プレスリリース

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光衛星間通信実験衛星「きらり」(OICETS)と情報通信研究機構
光地上局による光通信実験の成功について

平成18年4月7日

情報通信研究機構
宇宙航空研究開発機構

 情報通信研究機構(以下、NICT。理事長:長尾 真)と宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA。理事長:立川 敬二)は、平成18年3月22日から31日にかけて、高度約600kmを周回しているJAXAの光衛星間通信実験衛星「きらり(OICETS)」とNICTの光地上局(東京都小金井市)との間で、レーザ光による光通信実験を実施しました。 その結果、3月31日、同衛星と光地上局との間での光通信実験に成功しました。 こうした低軌道地球周回衛星と光地上局とを結ぶ光通信実験成功は、世界で初めてのことです(※)

 「きらり」のような低高度地球周回衛星と地上局間の光通信は、受信光レベルが大気による減衰やゆらぎにより大きく変動するなか、高速で移動しながら地上局に正確にレーザを送信しつづけるという点で難易度の高いもので、光衛星間通信機器及び精密な衛星捕捉追尾に対する我が国の技術的優位性を示すことができました。

 今後「きらり」は、欧州宇宙機関(ESA)の「先端型データ中継技術衛星(ARTEMIS)」との衛星間の光通信実験と併せて、NICTやドイツ航空宇宙機関(DLR)等の機関が所有する光地上局との通信実験を継続し、宇宙環境下での光衛星間通信機器の性能確認、大気の影響評価等を行う予定です。

※ 静止衛星と地上との光通信は、NICTが開発し、JAXAの技術試験衛星?型「きく6号(ETS-VI)」に搭載した光ターミナルとNICT光地上局間、ARTEMISとESA光地上局間の例があります。

【参考資料】
衛星−地上間のレーザ通信実験概要
光地上局通信実験の衛星捕捉追尾のビデオ映像
http://www3.nict.go.jp/w/w122/ogs/video.html



補足資料:NICTにおける光地上局実験の活動



 NICTは、全光地上系ファイバネットワーク*1とシームレスに接続可能な新世代光ワイヤレスネットワーク*2の研究開発を行っています。 こうした「光」を使った情報通信技術は、宇宙通信ネットワークにも拡大応用され、すべてが「光」で結合される光ネットワーク時代の到来が想定されます。 こうした背景の中、NICTは衛星間および地上−衛星間の空間光通信技術を重要技術と位置づけ、次世代衛星間光通信装置の開発や、東京小金井市に設置された光地上局を利用し、大気ゆらぎの影響を低減する光通信の技術開発を進めています。 
 こうした技術は、地球観測衛星等で取得される様々な環境・災害観測データの大量伝送に役立つなど、社会の安心・安全を支える基盤として期待されます。
 今回の実験結果により、軌道速度約7km/秒もの高速で飛翔する低高度地球周回衛星−地上局間の光通信回線への大気ゆらぎの影響を初めて実測できたことは、学術的意義だけでなく、都市部に散在するビル間の光通信、航空機等の飛翔体との空間通信、地上における光無線技術等、広範な応用が期待されます。



NICT 小金井本部の「光地上局」
口径 1.5mの光学望遠鏡を中心に、レ−ザを使った各種光学実験等を実施している。

【用語解説】
*1 超高速ネットワーク実現のため、ノードを含めたネットワークの端から端までの全ての情報伝達処理を光領域で高品質・効率的に行うファイバネットワーク。光通信において光信号を制御する際に、通常は、電気信号を用いて光をオンオフするスイッチが利用されます。超高速光通信を可能とするには、全てのスイッチ動作を光で行う必要があり、将来、地上系ファイバネットワークは全光ネットワークになると考えられます。

*2 光・高周波を新たなネットワーク資源としてとらえ、地上から宇宙空間までを含んだ、無線通信のシームレス化、ユビキタス化、ブロードバンド化した強いグローバルネットワーク。NICTでは、さまざまな状況で利用可能な高度無線サービスを提供するための安心して使える各種無線通信技術の確立を目指しています。ファイバからの信号を光/電気変換をすることなく空間伝送を行い、空間伝搬光を再びファイバに導光する光無線システム技術は、異なるネットワーク間をシームレスに光信号のみでつなぐネットワーク技術として重要と考えています。


参考資料










きらり‐NICT光地上局実験結果

計画番号 日月 時刻
(日本時間)
状況 結果
1 3月22日
00:37:28-00:38:40
約16秒間、「きらり」は光地上局のビーコン光、光地上局は「きらり」の通信光を受光した。ビット誤り率は計測せず。 捕捉追跡に成功
2 3月24日
01:02:27-01:03:53
曇りのため中止 中止
3 3月29日
00:23:56-00:29:48
約6分間「きらり」は光地上局のビーコン光を受光、光地上局は「きらり」の通信光を受光した。ビット誤り率約10-5を計測。 衛生から地上局への通信に成功
4 3月31日
00:48:26-00:53:10
ビーコン光を切り、通信光のみで4分44秒間の持続的捕捉及び追跡確認。 双方向通信に成功


  • 平成18年3月31日0時48分26秒〜53分10秒の4分44秒間捕捉追尾を継続し、「きらり」とNICT光地上局の通信に成功しました。
  • レーザー光は波長800ナノメートル帯(赤外)で、肉眼には見えません。大気等による散乱光は人体への危険性はなく、また対航空機の監視および目的外の方向にビームが向かないよう、十分に安全に配慮して実験を行っています。



※ 当該写真は赤外線カメラにより撮影したものです。


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Tel:042-327-6923、Fax:042-327-7587


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