「だいち」のPALSARで観測された、新燃岳の噴火に伴う地殻変動の様子。赤丸内で沈降が起きたことを示している。
「だいち」もALOS-2も、Lバンドの合成開口レーダを搭載しますが、この「Lバンド」の帯域のレーダを搭載する衛星は世界で日本だけです。
衛星搭載レーダの帯域としては、約1GHzの「L」と、約5GHzの「C」、約9GHzの「X」という3種類があり、Lが最も低い周波数です。低周波数だと何が良いかというと、例えば、木が生い茂り、落ち葉がたくさんあるような森林でも、電波がそれらを通過して地面に到達し、跳ね返ってくることです。それにより、地殻の動きが分かりますので、日本のように地震が多いところではLバンドが最適です。
確かに災害時には、衛星で撮ったデータをすぐに地上で受信して画像にする必要があります。ALOS-2では、「だいち」よりも5倍超速い800Mbpsの伝送速度になりますので、国内の災害のデータをほぼリアルタイムで取得することができます。
「だいち」よりも優れた高分解能を実現させたものの1つに、「窒化ガリウム素子」という新しい材料があります。先ほどALOS-2は「だいち」よりも強い電波を出すという話をしましたが、それを可能にしたのが、送信機に使用される窒化ガリウム素子です。ALOS-2では、この材料を宇宙用として世界で初めて採用しました。
窒化ガリウム素子は、電波の出力を増強するだけでなく、通常より熱を発しないためエコ効果があります。衛星の消費電力が減れば、省エネになるだけでなく、観測時間を増やすことにもつながります。新しい材料を使うとリスクがあると思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、その心配を払拭するだけの十分な試験を行ったうえで採用を決めました。
ALOS-2は、災害時だけに使用されるのではなく、平常時の利用も拡大できると考えています。例えば、海上保安庁では「海氷速報」を出していますが、これには「だいち」による観測画像が使われていました。海氷速報とは、冬のオホーツク海で安全な船舶航行をするために、流氷の位置を示した地図のことです。ALOS-2では、「だいち」の時よりも観測頻度が高くなりますので、リアルタイムに近い情報を提供できるようになると思います。
また、「だいち」で行っていたブラジルの森林の違法伐採の監視も、早く再開したいという声があります。なぜなら、昨年の5月に「だいち」の運用が終了して監視を止めたとたん、違法伐採の頻度が増えてしまったのです。「だいち」による監視が違法伐採の大きな抑止力になっていたということです。
やはり、宇宙から広域観測ができる衛星でなければ取れない情報があると思いますので、ALOS-2の観測を我が国のリソースとして、日本だけでなく世界に貢献するためにも使わないともったいないと思います。
先ほど合成開口レーダの帯域の話をしましたが、それぞれの帯域の特性を活かした衛星があって、それらが協力して観測を補完しあうことが、災害状況の詳しい把握につながるのだと思います。実際に、昨年の東日本大震災の際には、海外のレーダ衛星から数多くの画像を提供していただき、それらを有効に活用することができました。また、海外からLバンドの画像を提供してほしいという要望もたくさんありました。
そこで、ALOS-2では、国際災害チャータやセンチネルアジアへの国際協力に加え、海外のレーダ衛星との間で、災害時における緊急観測の相互補完を目的とする協力関係を構築することを始めています。
陸域観測技術衛星2号「ALOS-2」
「だいち」が打ちあがったのが2006年で、ALOS-2の概念設計は2007年から始まりました。その後さまざまな検討・設計や試験を行い、現在はALOS-2衛星の組み立て作業を行っています。課題はいろいろあるものの、概ねスケジュールどおり開発は順調に進んでいます。
私は「だいち」の開発プロジェクトに12年間携わりましたので、「だいち」が撮った画像を見たときには感激して、うれし涙が出ました。ALOS-2やその先にあるALOS-3が「だいち」と同じようにスクスクと育つよう、頑張っているところです。
「だいち」のユーザーは、光学センサを中心に利用されている方と、レーダを中心に利用されている方とが分かれていました。光学センサはデジカメと同じで、カラー写真を撮れますが、雲があると地面が見えません。一方、レーダは電波なので、雲を通して地面を見ることができます。地震などで地殻変動が起き、平らだった地表が凸凹したのもレーダで観測できます。ただし、レーダは白黒画像です。
一般の方にとっては、白黒よりもカラー写真の方が見やすくて好まれるでしょうが、本来は光学センサとレーダの両方が必要なんです。そのため、光学センサを搭載したALOS-3の開発に向け、検討しています。
今は何よりも、打ち上げ目標の2013年度に対して遅れずに打ち上げるというのが、私の大きな任務だと思っています。ALOS-2を無事に打ち上げて、「だいち」以上に多くのユーザーの方に利用していただくことを目指したいと思います。
ALOS-2が軌道上で活躍している間に、ALOS-3を打ち上げて、2機同時に観測ができれば、レーダと光学センサによる詳細な観測が可能になります。ぜひそれを実現させたいですね。現在、ALOS-3に用いる光学センサの試作を行っていますが、ALOS-3の予算が確保されて、プロジェクト化されることを願っています。そして、その先に考えられるALOS-4やALOS-5といった将来の衛星へつながってほしいと思います。
ALOSのような地球観測衛星は、気象衛星と同様に社会生活に不可欠なインフラになりつつあります。気象衛星が故障してしまったら私たちの生活が困るのと同様に、地球観測衛星も常時、観測を続けていることが重要です。その地球観測衛星の運用が途切れることがないよう、今後の計画を提案・推進していきたいと思います。
1986年、東北大学大学院工学研究科修士課程修了(電気・通信)。同年、宇宙開発事業団(現JAXA)に入社。地球観測センターなどでリモートセンシングの研究等に従事した後、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の開発を12年間担当。2009年8月より現職。