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「星の王子さま」への旅 −小惑星が教えてくれること−
再び、星の王子さまへ

 星の王子さまは、地球に来てからちょうど1年後、故郷の小惑星へと帰っていきます。ちょうど1年後に、王子さまが地球に降り立った場所の真上に、王子さまの小惑星がくるからです。物語の詩的な雰囲気を壊してしまって恐縮ですが、これはちょっと設定がおかしいですね。小惑星は地球とは別の公転周期で太陽を回っているのが普通ですから、小惑星が1年後に地球から見て同じ場所に戻ってくることはまずありません。もちろん、地球と同じぴったり1年の公転周期ならばそのようなことはあり得ますが、そうしますと星の王子さまの小惑星は、非常に特別な小惑星ということになります。そして、地球軌道のすぐそばにあることにもなります。つまり、星の王子さまの小惑星は地球に接近してくるNEOだった、ということですね。


 実は、小惑星イトカワも、地球に接近するNEOの1つです。最近では、2004年6月26日に0.01天文単位(約150万km)まで地球に接近しましたし、その前は2001年3月29日に、0.04天文単位(約600万km)まで地球に接近しました。イトカワの場合には、接近の間隔が3年余りありますから残念ながら星の王子さまの故郷の小惑星ではなさそうですが、公転周期がほぼ1年の小惑星もいくつか発見されています。そのような小惑星が星の王子さまの小惑星なのかもしれません。


図8:人類の英知により危機を回避
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CGはJSGAの西山広太氏による。

 ということはですよ、星の王子さまは意外にも地球の近くにいて、いつも地球を見ているのかもしれません。そして、人類があまりにも身勝手なことばかりしていると、恐竜が滅んだときのように、人類も滅ぶと警告しているのかもしれません。ひょっとして、これが、サン=テグジュペリが、星の王子さまの故郷として小惑星を選んだ理由なのでしょうか。


 物語のなかで王子さまが地球でキツネから学んだことがあります。それは、「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目にみえないんだよ。」ということです。現代のように動きの激しい時代においては、この言葉はいっそう重要な意味を持ってきていると思います。これからを担う若い世代の皆さんには特に認識して欲しい言葉ですし、若くなくても「帽子の中」をわかろうとする心は持ち続けたいですね。

「星があんなに美しいのも、目に見えない花が1つあるからなんだよ……」  星の王子さまより (c) Akemi Ogura 2005

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「宇宙科学研究本部 宇宙情報・エネルギー工学研究系 助教授」  吉川 真  -略歴- 1962年、栃木県栃木市生まれ。東京大学理学部天文学科を卒業し、同大大学院に進学する。理学博士。日本学術振興会の特別研究員、郵政省通信総合研究所(現在の情報通信研究機構)の主任研究官を経て、1998年に文部省宇宙科学研究所に異動し、現在に至る。専門は天体力学。小惑星や彗星のような太陽系小天体の軌道解析が専門。現在は、人工衛星や惑星探査機などの軌道決定についても研究を進めている。