ご覧いただいているページに掲載されている情報は、過去のものであり、最新のものとは異なる場合があります。
掲載年についてはインタビュー 一覧特集 一覧にてご確認いただけます。


日本とインドの国際協力で新たな宇宙開発時代を築く インド宇宙研究機関(ISRO) 総裁 マダヴァン・ナイール(Madhavan Nair)
インドの宇宙開発の歴史は古く、1960年代初頭にはじまり、1972年には現在のインド宇宙機関(ISRO)が設立されました。これまでに大型ロケットや人工衛星などの開発に成功し、近年では宇宙科学にも力を入れています。インドと日本の関係は、1993年に発足した「アジア太平洋宇宙機関会議」へのインドの参加をはじめ、2005年からはじまった防災対策「センチネル・アジア」、2007年7月の宇宙X線観測分野での協力など、ますます親密になってきています。世界の一翼を担う宇宙開発機関、インド宇宙研究機関(ISRO)のマダヴァン・ナイール総裁に、インドの宇宙開発の現状や日本との国際協力、宇宙開発の意義などについてお話をうかがいました。

マダヴァン・ナイール(Madhavan Nair)
インド宇宙研究機関(ISRO) 総裁
ケララ大学工学部卒。1967年からロケット開発に携わり、インド初の衛星打上げロケット、SLV-3の開発に従事する。1995年から99年、液体推進システムセンターの所長となり、インド初の静止衛星打上げ用液体ロケット「GSLV」の開発に貢献。その後、インドのロケット開発の中枢、ヴィクラム・サラバイ宇宙センター所長を経て、2003年、インド宇宙研究機関(ISRO)総裁に就任。
インドの宇宙開発計画
月探査機「チャンドラヤーン1」(提供:ISRO)
月探査機「チャンドラヤーン1」
(提供:ISRO)

PSLVロケット(提供:ISRO)
PSLVロケット(提供:ISRO)

天文観測衛星「ASTROSAT」(提供:ISRO)
天文観測衛星「ASTROSAT」
(提供:ISRO)
Q.インドの宇宙開発はどのような現状ですか?

インドでは宇宙開発を国家的な公益事業と位置付け、地球観測などのリモートセンシング、通信事業、そして災害対策に力を入れています。現在、日本と共同で進めている「センチネル・アジア」は、宇宙技術や地球観測衛星をアジア太平洋地域の災害対策に役立てることを目的としていますが、自然災害の多いわが国にとっては、「地域への貢献」という意味でもとても魅力的なプロジェクトです。それと同時に、現在わが国は宇宙科学や宇宙探査に注目しています。これまでは、ほかの国の衛星や探査機に観測装置を搭載させてもらうという形でしたが、間もなく本格的な科学ミッションを実施する予定です。
例えば、月探査を行なう「チャンドラヤーン計画」もその1つです。このミッションにはインドの科学技術を結集させ、衛星の組み立てから打ち上げまで独自に進めています。衛星の観測装置やセンサーは、一部、アメリカやヨーロッパのものを搭載する予定ですが、その大部分は国産です。月探査機「チャンドラヤーン」は、2008年に国産大型ロケットPSLVで打ち上げられ、月上空100キロの軌道を周回し、月の地質学的および鉱物学的な観測を行います。観測は約2年間を予定しています。
さらに、インド初の天文観測衛星「ASTROSAT」を2008年に打ち上げます。「ASTROSAT」には、可視光、赤外線、紫外線、X線、ガンマ線の観測装置が搭載され、恒星、銀河、ブラックホールを、複数の観測機器を同時に使って観測します。ですから世界の天文学者に、惑星、銀河、宇宙全体を観測するのによい機会を提供することになるでしょう。この計画においては、宇宙X線観測分野において日本と国際協力することで合意しています。このような宇宙科学ミッションを私たちは積極的に推進中です。

Q.有人宇宙活動について、インドはどのような計画を持っていますか?

この数年わが国では、有人宇宙活動に乗り出すべきかどうか、とても活発な議論が交わされてきました。科学者たちからは、人間が宇宙へ行くことによって初めてできる実験や観測がたくさんある、という強い意見が出されています。しかし同時に、有人宇宙計画を行うためには、技術的にとても難しい課題があり、費用も相当掛かります。ですから現状では、有人宇宙活動にどのような技術開発が必要か、そしてそれを適度な時間とコストの中でできるかどうかを検討しています。1年以内には報告書を出すつもりです。政府が承認すれば、私たちはやがて有人宇宙計画にも乗り出すことでしょう。
   
1   2
Next