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宇宙で楽しく働き未来につながる成果を残したい

JAXA宇宙飛行士 星出彰彦 星出彰彦宇宙飛行士は、第32/33次長期滞在クルーとして、2012年7月から約4ヵ月間、国際宇宙ステーションに長期滞在する予定です。2008年にスペースシャトルに搭乗して「きぼう」日本実験棟船内実験室の取り付けを行って以来、2度目の宇宙飛行となります。今回初めての宇宙長期滞在に挑む星出宇宙飛行士に、ミッションの内容や現在の心境を聞きました。
  • 宇宙環境を利用した新しい試みに挑む
  • 「こうのとり」3号機の到着が待ち遠しい
  • 継続してきたからこそ、「宇宙は遠くない」と言える
  • 強い好奇心、どんな訓練も楽しく参加
  • 極めて信頼性の高いソユーズ宇宙船に搭乗
  • 宇宙で働くことは特別なことではない
  • チーム全体の成功に貢献できる喜び

宇宙環境を利用した新しい試みに挑む

Q. 今回はどのようなミッションですか?

「きぼう」日本実験棟のロボットアーム(提供:JAXA/NASA)
「きぼう」日本実験棟のロボットアーム(提供:JAXA/NASA)

水棲生物実験装装置を用いて生命科学実験の訓練を行う星出宇宙飛行士
水棲生物実験装装置を用いて生命科学実験の訓練を行う星出宇宙飛行士

 宇宙環境を利用したさまざまな実験を行いますが、そのうち滞在中の新たな作業として小型衛星の放出ミッションとメダカの実験があります。まず小型衛星放出ミッションは、宇宙ステーション補給機「こうのとり」3号機を使って、一辺約10cmの立方体の小型衛星とその放出装置を打ち上げ、「きぼう」日本実験棟の船内で組み立てます。それを「きぼう」のエアロックを使って外に出し、「きぼう」のロボットアームでつかんで放出する方向にもっていき、放出します。

 最近は小型衛星の打ち上げ需要が増えていますが、大型の人工衛星と一緒に打ち上げる場合には、ロケットの振動環境などに関して小型衛星にも大型衛星と同じ厳しい条件が課せられます。ですから開発費などが結構かかってしまい、小型衛星といっても手軽に打ち上げられるというわけではありません。しかし、今回の場合ですと、小型衛星を梱包して「こうのとり」で打ち上げますので、そのような厳しい条件をクリアする必要はありません。また、衛星を軌道に投入する直前まで、国際宇宙ステーション(ISS)でチェックや試験をすることができるというメリットもあります。宇宙飛行士が船外活動をすることなく、これができるのは、「きぼう」にエアロックとロボットアームがあるからです。このような小型衛星打ち上げの方法があれば、将来的には新しいビジネスにつながっていくかもしれません。

 メダカの実験では、メダカを長期間飼育できる水棲生物実験装置を「こうのとり」3号機でISSに運び、宇宙で長期間にわたってメダカを育て、無重力が生物に与える影響、特に骨や筋肉に与える影響を調べます。この実験で飼育するメダカは、私がISSに滞在している間にロシアのソユーズ宇宙船で運ばれる予定です。この実験で得られる知見は、地上での骨粗しょう症や筋力低下の予防につながるのではないかと期待されています。

 また、私がISSに滞在している間、ロシアのプログレス補給船が2回、「こうのとり」が1回、そのほかアメリカの民間の補給船が到着する予定です。クルーと一緒に、運ばれた物資を所定の場所に収納したり、ISSから分離する「こうのとり」3号機に不要品を積み込むなどの作業をします。そのほか、船内の掃除や水の再生処理など日々のメンテナンス作業、教育イベントなども予定されています。

「こうのとり」3号機の到着が待ち遠しい

Q. 自由時間にぜひやってみたいことはありますか?

ISSから見た富士山(提供:NASA)
ISSから見た富士山(提供:NASA)

 ISSから日本列島を見たいです。前回のフライトの時は、スケジュールの関係でISSから日本を見ることができなかったんです。帰りのスペースシャトルの中から東北から能登半島まで見ることができましたが、西日本は雲がかかって見えませんでした。今回の長期滞在中に、宇宙からじっくり日本を見たいと思います。 Q. 前回、軌道上で苦労し、今回はマスターしたいと思っていることはありますか?  前回は、ISS内を移動する際に、身体のコントロールが完璧にはできませんでした。例えば、両手を前に出して飛ぶように移動しようとした時、変な力が入ってしまっているのか真っすぐに飛べず、身体が回転して背中や脚から着地してしまうんです。長期滞在をしていたクルーを見ると、ピューと飛んで目的の場所でピタッと止まっていました。それを「すごい!」と思って見ていたのですが、今度は自分も思い通りに動けるようになりたいですね(笑)。

Q. 今回のミッションで楽しみにしていること何でしょうか?

ISSに接近する「こうのとり」1号機(提供:NASA)
ISSに接近する「こうのとり」1号機(提供:NASA)

 私は、2008年に「きぼう」の船内実験室をスペースシャトルで運んでISSに取り付けましたが、この時は取り付けただけで、長期滞在クルーに引き渡して帰って来ましたので、そこで実験をするところまではいきませんでした。ですから、自分が取り付けた「きぼう」にもどって仕事ができることをずっと待ち望んでいたのです。そういう意味では、ミッションのすべてが楽しみです。

 中でも特に楽しみなのは、滞在中に「こうのとり」3号機がやってくることです。私は2009年の「こうのとり」1号機のときに、宇宙飛行士との交信担当やロボットアーム手順の確認など、地上からサポートさせてもらったので、「こうのとり」への思い入れがとても深いんです。今度は自分が宇宙にいる間に「こうのとり」を受け入れると思うと、とてもワクワクします。

継続してきたからこそ、「宇宙は遠くない」と言える

Q. ミッション中、「自分はこうでありたい」と決めていることはありますか?

「きぼう」運用管制室
「きぼう」運用管制室

前回の宇宙滞在にて。食事をとる星出宇宙飛行士(提供:NASA)
前回の宇宙滞在にて。食事をとる星出宇宙飛行士(提供:NASA)

 一緒に長期滞在するクルーは訓練などを通して気心が知れた仲間なので、和気あいあいとした雰囲気でやっていけると思います。忙しくなりすぎるとミスに通じかねないので、お互いにケアする心遣いを忘れないようにしたいですね。軌道上にいるクルーとだけでなく、地上のスタッフとも、楽しく協力しながら仕事ができればいいなと思います。何事も「楽しむこと」が大事だと思いますね。 Q. 今回のミッションで特にここを見てほしい!というところを教えて下さい。  チームとして「継続」してやっているんだというところを見ていただきたいですね。継続していると"新しさ"が無くなり、ニュースになるようなことが次々に起こるわけではないので、興味を持って見ていただきにくくなるかもしれません。しかし、継続しているからこそ分かること、身に付いたことがたくさんあります。また、継続してきたことによって、宇宙の生活が「日常」になること、日本人が宇宙にいることが当たり前になることは、日本の有人宇宙活動のレベルを示す1つの到達点だと思うんです。

 昨年、古川聡宇宙飛行士がISSに長期滞在中に、日本人宇宙飛行士の宇宙滞在時間が、ロシア、アメリカに次いで世界第3位になりました。また、筑波宇宙センターでの「きぼう」の運用は、特に大きな問題もなく4年近く続けられています。その間、多くのことを学べたからこそ、まるで当たり前のように運用を続けているのですが、これらは、日本が継続して有人宇宙活動に取り組んできた成果だといえます。その中で、私たち宇宙飛行士の任務は、毎日毎日の決められた仕事を軌道上できちんとこなしていくことであり、それをみなさんに伝えていくことだと思います。私たちは軌道上で食事もするし、トイレにも行く。ISSは普通に生活をしている空間なんですよね。みなさんに、宇宙での私たちの「日常」を見ていただくことで、"身近にある宇宙"を感じてもらえたらとても嬉しいです。

 私は、いずれみなさんが宇宙に出て行く時代がやってくると信じています。私はそれより少し前に宇宙へ行き、その道を作る者として、「宇宙は遠くないんだ」ということをみなさんに伝えることができたらと思っています。

  
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