私たちを含む地球上の生命は、太陽なしには成り立ちません。ですが、私たちにとって最も身近なこの星の素顔は、意外に知られていないのも事実です。私たちの目で見える太陽の外側には、温度100万度を超える超高温の太陽大気−コロナ−が拡がっていますが、6000度の太陽表面の上空でコロナが一体なぜこんなに高温でいられるのか。また、コロナの中で突然発生する、X線やガスの大量放出(フレアやコロナ質量放出現象と呼ばれています)が、いつ、どうして起きるのか、こんな高速で起きるはずがないのになぜ起きるのか。太陽には私たちの知らないこと、わからないことが、まだたくさん隠れています。
コロナが予想外にダイナミックな活動に満ちあふれていることを見出した「ようこう」衛星のあとを受け、太陽活動やコロナの謎を解明すべく、「ひので」衛星は2006年9月に打ち上げられました。コロナの中は、太陽表面のあちこちに顔を出したN極・S極の磁極(磁石のN極・S極と同じです)から伸び出す磁力線がいたるところを走り回っています。この磁力線と高温のコロナ大気とが、コロナの活動を生み出していると考えられています。「ひので」は、可視光磁場望遠鏡(SOT)、X線望遠鏡(XRT)、極端紫外線撮像分光装置(EIS)、という3台の先進的な望遠鏡を搭載し、太陽表面の磁気的な活動と、対応するコロナの活動を同時に、詳しく観測することで、太陽の謎に迫るミッションです。
太陽では、私たちの日常生活の時間スケールで活動現象が起きるため、観測の抜けを作らない、できるだけ連続した観測が重要となります。「ひので」は、太陽同期極軌道という、地球の北極・南極の上空を通り、昼夜の境を飛ぶ軌道をとっています。この軌道によって、1年のうち9ヶ月間は衛星が地球の影に入らずに連続して太陽を見ることができ、太陽のダイナミックな活動の源となる、太陽表面やコロナ中の磁気エネルギー蓄積の観測などに威力を発揮します。
「ひので」は国立天文台をはじめとする国内研究機関・メーカー各位に加えて、アメリカNASA・イギリスSTFCとの大規模な国際協力のもと、開発が行なわれました。打ち上げ後は、ESAも地上データ受信でプロジェクトに参加しています。得られた科学データは速やかに、宇宙科学研究本部などのWebページに置かれ、世界中の研究者(一般の人もです)がアクセス可能となっています。
観測を始めてから「ひので」は、すでにさまざまな発見を私たちにもたらすとともに、新たな謎も生み出して、太陽物理学の分野に大きな影響を与えています。さらに、プラズマ物理学、太陽圏研究といった関連分野との連携の動きも急ピッチで進んでいます。一方、太陽で起きる活動現象は太陽系にX線やガスをまき散らし、一部は地球にまで押し寄せて軌道上の衛星を故障させることもあります。気象予報、通信、GPSなど、私たちの日常生活に衛星が欠かせないものとなった今日、太陽の活動は私たちにますます密接な関わりをもってきました。太陽活動現象の原因・過程・結果をとらえる「ひので」には、地球周辺の宇宙空間の環境を予報する「宇宙天気予報」の観点からも、大きな期待が寄せられています。
「ひので」によって、これまで私たちが想像もしていなかった自然の姿、また、その背後で働く物理過程が一つでも多く明らかにされ、私たちの自然を観る目が一層豊かになることを願っています。「ひので」にご期待ください。
(2008年7月10日 更新)