プレスリリース

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月周回衛星「かぐや(SELENE)」観測データの一般提供開始について

平成21年11月2日

宇宙航空研究開発機構

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、月周回衛星「かぐや」の定常運用期間(平成19年12月21日〜平成20年10月31日)における処理済み観測データ(L2プロダクト)のインターネットによる一般提供を開始いたしました。
 L2プロダクトは、「かぐや」搭載科学観測機器から得られたデータを処理・校正したもので、月に関する科学研究に利用できる情報を提供するものです。これにより、かぐやの観測機器チームメンバー以外の国内外の研究者による月の科学研究および月の利用可能性調査等がさらに進むことが期待されます。

 また、L2プロダクトの提供とあわせて、「かぐや」のデータをインターネット上の3次元地理情報システム(WEB GIS)で閲覧できる「かぐや3Dムーンナビ」の運用も開始いたしました。「かぐや3Dムーンナビ」は、NASA開発のソフトウェア「World Wind」を基に開発されたもので、「かぐや」の画像やデータを臨場感豊かな3D地図表示機能により閲覧できるサービスです。ご利用には専用ソフトウェアのダウンロード・インストール(無償)が必要となります。詳細は以下の「かぐや3Dムーンナビ」ホームページをご参照ください。
 なお、L2プロダクト、かぐや3Dムーンナビとも研究者にかかわらず、一般のHPを使用しておりますので、どなたでも利用することが可能です。

 今後、後期運用期間(平成20年11月1日〜平成21年6月11日)の観測データの処理・校正作業等を進め、データ公開を随時充実させていく予定です。

【かぐや(SELENE)データアーカイブ】
http://www.soac.selene.isas.jaxa.jp/

【かぐや3Dムーンナビ】
http://wms.selene.jaxa.jp/3dmoon/index.html



参考

1. 観測ミッションごとの公開データとミッション内容
科学観測機器 今回、一般公開した内容 ミッション内容
マルチバンドイメージャ(MI) ・輝度※1データ
・反射率※2データ
月面からの可視近赤外光を9つの波長バンドで観測し、鉱物分布を調べる。
スペクトルプロファイラ(SP) ・輝度/拡散反射率※2データ 月面からの可視近赤外光における連続スペクトルを観測し、月表面の鉱物組成を精度良く調べる。
地形カメラ(TC) ・低太陽高度(朝/夕)反射率マップ
・DTM/TCオルソ※3
高分解能(10m)カメラ2台のステレオ撮像により、標高を含む地形データを取得する。
月レーダサウンダー(LRS) ・サウンダ地下断面データ
・地下地質構造判読図
・高周波自然電波スペクトル
・低周波自然電波スペクトル
月面に電波を発射し、その反射により月の表層構造(地下数km程度まで)を調べる。
レーザ高度計(LALT) ・測距データ
・月全球地形時系列データ
・月全球地形グリッドデータ(1/16度グリッド)※4
・月全球地形マップデータ
・月極地形数値データ
・月極地形画像
・月地形球面調和展開係数
月面にレーザ光を発射し、その反射時間により、地形の起伏、高度を精密に測定する。
月磁場観測装置(LMAG) ・磁気異常グリッドデータ
・磁気異常マップ
・磁場時系列データ
・電気伝導度構造
月面および月周辺の磁気分布を観測する。
粒子線計測器(CPS) ・Rn全球マップ
・Po全球マップ
・Rn/Po時系列カウント
・電子/陽子 時系列データ
月周辺における、宇宙線や宇宙放射線粒子、および月面のラドンから 放射されるα線を観測する。
プラズマ観測装置(PACE) ・電子反射計月面磁気異常マップ
・月面2次イオンマップ
・電子・イオンエネルギースペクトル時系列データ
月周辺における、太陽風等に起因する電子およびイオンの分布を測定する。
電波科学(RS) ・積分電子密度 衛星電波源(VRAD衛星)から送信される電波の位相変化を測定し、希薄な月電離層を観測する。
プラズマイメージャ(UPI) ・TEX(紫外)プラズマ圏画像
・TVIS(可視)画像
月軌道から、地球の磁気圏およびプラズマ圏を画像として観測する。
リレー衛星中継器(RSAT) ・月重力ポテンシャル係数
・月重力ポテンシャル誤差共分散
・「かぐや」「おきな」軌道生成値
・重力場マップ
・重力場パワースペクトル
月裏側を飛行中の主衛星の電波を中継し、これを地球局でドップラ計測することによって主衛星の軌道の擾乱を観測する。これにより月裏側の重力場データを取得する。
衛星電波源(VRAD) ・相対VLBIによるDoubly differenced 1-wayレンジ※5
・「おうな」軌道生成値
リレー衛星およびVRAD衛星に搭載するS、X帯電波源を対象に、地球局による相対VLBI観測を行い、各衛星の軌道を精密に計測する。これにより月重力場を精密に観測する。(VLBI:超長基線電波干渉計。電波の経路差から電波源の位置を正確に求める)
蛍光X線分光計(XRS) ・(主研究者と調整の上、データ提供を希望する研究者へ別途提供)※6 太陽からのX線を受けて月面から放射される二次X線を観測し、月表面の元素の分布を調べる。
ガンマ線分光計(GRS) ・ガンマ線エネルギースペクトル
・ガンマ線強度全球マップ※7
月面から放射されるγ線を観測し、月表面の元素の分布を調べる。
高精細映像取得システム(HDTV) ・撮影日時、位置のデータ(カタログ情報) (HDTV動画はJAXAデジタルアーカイブス、YouTubeにて公開) 月面上の「地球の出」等のハイビジョン撮影を行う。
補助データ(ancillary data) ・衛星の軌道、姿勢、時刻データ等  


  • ※1 月面からの可視近赤外光の反射エネルギー量。単位は[W/m2/μm/sr]。
  • ※2 アルベド(月面への入射光の入射エネルギー量に対する、月面からの反射エネルギー量の割合)。
  • ※3 月面の地形をデジタル表現した数値地形モデル(DTM: Digital Terrain Model)であり、衛星から撮影された画像の歪みを正射投影によりオルソ補正している。
  • ※4 現状では世界でもっとも高分解能の地形図
  • ※5 相対VLBI観測による2重レンジ差(電波の2つの地上局間での到達時間差を距離換算した値)。
  • ※6  X線CCDの放射線ダメージならびに太陽活動レベルの低い状態が継続したため、所望な精度でのL2プロダクトの処理・校正ができていないことから、主研究者を窓口として、主研究者と調整の上、データ提供を希望する研究者へ別途提供することとした。
  • ※7  U, K, Thの放射性元素など。



2. 「かぐや」3Dムーンナビの一例

「かぐや」3Dムーンナビ