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ソユーズを理解することに加え、実はロシア語も難関でした。地上とのコミュニケーションやインジケーターの表示は全部ロシア語ですから、これは訳さずロシア語のまま覚えなければなりません。
講義ではロシア語から英語への通訳の方もついてくれたので、概念を英語で理解している部分もかなりあります。また、私にとって軌道力学や姿勢制御の概念は日本語でも理解がたいへんな分野です。エンジニア出身の星出、山崎両飛行士にほんとうに助けられました。また「減圧症による脳神経症状」「脳塞栓」といったロシア人の通訳も困るような専門用語を手助けしてあげることもありました。
訓練を終え、ソユーズのシステムを理解できたという手応えは確たるものがあります。ですが、それをどの言語で理解しているのかは、実は自分でも分かりません。ともあれ3人で、そして現地や日本の多くのスタッフのみなさんに支えられ、訓練を乗り切ることができたという達成感を味わっています。
そしてNASAで、これからMS(ミッション・スペシャリスト)訓練に取り組みます。
ISS搭乗宇宙飛行士としての私たちは、いわばタクシーで目的地まで連れて行ってもらう「お客さん」の立場でした。本格的な仕事は、目的地であるISSに到着してから始まることになっていました。
しかし今後、MS資格を取得すれば、スペースシャトルの運航やISSの建設に関われる可能性も出てきます。訓練を通して自らの可能性を広げながら、搭乗のチャンスを大きく広げていきたいと思っています。
また、ソユーズのフライトエンジニアとNASAのMSという二つを身につけた宇宙飛行士は、まだそう多くはないので、日本人宇宙飛行士としてそういう点をアピールし、搭乗のチャンスをつかみたいと思っています。
宇宙飛行士に採用されたときには「5年後には……」と聞かされ、ほんとうならもう飛んでいるはずでした。しかし今も「5年後……」という状況です。採用時、毛利飛行士に「飛ぶんだ、飛びたいんだという、強い気持ちがないと待てないよ」と聞かされましたが、ああ、このことだったのかという思いです。
ただ、訓練は楽しく、新しいことを学ぶ刺激に満ちています。前向きな気持ちも持ち続けています。
余談ですが、ロシアに行き来を続けていたあるときモスクワのシュレメチボ空港で、山崎飛行士と私が航空会社のオーバーブッキングで足止めを食ってしまったことがありました。二人でカウンターに掛け合い、マネージャークラスの人に抗議して、座席は空かなかったものの、携行した訓練機材の超過重量料金をまけてもらうことができました。交渉の落としどころとしてはまずまずだったと思いますし、ロシア語でこれだけ交渉ができるようになったのも訓練の成果だったんでしょう(笑い)。
NASAでも、モスクワの空港と同じく
「ドカキフポール、ヤードルジェンジュダーチ! パブイストレイエ パサジーチェ ブサマリョート. (いつまで待たせるんだ、はやく乗せなさい!)」 という意気で、頑張ります(笑い)。
(2004年6月8日、JAXAiにて) |
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