プレスリリース

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「きぼう」船外実験プラットフォーム利用ミッション
全天X線監視装置(MAXI:マキシ)が世界最速で全天X線画像を取得

平成21年11月26日

宇宙航空研究開発機構(JAXA)
理化学研究所(RIKEN)

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)および理化学研究所(RIKEN)は、国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟 船外実験プラットフォームに設置されている全天X線監視装置(MAXI: Monitor of All-sky X-ray Image)による全天X線画像の取得を、これまでの全天X線観測の中で最も短期間で取得しました。(図-1)。


図-1 MAXIのガススリットカメラによる全天X線画像
楕円の中心を銀河系中心にして、これを通る横軸が天の川となる「銀河座標」で全天を表しました。

 この画像は、MAXI(別紙図-3)に搭載されているX線カメラのうち、ガススリットカメラ(GSC)(別紙図-4)を用いて、日本時間の平成21年8月15日から平成21年10月29日までの間に取得されたデータから作成されたものです。赤い天体は低いエネルギーのX線を放射している天体で、青い天体は高いエネルギーを放射している天体です。
 この画像では約180個のX線天体が目視でも認識でき、このような全天カラー画像がわずか2カ月余りで得られたのは世界で初めてのことです。また、このX線エネルギー範囲での全天画像は30年前の米国のHEAO衛星が2年間観測したデータを使用して合成されたものがありますが、それ以来取得されておらず、約30年ぶりとなります。
(HEAOによる画像:http://antwrp.gsfc.nasa.gov/apod/ap960102.html)。
 さらに、MAXIは、観測を開始してからこれまでに急に増光した天体5個について、国際的なネットワークに速報をしました(図-2のA0535+26、GRB090831A、GRB090926B、XTE J1752-223及び4U2206+54)。


図-2 主要なX線天体とMAXIが検出した増光天体
(詳細な解説は別紙をご覧下さい。)

 MAXIはこのような観測を繰り返すことにより、全天で1000個を越えるX線天体の1日から数カ月にわたるX線の強度変化を90分に1回の間隔で監視し、いわばX線による全天の動画をカラー撮影します。この時間の尺度で、クエーサーなどの銀河系外の活動天体を、MAXIほどの高感度で系統的に全天モニターするのは初めての試みです。検出限界は、宇宙X線の観測で標準天体として使われる「かに星雲」の強度の1000分の1に達します。また、今後、観測を重ねることにより、これまでの全天型のX線観測装置の10倍を超える感度に到達する見込みです。
 MAXIチームには当該発表機関のほか大阪大学、東京工業大学、青山学院大学、日本大学、京都大学、宮崎大学の研究者が参加し、解析・運用を共同で行っています。



別紙

 MAXIは、平成21年7月16日にスペースシャトル エンデバー号により打ち上げられ、同24日に若田飛行士によるロボットアーム操作で「きぼう」船外実験プラットフォームに取り付けられました。8月3日より順次機器の初期チェックアウトを行ってきましたが、これまでにチェックアウト作業が完了し、X線天体の観測データ蓄積を行っています。観測されたデータについては、X線天体の位置やエネルギー強度を正確に決定するための較正処理作業を実施しており、12月中旬からの公開に向けて準備を進めています。
 MAXIは平成9年4月に行われた「きぼう」船外実験プラットフォームの初期利用テーマの公募で理化学研究所から提案され、厳正な審査により採択されたミッションです。MAXIは宇宙空間を直接観測できる「きぼう」船外実験プラットフォームでこそ可能なミッションとして選ばれました。
 MAXIでは、電力供給や姿勢制御、通信などの基本機能をISSに依存することができるため、従来より大型の検出器を搭載することが可能になり、その結果、天体が放出するX線をこれまでの全天監視型の観測装置より10倍高い感度で検出できます。MAXIは超新星やブラックホールと関わりの深いX線新星、γ線バーストなどの変動現象を世界中に速報し、光や電波などとの多波長による同時観測を促進します。さらに、変動する全天X線源のカタログを作成し、これまでに知られていなかった暗いブラックホールや中性子星などを検出するとともに、活動銀河など激動する宇宙の姿を明らかにすることを目指しています。
 MAXIの結果は既にイタリア、米国などで開催された4つの国際学会で発表され、新しい全天X線監視装置として国内外の研究者から注目され、期待されています。
 MAXIは今後少なくとも2年以上にわたり「全天を見渡すX線の眼」として活躍することが国際的に期待されています。MAXIの成果をもとに、X線天文衛星「すざく」や、日本も参加しているスイフトγ線バースト衛星とフェルミγ線天文衛星、2013年打ち上げ予定のX線天文衛星ASTRO-Hといった詳細観測型のX線γ線天文台に緊急観測を要請するなど、協力して研究を進めます。


図-3 MAXIの外観


図-4 MAXIによる全天観測の方法

ガススリットカメラは、国際宇宙ステーションの進行方向と天頂方向にそれぞれ1.5°×160°の円弧状の固定視野を持つため、国際宇宙ステーションが地球の周りを1周する毎(約90分毎)に、ほぼ全天のX線天体の強度分布図が得られます。


図-5 合成に使用した各エネルギーバンド毎の全天X線の元画像

eV(電子ボルト)は光子1個が持つエネルギーの単位でkeVはその1000倍の強さとなります。(可視光線の約1000倍のエネルギーに相当します。)


<図-2の詳細解説>
 MAXIはISSの1周回毎に変動する天体を監視し、突発的なX線増光等についての速報を国際的なネットワークを通してこれまで5回行いました。図-2は、観測されたX線のエネルギーに対応してエネルギーの低いものから順に赤、緑、青の色をつけて分類し(図-5)、それを合成して擬似カラー処理を行ったものです。赤い天体は低いエネルギーのX線を放射している天体で、青い天体は高いエネルギーを放射している天体です。速報した天体を含めいくつかのX線源を太い丸で示しています。また、銀河中心から左右に延びる天の川に沿って、淡く広がるX線は、その起源について現在も学会で論争が続く「銀河面リッジX線放射」です。


さそり座X-1: X線観測で初めて発見された中性子星をもつX線源です。
かに星雲: 1054年に爆発した超新星の名残りで中心に中性子星があることが知られています。
宇宙X線の強度の標準として使われています。おうし座にあります。
はくちょう座X-1: 初めてブラックホールの存在が指摘されたX線天体です。
GRS1915+105: 光速に近いジェットを放出するブラックホール候補天体で、マイクロクエーサーと呼ばれています。
わし座にあります。
ケンタウルス座A: ケンタウルス座にある巨大ブラックホールをもつ活動銀河で激しいX線強度変化を示します。
A0535+26: 111日周期で明るくなるトランジェントX線パルサー(速報報告済)。おうし座にあります。
GRB090831Aと
GRB090926B:
ガンマ線バースト(速報報告済)。おおぐま座、ろ座で発生しました。
XTE J1752-223: 10月24日5時(JST)に銀河中心付近(いて座)に出現したX線新星(速報報告済)。
4U2206+54: 中性子星が92.6分の周期で回転している珍しいX線パルサー(速報報告済)。
ケフェウス座にあります。