金承祚(キム・スンジョ) 韓国航空宇宙研究院(KARI)院長 1985年、米国テキサス大学オースティン校卒業。1986年〜ソウル国立大学機械航空工学科にて教鞭をとる。1988年、ソウル国立大学電子コンピュータ工学科長。2004年、韓国物理学会特別会員。2006年、韓国航空宇宙産業、航空技術諮問委員会委員長。2010年、米国航空宇宙協会特別会員。2011年より現職。
韓国航空宇宙研究院(KARI)の本部
KSR-Iロケット(提供:KARI)
羅老宇宙センターの発射台に設置された羅老ロケット(提供:KARI)
KARIは航空宇宙の研究開発を担う政府機関として1989年に発足しました。韓国における航空宇宙分野の研究開発を主導するだけでなく、それに伴う産学研(産業、大学、KARI)の連携を進めるのもKARIの役目です。韓国はほかの先進国と比べると宇宙機関の設立が遅かったのですが、現在は職員の数が約700人になるまで成長しました。関連する企業や研究者の方を含めると、約1000人がKARIで働いています。また韓国の宇宙予算は、2010年が3600億ウォン(約261億円)、2011年は2700億ウォン(約196億円)でした。宇宙先進国と比べると少ないですが、今後は国産のロケットや人工衛星の開発を推進しますので、韓国の宇宙予算の額は増えていくと思います。 Q. 韓国のロケット開発は、どのような歴史を歩んできたのでしょうか? これまで韓国が開発したロケットは、観測ロケットのKSR(Korea Sounding Rocket)と人工衛星打ち上げロケットのKSLV(Korea Space Launch Vehicle)シリーズです。KSR-Iは単段式の固体ロケットで1993年に、後継機のKSR-IIは2段式固体ロケットで、1997年と1998年に打ち上げられました。KSR-IとIIは共に成層圏のオゾン層の観測が目的です。続くKSR-IIIは液体燃料ロケットで、「羅老(ナロ)1号(KSLV-1)」の開発に向けた試験的な意味合いもありました。
羅老ロケットは衛星を搭載して宇宙空間に放出することを目的とし、液体燃料を積んだ1段目と、固体燃料を積んだ2段目で構成されるロケットです。砲弾のように単に上昇して下降してくる観測ロケットよりも、高度な技術を要します。宇宙開発を始めて間もない我が国が衛星搭載可能なロケットを作るというのは、諸外国からは無謀なことだと思われたかもしれません。しかし時には、いきなり大きな目標を掲げ、それに向かう橋が危ないと分かっていても渡ってしまうような、「石橋を渡ってから叩く」ことがあっても良いと思うのです。
その後いろいろ検討した結果、私たちは、ロケットの1段目の技術をロシアから導入することにしました。そして2009年6月に、フランスとロシアからの技術協力を受けた韓国初のロケット発射場、羅老宇宙センターが完成。同年、8月には羅老1号を、2010年には羅老2号を羅老宇宙センターから打ち上げました。ところが、残念ながら2回の打ち上げは失敗に終わってしまったのです。今年中に3回目の打ち上げに挑戦しますが、今度は何としても成功させなければならないと思っています。
多目的実用衛星アリラン5号(提供:KARI)
多目的実用衛星アリラン5号の電磁適合性試験の準備(提供:KARI)
韓国初の衛星は、国立大学のKAIST(韓国科学技術院)が開発した超小型衛星「ウリビョル1号(KITSAT-1)」で、1992年に欧州宇宙機関のギアナ宇宙センターから打ち上げられました。ウリ衛星の目的は衛星技術の取得と技術者の育成で、3号機まで打ち上げられ、地球観測や宇宙線測定などの技術実証試験を行いました。その後、KAISTは科学技術衛星(STSAT)シリーズの開発も行い、今年中に、科学技術衛星3号(STSAT-3)がロシアで打ち上げられる予定です。この3号機は大気観測や環境監視のほか、銀河を観測します。
また、KARIは海外の衛星メーカーとの協力で、多目的実用衛星「アリラン」を開発し、1号は1999年にアメリカで打ち上げられました。次の「アリラン2号」は2006年にロシアで打ち上げられ、設計寿命を終えた今でも地球観測を行っています。今年は、「アリラン3号」が日本の種子島宇宙センターで、「アリラン5号」がロシアで打ち上げられる予定です。共に光学カメラを搭載しますが、5号には合成開口レーダーも搭載しますので、悪天候の場合や夜間でも地上を観測することができます。また、赤外線観測装置を搭載した「アリラン3A号」の開発にもすでに入っています。
一方、2010年には、韓国初の静止衛星である気象衛星「千里眼(COMS-1)」をギアナ宇宙センターから打ち上げました。「千里眼」は韓国が設計し、ヨーロッパのアストリウム社が製造した衛星で、この打ち上げ成功により、韓国は世界で7番目の静止衛星保有国となりました。「千里眼」は現在も順調に運用されています。その後継機では、気象観測と海洋環境観測を目的とした2つの衛星を打ち上げることを検討しています。
さらに、宇宙環境の観測を目的とした「羅老科学衛星」が、今年打ち上げを行う羅老ロケット3号機に搭載されますので、2012年には4機もの衛星が打ち上がることになります。まさに今年は人工衛星打ち上げラッシュの年で、すべての打ち上げが成功することを願っています。
KALV-2ロケットの完成予想図(提供:KARI)
韓国の宇宙政策は、2005年に制定された宇宙開発振興法に基づいて作られた宇宙開発中長期計画に沿って進められています。その中で重点を置いているのが、KSLV-2という純国産の衛星打ち上げロケットを開発するプロジェクトです。羅老ロケットで蓄積された技術や経験を生かし、自国の衛星を自国のロケットで打ち上げること。これは私たちの大きな目標です。
KSLV-2ロケットは3段式の液体燃料ロケットで、全長約50m、直径3.3m、1.5tの衛星を地球低軌道に投入します。現在の羅老ロケットで打ち上げることができる衛星の重量は、低軌道に100kg程度ですから、KSLV-2の打ち上げ能力はかなり高くなります。そして、これを可能にするのが75t級のエンジンであり、このエンジンの開発こそが、KSLV-2ロケット実現に向けた核心部分となります。このロケットの打ち上げ目標は2021年です。2011年からKSLV-2の本格的な開発をスタートしました。75t級のエンジンに対応した地上試験施設の整備も始めましたし、羅老宇宙センターの発射場の拡張工事なども行う予定です。
また、ロケットだけでなく人工衛星についても、技術水準の向上に力を入れています。「アリラン」や「千里眼」といった韓国の衛星は海外からの技術支援を受けていますが、将来的にはすべて韓国の技術だけで作ることを目指しています。とにかく今の最重要課題は、自国の技術力強化と自立化です。 Q. 韓国では宇宙飛行士の育成が行われているのでしょうか? 韓国は2008年に有人宇宙活動の第一歩を踏み出しました。韓国人として初めて、イ・ソヨンがロシアのソユーズ宇宙船に乗って宇宙へ行き、国際宇宙ステーションに10日間滞在して、さまざまな科学実験を行ったのです。現在のところKARIでは宇宙飛行士の育成を行っておりませんが、韓国空軍などは宇宙飛行士の育成に関心を持っていると聞いています。