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―― そういう意味での未来の国力かき立て型公共事業になるのは宇宙開発だけではありませんね。

立花 あらゆる巨大科学プロジェクトが同じような効果を持ちます。だからこそ国家戦略的見地からものを考えることが重要になります。つまり、どのような技術力、どのような技術マンパワーを身につけるのがこれからの日本にとって有利か、という国家戦略的見地からのリソース投入の優先順位決定が必要になってくるということです。
 いずれにしても、先端科学技術をおしすすめ、その方面で世界のリーディングパワーでありつづける以外に日本の生きる道はないと思います。昔、日本が戦争国家であった時代には、「高度国防国家建設へ」というのが国のスローガンでしたが、「高度科学技術力国家建設へ」「高度教育力国家建設へ」というのが、いまの日本にあるべきスローガンだと思います。

―― 有人の話に戻ると、有人をやることで、シビアな条件をクリアしていくほうが技術力を高めるという声もありますが。

立花 そういう側面もないではありませんが、ぼくは、有人をやめることで別の側面の技術力を高めるほうが日本のためになると思っています。それはロボット化ということです。ロボット化というのは、もちろんヒューマノイド化ということではなくて、高度インテリジェント自動制御機械化ということです。
 有人でやらないものは、基本的にロボットでやることになります。現実問題として、いまの宇宙技術はすでにほとんどがロボット化しています。宇宙機も有人のもの以外、すでにそれ自体がロボットです。これからも、宇宙進出がさらに進めば進むほど、通信時間の関係でリモコンは不可能になりあらゆるものが、さらにロボット化されざるをえない。
 ロボット技術は日本が世界で圧倒的に優位性を誇っている技術です。ヒュ―マノイド、エンタテイメントロボットはもちろん、産業用ロボットなど、日本のメーカーが事実上、世界中に一手供給しています。日本の宇宙技術力は、必ずしも世界で上位にあるとはいえないが、宇宙ロボットなら、日本のメーカーが世界一になれる潜在的競争力を持っています。たとえばコロンビア号の事故で問題になったシャトルの外壁点検など、日本のビル外壁面掃除ロボットを使えば、すぐにでも簡単にできます。
 日本の技術の特性を生かした宇宙進出をしよう思ったら、有人はほどほどにして、ロボットでどんどん宇宙進出をすべきです。スペースステーションでもロボットをどんどん利用すればいいし、月や火星にもロボットをジャンジャン送るべきです。もちろんヒュ―マノイドタイプのロボットということではありませんが、いちど、シンボリックな絵を撮るためだけに、ヒュ―マノイドを月に送ってみるのも面白いかもしれません。月面を歩きまわるアシモの姿なんて、考えるだにゾクゾクしますね。日本の技術の優位性と特異性を見事に示す絵になると思います。もちろん、アシモが月面にいっても現実的には何の役にも立ちません。それにすぐ動けなくなります。しかし、ヒューマノイドが月に行って、二歩でも三歩でも自律歩行してみせたら、21世紀はロボットの時代のシンボリックな行為として、それ自体が人間技術の一つの到達点を示すものとして、歴史に刻まれることになるでしょう。考えてみればアメリカのアポロ計画で人間を送り込んだのだって、シンボリックな行為としてやったことです。人間がやったことはほとんどロボットですむことでした。それをわざわざ人間にやらせたことには、アメリカ技術の優位性をシンボリックに示す効果しかなかったといえます。それと同じことです。日本の国家のプレステージを示すためにもやってみせる価値はあります。
 さらに長期的には、月(火星)にロボットをどんどん送りこんで、基地を作らせロボットに月(火星)開発をやらせてもいいし、月の裏側に月面天文台を作らせてもいい(そうすると、地球からの電磁波に妨害されず、最高の観測ができるはず)。
 JAXAにはそれくらい大きな夢を描いてほしいですね。


[ インタビュー収録:2003.9.27 ]
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