プレスリリース

プリント

「はやぶさ」のイトカワ近傍観測の成果について

平成17年11月1日

宇宙航空研究開発機構

 第20号科学衛星「はやぶさ」は、イオンエンジンによる航行と昨年の地球スウィングバイを経て、本年9月12日に探査対象である小惑星イトカワに到着しました。以来、成功裏に探査機の軌道変更と保持を精密に実施するとともに、順調かつ世界的な発見を含む大胆な科学観測を精力的に実施してきたところです。本プレスリリースは、今月実施予定の、歴史上未だ試みられたことのない、降下・着陸および表面試料の採取を行う新たな段階に進むにあたり、イトカワへ到着以来の理工学成果を要約して報告するものです。

 「はやぶさ」は、将来の本格的なサンプルリターン探査に必須で鍵となる技術を、科学探査の実施をふくめて実証することを目的とした工学実験衛星(探査機)で、イオンエンジンでの惑星間航行、またそれを地球スウィングバイと組み合わせる新しい航行技法、光学情報にもとづく自律的な誘導・航法、微小重力下での試料採取法、および惑星間軌道からの直接再突入による試料回収の5つを主な実証課題に掲げて進められてきました。これまでに、第3番目の実証までを計画通りに終えています。とくにイトカワへの到着については、搭載の新型イオンエンジンを延べ26,000 時間・台運転したことや、光学航法をほぼ完璧に実施し(図1)、小惑星近傍で精密な探査機位置の誘導制御(図2)を行ってきたことは、特筆されるべき成果であるといえます。
 各国宇宙機関が目指す最新の惑星探査技術には、電気推進機関に代表される高性能推進機関による航行と、探査対象天体へのランデブー、および往復飛行の3つの課題の実施が当面の目標に掲げているところです。「はやぶさ」は、今回、各国の探査計画にさきがけて、このうちの2大目標までを達成したところです。また、地球圏外天体からの試料採取と帰還についても、歴史上いまだ実施されたことはなく、かつランデブーを経ての試料片の採取と帰還は、「はやぶさ」が今回挑戦する計画が文字通り史上初であります。「はやぶさ」の飛翔によって、我が国の深宇宙探査技術は、世界的なレベルに達し、また一部それを超えたということができ、世界的にも、太陽系探査に新しいページを開くものといえます。

 一方、科学観測面では、搭載された4つの機器すべてによる観測に成功しており、可視光多波長カメラではこれまでに1,500 枚、約1GB量の撮像を行い、近赤外分光器では 75,000 点、レーザ高度計では約140万点の計測を全球的に実施するとともに、X線分光器にてのべ 700 時間の積分観測を達成しました。とくに、高精細画像と近赤外分光観測、また探査機の航法データに基づく未曾有の大きな科学成果が達成されており、本プレスリリースにてそれらを報告するものです。
 (A) イトカワ地質にかかわる形態学的な発見:イトカワの低重力下における地形は、均質であるとの理論的な予想を完全に覆し、きわめて多様で、表面状態の二分性や、多数の大型岩塊の広範な分布を示しており、レゴリス(表面の砂礫層)に覆われていない天体表面を史上初めて露わにしたといえます。(図3,4,5,6,7)これはまさに幸運な機会だと言え、従来はレゴリスに覆われた表面だけしか観測できなかった天体の真の表面を目の当たりにすることになり、この結果は、小天体の地上観測された結果の理解度を将来にわたって大きく前進させるものです。地球や地球接近小惑星に関する知見を飛躍的に拡大できる可能性もあります。
 (B) また、搭載科学観測機器が計画通り機能したことで、試料採取予定域の詳細観測結果が得られており、試料と相関性が確立できています。実証探査機ではありながらも、分光観測と構成物質の相関を確立するというサンプルリターン計画の主目標にむけて、準備段階を終了したということができます。(図8)これにより、Sタイプ小惑星と普通コンドライトの関係の謎を解決(宇宙風化を理解)できる可能性があり、太陽系創生の理解、当然ながら地球そのものの理解にも通じます。
 (C) 取得した画像を、探査機の航法情報を組み合わせることにより、イトカワの形状モデルの構築に成功しています。これにより世界的にも未開拓な小型天体上のきわめて低重力環境下での、岩塊の分布やレゴリスの重力に応じた移動に関わるメカニズムの解明を進めているところです。(図9)得られる重力場や傾斜に関するモデルは、レゴリス層や岩塊の密度に関する理解を助けるもので、隕石や地上の岩石との比較を通じて、ひろく固体惑星学上の解釈を前進させるものといえます。
 (D) 探査機搭載のレーザ高度計や、科学観測機器ではありませんが、光学航法カメラ、および地上局で取得される距離、視線方向速度の計測値を用いて、イトカワの質量、密度推定に成功しています。推定された密度は、地球上の岩石やこれまでに観測されたS型小惑星のそれらよりもやや小さく、2.3 +/- 0.3 程度と、これは従来考えられてきたよりも大きな空隙の存在を示唆するもので、イトカワほどの小天体の姿に関する認識を大きく改めさせるものです。サンプルリターンで試料を回収できれば、空隙の本質がより明瞭にあきらかになり、隕石やあるいは地球そのものの理解へとつながる成果だといえます。
 小天体探査は、まず我々の地球を理解することに貢献するほか、地球へ接近する天体の成因や軌道ないし資源を含めた解釈にも通じます。今回報告したいずれの観測結果、初期解析結果とも、「はやぶさ」以前の小天体観を根底から改めたものといえ、我が国が行った初の本格的な固体惑星探査の成果として、世界的にも画期的であるといえるでしょう。

 以上の科学観測結果に基づき、今月実施予定の、着陸・試料採取の予定地点、および先行するリハーサル降下点の選定と、それらの実施予定日を決定しました。
 試料採取点としては、探査機の安全上の観点から、表面状態に障害物がなくなめらかであることが最優先ですが、それとともに、探査機の機能維持の観点から、表面の緯度方向への傾斜角の条件、またイトカワの自転運動と、地上局からの可視性を支配する地球の自転運動との相対関係も制約条件となって、決定されました。(図10)
 その結果、第1回目の着陸・試料採取点を、イトカワ中央部に広がるレゴリス帯である、MUSES-SEA 域(図11)に、第2回目の着陸・試料採取点を、イトカワの先端に広がる盆地である、Woomera 域(図12)としました。また、先行するリハーサル降下点は、MUSES-SEA 域から自転位相で前方側の、自転軸に近い場所を選定しました。各イベントの実施予定日時(日本時間)は以下の通りです。

  1. リハーサル降下 11月4日14時頃、
  2. 第1回着陸・降下 11月12日15時頃、
  3. 第2回着陸・降下 11月25日15時頃
です。リハーサル降下の目的は、第1には、搭載されている近距離レーザ距離計の機能確認と較正で、これは同機器が巡航飛行中にはその機能を発揮できないため実施されてこなかったものです。第2点目は、着陸時の光学目標である、ターゲットマーカを実際に探査機から分離し、それを搭載のフラッシュランプで照らして光学航法カメラで観測するとともに、搭載の画像処理装置でターゲットマーカを識別させる機能を確認することです。背景を小惑星表面として視認性や画像処理機能を確認することははじめてになります。第3点目は、探査ロボットであるMINERVA を投下することです。着陸・試料採取時では、シーケンス上展開が難しくなるためにリハーサル時に先行して実施するものです。実際の着陸・試料採取のシーケンスを、図13に掲げます。

 着陸・試料採取はきわめて大きな挑戦でありますが、このたび、全国(在留外国人を含む)から、採取地点の名前を募集することになりました。
 小規模地形であるため、着陸・試料採取点は、世界的に登録する名前としての命名とはなりませんが、発見者にあたる JAXA として、その命名を宣言し記念とするものです。申し込みは、電子的に
  https://ssl.tksc.jaxa.jp/hayabusa/
へ、11月30日 17:00 までにお申し込みください。申し込みフォームは11月上旬にはオープンします。なお、命名は、試料採取の実施状況をみて、12月上旬に決定します。


*本リリースに掲載の電子データは、較正ができていませんので、そのまま科学解析へ利用した場合の妥当性は保証できません。また、掲載の電子データの転載にあたっては、「ISAS/JAXA」と明記ください。ご注意ください。





































宇宙航空研究開発機構 広報部
TEL:03-6266-6413〜6417
FAX:03-6266-6910