プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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STS-107宇宙実験プロジェクトの実験実施について

平成14年12月11日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

1.概要

国際宇宙ステーション(ISS)・日本実験棟(JEM)に先立つ宇宙実験機会として、宇宙開発事業団(NASDA)が実施する、スペースシャトルSTS-107を利用して宇宙実験及び飛行後実験について報告する。

2.STS-107を利用するNASDA実験

NASDAはSTS-107の実験機会を利用して、蛋白質の立体構造やその機能の解析、及び宇宙環境における生物機能の解明などに関する実験を行う。実験テーマを別紙―1に示す。

2.1 蛋白質結晶成長実験

対流、沈降のない宇宙環境で高品質な蛋白質結晶を得ることにより、生命科学・医学的観点から蛋白質の機能及び構造を明らかにし、蛋白質の生物学的機能の解明に資するとともに、医薬品等の開発に応用する。
STS-107においては、科学研究として5テーマ、先導的応用化研究として5テーマ、技術検証として1テーマの計11テーマの実験が日本人研究者により実施される。

2.2 ラットサンプルシェア研究

科学的成果を最大限に導くために、米国、フランスの代表研究者が所定のサンプルを取得した後の残サンプルを他の研究者に分配し、少ない宇宙実験機会で多くの研究を行う。今回のラットを用いた実験では、宇宙環境における生物機能の違いを、筋骨格、代謝内分泌、神経、宇宙放射線等の観点から解明する。
STS-107サンプルシェア研究として、9テーマが日本人研究者によって実施される。

蛋白質結晶成長実験装置(スペースハブ社/アラバマ大学提供)
蛋白質結晶成長実験装置(スペースハブ社/アラバマ大学提供)
ラット用動物飼育装置(NASA提供)
ラット用動物飼育装置(NASA提供)

3.STS-107での実験以外のNASDAプログラム

3.1 教育プログラム

全国の高校生に蛋白質結晶成長実験への参加を呼びかけ、宇宙環境利用を含む宇宙開発の理解増進を図るとともに、蛋白質をキーワードとして結晶成長、X線構造解析、生命科学への展開などの面から自然科学教育への貢献を行う。本教育プログラムには、日本全国から149チーム(89校)が参加しており、予備実験を経て選定された高校生6チーム(表-2)が宇宙実験に参加する。

3.2 NASDA宇宙飛行士の参加

NASDAは、向井宇宙飛行士をSTS-107の副ミッションサイエンティストとしてNASAに派遣をしており、向井宇宙飛行士は、ミッションサイエンティストの補佐として、地上にて、実験を提案した代表研究者達のとりまとめ支援を行うとともに、ミッション中は地上の管制センターにて、宇宙実験運用に係る統括補佐を行う。ここでの経験を、今後NASDAが主体性を持って実施していく必要のあるJEM利用の科学実験運用に係わる体制や手順の構築に資する。
また、古川宇宙飛行士は、STS-107が宇宙から帰還した直後にNASAケネディ宇宙センターにて、ラットサンプルシェア研究のための標本の収集作業を行う。これは、将来のJEMでの同種の作業へ向けた技術の取得を目的としている。

4.ミッション運用概要

●打ち上げ手段 スペースシャトル・コロンビア号
●打ち上げ予定日 平成15年1月16日(米国東部日時)
●打ち上げ場所 NASAケネディ宇宙センター
●帰還予定日 平成15年2月1日(米国東部日時)
●着陸予定場所 NASAケネディ宇宙センター
●飛行期間 約16日間

*出典:NASAホームページ
Space Shuttle Launch schedule
なお、最終的な打上げ日時は、打上げ約2週間前にNASAが決定する。

5.軌道上実験運用の概要

蛋白質結晶成長実験に関しては、スペースシャトル打上げ後、スペースハブの実験装置の立ち上げが開始され、打上げ約6時間後に、蛋白質結晶成長実験が開始される。その後、約15日間にわたり実験が継続され、帰還約13時間前に実験を終了する。実験運用はスペースハブ社及びアラバマ大学によって行われ、NASDAは日本より必要に応じ実験運用を支援する。
また、ラットサンプルシェア研究に関しては、NASAによって実験運用が行われる。

6.成果の公表

蛋白質結晶成長実験(科学研究、先導的応用化研究、技術検証)及びラットサンプルシェア研究に関しては、帰還約1ヶ月後に速報を、約1年後に成果報告を公表する予定である。なお、これらの情報は、宇宙開発委員会等へ報告するとともに、NASDAホームページ(国際宇宙環境利用データベース)にて、公開する予定である。但し、先導的応用化研究については、研究終了後、特許等の取得に関連する部分については、5年間非公開とすることが可能である。
また、教育プログラムの蛋白質結晶成長実験に関しては、宇宙実験チーム及び地上実験チームより提出された最終レポートを帰還約3ヶ月後に審査員が審査し、優秀と認められた実験チームを表彰する。結果等については、宇宙開発委員会等へ報告するとともに、NASDAホームページ(タンパク質の結晶成長実験)にて公表する予定である。

7.今後の実験関係の作業予定

(1)平成15年1月初旬 蛋白質実験試料の米国への輸送
(2)平成15年1月16日(米国東部日時) スペースシャトルの打ち上げ予定
(3)平成15年2月1日(米国東部日時) スペースシャトルの帰還予定
(4)平成15年2月上旬 蛋白質実験試料の日本への輸送
(5)平成15年2月中旬 ラットサンプルの日本への輸送



表-1 実験テーマ


研究者名所属機関テーマ名











高妻 孝光 茨城大学 蒸気拡散法における蛋白質結晶化条件と結晶品質との関連性に関する研究
小田 順一 福井県立大学 ガン細胞の薬剤耐性に関与する酵素蛋白質の微小重力環境を利用した高品質結晶化
田之倉 優 東京大学 活性酸素防護に関与するニトロ還元酵素の微小重力環境を利用した高品質結晶化
山根 隆 名古屋大学 新機能抗体創製のための動物レクチン(コンジェリン)の微小重力環境を利用した高品質結晶化
三木 邦夫 京都大学 生物学上重要な超分子蛋白質の微小重力環境を利用した高品質結晶化




裏出 良博 (財)大阪バイオサイエンス研究所 睡眠物質及びアレルギー物質合成酵素の結晶成長実験と医薬品への応用
北 潔 東京大学 新機構寄生虫薬の結晶解析に基づく分子設計
杉尾 成俊 三菱化学(株) 加齢性疾患の病因蛋白質に対する特異的阻害剤の創薬支援研究
石黒 正路 (財)サントリー生物有機科学研究所 光受容膜蛋白質の結晶化研究
鈴木榮一郎 味の素(株) 高分解能結晶解析に基づく未来志向型酵素の開発
技術検証 依田 真一 NASDA 蒸気拡散法による微小重力実験最適化技術の検証











石原 昭彦 京都大学 ラット骨格筋における遺伝子発現に対する宇宙飛行の影響
大平 充宣 大阪大学 ラットの速筋及び遅筋後肢筋の特性に及ぼす宇宙飛行の影響
安井 夏生 徳島大学 宇宙フライトにより萎縮した骨における新規骨芽細胞抑制蛋白質オステオアクチビンの解析
福本 学 東北大学 宇宙飛行後ラット肝におけるチトクロームP450とストレス関連分子の発現解析
宇佐美 真一 信州大学 前庭器官のmRNA発現に対する微小重力の影響
柴田 克巳 滋賀県立大学 宇宙環境がラットの補酵素NAD代謝に及ぼす影響
大西 武雄 奈良県立医科大学 ラット臓器における宇宙環境暴露後のp53調節遺伝子群の遺伝子発現
郡 健二郎 名古屋市立大学 宇宙環境の造精機能への影響―造精機能に関与する転写因子の発現と定量化
山崎 将生 福島県立医科大学 Fisher344ラットにおける大動脈神経の神経線維構成に及ぼす微小重力の影響

表-2 教育プログラム・宇宙実験チーム

学校指導教諭チーム生徒数
北海道札幌啓成高等学校 庄野和義 2名
茨城県・土浦日本大学高等学校 野本正代 2名
茨城県・茗渓学園高等学校 大竹隆夫、鈴木朋子 7名
埼玉県立浦和第一女子高等学校 岩田久道 12名
山口県立厚狭高等学校 児玉伊智郎 6名
宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校 児玉康裕 5名