースシステム(株)エグゼクティブコンサルタント(宇宙技術開発全般)
小林 康徳 宇宙科学研究所教授(宇宙工学)
毛利 衛 日本科学未来館館長宇宙開発事業団宇宙飛行士(化学)


「航空機(パラボリックフライト)を利用した微小重力教育実験」選定テーマ一覧

実験テーマ名学校名提案者担当/助言
教員
テーマ概要選定理由
磁場と重力場における化学波動の伝播 お茶の水女子大理学部化学科 中西 奈美
佐々木 亜紀子
助教授
森 義仁
化学反応の中には、反応によって生成した物質(生成物質)が再び反応する物質となり、生成物質が時間経過とともに爆発的に増えるものがある。この自己触媒反応に分類される反応では、生成物質が爆発的に増加した時の濃度変化が化学波動と呼ばれる"波"として溶液中を伝わる。エチレンジアミン四酢酸コバルトと過酸化水素はこのような反応を起こし、化学波動が伝播する。その際、磁場が化学波動に対して予想外に大きな効果を及ぼすことが知られている。本実験は、この反応における対流の寄与を調べ、磁場効果のメカニズムを研究するために行う。 独創性が高く、化学反応への磁場効果の原因解明に微小重力を利用する着眼が秀逸。予備実験を始め、実験計画が具体的で理解し易い。
微小重力下におけるサカサナマズの前庭代償による背泳姿勢制御 奈良県立医科大医学部耳鼻咽喉科 岡本 譜史 助教授
大西 健
普通あおむけに泳ぐサカサナマズは、姿勢を保つ上で重要な働きをする前庭器官を片方摘出した直後、回転水流内で安定した背泳姿勢がとれなくなるが、一ヶ月後には正常に背泳するようになることが地上で確認されている。これは残った片側の前庭器官による代償作用("前庭代償")が生じたことを示している。本実験では、片側の前庭器官を摘出したサカサナマズを回転水流内に一ヶ月間曝した後、パラボリックフライト中の遊泳行動を観察し、この"前庭代償"が環境に依存するものか、先天的なものかを調べる手がかりを得る。 実験計画に具体性があり、視覚的な効果を含めて実験成果が期待できる。生物の多様性も利用した興味深い提案。
人工重力下でのメダカの挙動解析実験 東京大学教養学部理科I類 細居 洋介
鮫島 昌弘
平井 真理子
長谷川 賢
藤野 真人
教授
鈴木 俊夫
微小重力下において、メダカに地上でかかる重力とは異なる横方向に擬似重力(遠心力)をかけ、その時の水槽内でのメダカの位置を観察、解析することでメダカがどの程度の重力を感じているかを調べる。また、水槽の回転数を変えることで人工重力の強さを変化させ、メダカの挙動を調べるとともに、水流の圧力分布がメダカの姿勢制御、位置制御に与える影響を観察し、解析を行う。 メダカという点で新規性に乏しい感があるが、おもしろく、わかり易い提案である。重力勾配をつける点に独創性がある。
温度勾配を有するワイヤ上の液滴の挙動観察(Wicking現象の観察) 青山学院大学工学部機械工学科 宮田 啓志
荒木 慎也
助教授
佐久田 博司
Wickingは、液滴が付着した表面の温度分布によって液滴内部に表面張力差が生じ、液滴全体が流動する現象である。この現象は「はんだ」の溶融時に観察され、接合不良の原因ともなるものである。地上で「はんだ」などの液体側の密度が大きいために重力の影響を強く受けるが、微小重力下ではこれら密度差による動きが抑えられ、Wicking現象が観察され易くなる。本実験では表面張力差による流れの観察し易い試料(シリコンオイルなど)を用いてワイヤ上でWicking現象をとらえ、解析を行う。 ねらいが明確で実現性の高い提案。マランゴニ対流の現実的な応用実験としての視点が良い。簡易な装置で実験可能な点も評価。提案書全体が明確で読みやすい。