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Q.飛行船を成層圏のような高い所にあげるのに一番むずかしいことは?

 飛行プロファイルを決定するとき最も考えなければいけない部分が、外気温と内部のガスの温度の変化や、それによる膨張収縮で起きる浮力の変化がどう影響するか、なのです。
 機体の内部のガスは冷えると縮み、暖まると膨らむのはおわかりだと思います。機体が冷えるファクターとしては、上昇に伴う外気温の低下がまず上げられます。上昇の速度が速いほど内外の差が大きくなり、浮力に効いてきます。
 また、上昇するためには、飛行船内部バロネット(空気袋)の空気を外に排出しますが、そのときに「断熱膨張」で内部温度が下がり、これも浮力に影響します。さらに機体に風が当たることで無視できない量の熱が逃げていきます。機体表面での結露や蒸発がこれにからんでおり、もちろん対気速度も考え合わせなくてはなりません。
 入熱のほうでは、太陽光による加熱が要因としてあり、これは天候や日射の強さ、日射にさらされた時間に左右されます。また下降する際には周囲温度の上昇や「断熱圧縮」など、上昇時とは逆のことが起こります。
 このように、時々刻々と飛行船の内外の温度が変化し、それにともない複雑に浮力が変化します。その変化を適切にとらえ、機体を安定した高度や姿勢に保つところが、非常に技術のいる部分です。



 内閣府のミレニアムプロジェクトとして、大きな期待を背負って始まった成層圏プラットフォームプロジェクトは、現在、2種類の試験機を用いて要素技術や運用のノウハウを蓄積している段階にあります。
 昨年8月には、日立港(茨城県日立市)で「成層圏滞空試験機」の試験を行いました。さしわたし47mにも及ぶ大型の試験機で、成層圏と呼べるだけの高度に飛行船を到達させることができるかどうか。そのために、膜材をはじめとする材料や構造設計はどのようなものでなければならないかを、検証するための試験機でした。機体が非常に大きいので、当たる風によって機体が折り曲げられるような力が働く場合もあります。そうした困難を乗り越え、成層圏滞空試験機は無事16kmに達しました。

 そして、ここ大樹町で行われているのが、「定点滞空試験」です。無線の中継基地や、地上の監視のため、上空の一点に留まる能力が必要になります。が、いくら風が比較的穏やかな成層圏20kmだといっても、風はありますし、そこに到達するために動力や制御が必要です。外気温や浮力にかかわる飛行プロファイルの問題もありますし、推力が必要十分で過不足ないものかどうか、あるいは地上でのハンドリングを無理なくすすめることができるかどうか、そうしたさまざまなファクターを確認するための試験を行っているわけです。
 JAXAの中では決して規模の大きなプロジェクトではありませんが、雑誌等のメディアにもその使い途の多様性や優位性に期待が寄せられ、多数取り上げられています。また、セキュリティ(監視)を目的に、成層圏プラットフォームのような飛行船の研究開発が各国でもスタートしているようです。
ツェッペリン号に象徴される、かつての旅客飛行船。広告や遊覧用途として見える現在の飛行船。そして高速大容量無線通信の強力なプラットフォームとなる、未来の飛行船。
 寄せられる大きな期待に応えられるよう、そこにつながる実験成果を上げていきたいと思っています。初夏から秋、そして冬に向かうなかで、実験のほうもヤマ場を迎えていますが、機会をとらえその成果を皆さんにお知らせしていきたいと思います。


画像協力:北海道大樹町

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