プレスリリース

このプレスリリースは宇宙開発事業団(NASDA)が発行しました

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「つばさ (MDS-1)」の実験概要(速報)

平成14年8月28日

宇宙開発事業団

本日開催された宇宙開発委員会において、下記のとおり報告をいたしました。

報告事項

「つばさ」は平成14年2月4日に打上られ、同月14日に定常運用段階へ移行し、現在まで順調に実験データを取得している。今回は、つばさに搭載した6種類のミッション機器のうちデータ解析がまとまりつつある、

(1) 民生半導体部品
(2) 地上用太陽電池セル
(2) 宇宙環境計測

について初期成果概要を報告する。 また、他のミッション機器についてもまとまり次第報告する予定である。



MDS-1に搭載されている6種類の実験機器




つばさ(MDS-1)の実験概要

つばさのミッションについては資料-1参照
搭載実験機器主な実験内容期待する主な成果成果の活用例
  • 民生半導体部品 実験装置
  • 地上用太陽電池 実験装置
  • 放射線が降り注ぐ宇宙環境下で民生部品が
  • ・どこまで耐えられるか?
    ・性能劣化はどの程度か?
    ・誤作動の発生頻度は?

    等のデータを取得
  • 劣化や誤動作とその時の放射線環境との相関
  • 宇宙適用部品を評価する手法の精度向上
  • 民生部品の宇宙適用への評価
  • SEE(注)発生分布図のデータ提供
  • 半導体レコーダ実験装置

  • 並列計算機システム実験装置

  • CPV型バッテリー実験装置
  • 宇宙環境下で放射線や無重力に対して施した対策の有効性は?
  • 等のデータを取得

    機器は正常に動作しており、現在設計値と実測値について評価作業中。
  • 機器の動作状況とその時の放射線環境との相関
  • 誤動作を補う機能の有効性確認
  • 寿命データの取得
  • 次世代の衛星に先進コンポーネント技術採用の道を開く (Flight proven)
  • 宇宙環境計測装置
  • 宇宙放射線
  • ・電子   ・陽子
    ・α粒子  ・重粒子
    ・放射線総被曝量

     等のデータを取得
  • 実験用民生部品、実験用コンポーネントの校正データ提供

  • 宇宙放射線に係るデータベースの高度化
  • 世界的に不足している宇宙放射 線データを提供し、相互に補完する (国際貢献)

  • 宇宙機器の放射線耐性 設計基準の見直し

  • 今回の報告範囲 (注)SEE: Single Event Effectの略



    民生半導体部品実験装置の初期成果概要

    1. 打上後6ケ月間、実験装置は正常に動作し実験データを取得している。
    2. 同実験装置は同一ロット部品について地上実験と軌道上実験の比較分析を行い、評価技術の精度向上を目指しており、実験は計画通り進んでいる。(資料-2参照)
    3. 民生用記憶素子( DRAM、 SRAM)は予測通り頻繁にSEUが発生しており、発生場所はバンアレン帯の内帯に集中している。(資料-3参照)
    4. 同上記憶素子のSEU発生頻度については、地上の評価実験による予測値と軌道上の実測値との間においてほぼ近い値が得られている。(資料-4参照)
    5. 64Mbit DRAM 2品種のSEU発生確率は、放射線総被曝量(トータルドーズ)に関連すると思われるデータが取得されており、従来知られていない新しい現象を観測している。(資料-5参照)

    (用語解説)
    DRAM(Dynamic Random
    Access Memory )
    :書込みが時間的に自由にでき、リフレッシュが必要なメモリー
    SRAM (Static Random
    Access Memory )
    :書込みが時間的に自由にでき、リフレッシュを必要としないメモリー
    SEE (Single Event Effect ) :単一の高エネルギー粒子の効果により、下記のSEE、SEL等の現象の総称。
    SEU (Single Event Upset) :単一の高エネルギー粒子の効果により、回路素子が誤動作することをいう。
    SEL (Single Event Latch up ) :単一の高エネルギー粒子の効果により、永久的損傷に至ることをいう。
    トータルドーズ (Total Dose ) :素子又は材料が特定の時点まで受けた放射線吸収線量の総和をいう。



    地上用太陽電池実験装置の初期成果概要

    1. 打上げから現在まで、実験機器は正常に動作している。
    2. 同実験装置は同一ロット部品について地上実験と軌道上実験の比較分析を行い、評価技術の精度向上を目指しており、実験は計画通り進んでいる。
    3. 地上用CuInSe太陽電池セルは、宇宙環境下において劣化が少ないことが予測されていたが、軌道上においても予測通りのデータが得られている。今後の宇宙用太陽電池セルの開発に期待がもてる。 (資料-6資料-7参照)



    宇宙環境計測の初期成果概要

    1. 打上げから現在まで、全ての実験機器は正常に動作している。
    2. 同実験機器は静穏時、磁気嵐及びフレアによる電子、陽子、α粒子の変動を観測している。(資料-8参照)
    3. 短期観測のデータであるが、電子、陽子の平均スペクトラム及びLET分布についてデータ整理することができた。(資料-9参照)
    4. 衛星のシールド厚設計に反映できる貴重なデータが得られている。(資料-10参照)
    5. 上記(3)、(4)のデータは既存のNASAモデルと若干異る傾向のデータが観測されているが、自然現象の観測であり、長期的な観測とその分析が必要である。



    今後の予定

    1. 搭載した6種類の実験装置は1年間のミッション期間を通じてデータの取得を行い、その解析・評価を実施する。
    2. 6種類の実験装置に関する実験報告(中間報告)を実施する。
      1. MDS-1に関する全体の中間報告を計画
        宇宙科学連合講演会 “つばさ(MDS-1)軌道上実証中間報告セッション” (10月25日)
      2. 早期に実験結果を公表できるものはまとまり次第随時公表する。
        • 宇宙環境計測装置
        • 民生半導体部品実験装置
        • 地上用太陽電池実験装置
      3. 成果の公表に時間を要する機器
        • CPV型バッテリー実験装置 (充放電の寿命に関するデータを取得中)
        • 半導体レコーダ実験装置 (放射線対策とその効果についてデータ分析中)
        • 並列計算機システム実験装置 (放射線対策とその効果についてデータ分析中)
          (参考:上記の3種類の実験器機は順調に動作している)



    別添資料一覧



    「つばさ (MDS-1)」の実験概要(速報)
    別添資料





    資料-1 MDS-1のミッション

    MDS-1は将来の宇宙機の小型・高機能化及び低コスト化を目的とし、下記のミッションから構成されている。

    (1) 民生部品のデータ取得
    民生部品の将来における宇宙機器への適用を目的として、宇宙環境下で民生用半導体部品及び地上用太陽電池のデータを取得し、民生部品の宇宙適用性評価技術の確立を目指す
    (2) コンポーネントの事前実証
    将来性を有する衛星搭載用コンポーネントの小型、軽量化及び高機能化を目的とした小型化技術及び耐放射線性向上技術の宇宙実証を行う
    (3) 宇宙環境計測
    宇宙の放射線環境等を計測し、上記(1)、(2)の民生部品・コンポーネントに対する影響の定量的評価、及び宇宙放射線モデルの作成を行う



    資料-2 地上実験と軌道上実験との関係

    (用語解説) SEE (Single Event Effect )  単一の高エネルギー粒子の効果により、下記のSEE、SEL等の現象の総称。
    SEU (Single Event Upset ) 単一の高エネルギー粒子の効果により、回路素子が誤動作することをいう。
    SEL (Single Event Latch up ) 単一の高エネルギー粒子の効果により、永久的損傷に至ることをいう。
    TD (Total Dose ) 素子又は材料が特定の時点まで受けた放射線吸収線量の総和をいう。



    資料-3 軌道上におけるSEU発生位置

    (64Mbit DRAM Type 1 )



    資料-4 民生半導体部品実験装置のSEU観測データ

    SEU発生頻度 [Upsets/day/device] (2002/02/14〜2002/08/11)

    評価サンプル個数SEU発生頻度地上実験による予測値
    64Mbit DRAM (Type 1 ) 2 26.8 (#1), 29.6 (#2) 35.8 (Proton), 2.1 (Heavy Ion)
    64Mbit DRAM (Type 2 ) 2 7.7 (#1) , 4.8 (#2) 4.6 (P), 0.2 (H.I)
    4Mbit SRAM (Type 1 ) 2 4.9 (#1) , 1.2 (#2) 3.1 (P), 3.5 E-2 (H.I)
    4Mbit SRAM (Type 2 ) 2 0.1 (#1) , 0.1 (#2) 0.8 (P) , 5.6 E-3 (H.I)
    1Mbit EEPROM 2 0 1E-3 <
    4Mbit Flash Memory 2 0 1E-3 <
    FPGA 2 0 1E-3 <
    (注) SEU Single Event Upset ,
    DRAM Dynamic Random Access Memory,
    SRAM Static Random Access Memory,
    EEPROM Electrically Erasable programmable ROM
    FPGA Field Programmable Gate Array



    資料-5 軌道上におけるSEU発生頻度と経過時間

    (64Mbit DRAM Type 1 )



    資料-6 地上用太陽電池実験装置の構成

    太陽電池の種類結   果 (耐放射線性)備考(各太陽電池の特徴)
    U多結晶Si 比較的良好 安価,比較的高効率
    多結晶Si 比較的良好 安価,大量生産可能
    N型ベース単結晶Si 劣化は最も大きい 高効率
    InGaP/GaAsタンデム 比較的良好.(GaAsより若干劣る) 超高効率
    CuInSe2大面積 優れる.(電子線ではほとんど劣化なし) 安価,軽量,大面積可能
    CuInSe2高効率 優れる.(電子線ではほとんど劣化なし) 安価,軽量,比較的高効率
    宇宙用単結晶Si-2Ω・cm (比較用) 宇宙用太陽電池
    宇宙用単結晶Si-10 Ω・cm (比較用) 宇宙用太陽電池
    宇宙用単結晶GaAs (比較用) 宇宙用太陽電池



    資料-7 太陽電池の軌道上データ




    資料-8 電子のフラックスの変化(軌道高度(L値)での比較)




    資料-9 電子・陽子の平均スペクトル及びLET分布

    (NASAの放射線モデルとMDS-1実測値との比較)


    資料-10 Al半球シールドによるトータルドーズの予測値と実測値比較
              (2月26日〜8月4日)

    宇宙放射線に取り組むつばさの軌道概念図