6,500万年前に、恐竜を含めて多くの生物種の絶滅が起こりました(図6)。地質年代が、大きくは中生代から新生代に、細かく言えば白亜紀から第三紀に移り変わったわけです。それまで栄えていた大型の生物である恐竜が姿を消して、主役がほ乳類となりました。この生物界の大転換の原因は何だったのでしょうか。
いくつかの説が出されていますが、その中に、小惑星のような小天体の衝突が絶滅の引きがねになったという説があります。この説では、小惑星が地球に衝突したことによって、地球環境が大きく変化してしまい、恐竜を含む多くの生物種がその変化に耐えられなかったというものです。環境の変化に耐えることができたのがほ乳類などの生物で、その後、繁栄することになりました。
メキシコのユカタン半島には、6,500万年前の天体の衝突跡と考えられているクレーターが発見されています。クレーターと言っても、ほとんど地中に埋もれてしまっていて、地表面を見ただけでははっきりとは分りません。このクレーターは、チクシュルーブ(マヤ語で「悪魔の尻尾」)・クレーターと呼ばれており、直径が180kmほどあります。衝突してきた天体は、直径が10km程度と推定されています。地球の直径は13,000kmもありますから、直径10kmの天体がぶつかってきても、大型トラックに蚊が衝突するようなもので、地球そのものは特にどうということはありません。ですが、地球表面の環境が大きく変化してしまったのです。
1994年には、シューメイカー・レビー第9彗星が木星に衝突するという出来事がありました。このときは、20個ほどに分裂した彗星核が次々と木星に衝突しました(図7)。それぞれの彗星核の大きさは5km程度と推定されていますが、木星表面には地球の大きさにも匹敵するほどの巨大な衝突跡を残したのです。これは、衝突時のエネルギーのものすごさを物語っています。もちろん、木星と地球を直接には比較できませんが、仮に地球に天体が衝突してくると、かなり大変なことになることが想像されます。このようなことが起こると大変ですから、現在「スペースガード」という活動が行われています。
スペースガードでは、地球に衝突してくる可能性のある天体を早期に発見することを目指しています。小惑星のような天体の場合、観測を続けてデータを蓄積すれば、その軌道を正確に求めることができます。軌道が正確に決まれば、あとは計算によって、地球に衝突するかどうか、また衝突するのならいつ衝突するのかが分ります。幸い、現在までに発見されている小惑星で近い未来に地球に衝突するものはありません。ですが、まだ発見されていないものが沢山ありますから、それらを早めに発見することが重要なのです。
確かに、天体の地球衝突は、想像するだけでも怖いことです。ですが、ちょっと視点を変えてみましょう。もし、恐竜の絶滅がたった1個の小惑星の衝突によって引き起こされたという説が正しいとすると、仮にその衝突が起こらなかったら、現在もまだ恐竜の世界が続いていたかもしれないことになりますね。人類を含むほ乳類は、片隅に追いやられて‥‥。そう考えると、小惑星は人類を地上に誕生させてくれた恩人なのかもしれないのです。でも、今の人類にとっては、小惑星が衝突してくることはやはり脅威です。「人類の危機管理」としても、小惑星をきちんと把握する必要があります。