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インタビュー > マダヴァン・ナイール 日本とインドの国際協力で新たな宇宙開発時代を築く
Q.日本とインドの国際協力についてどのように考えていらっしゃいますか?

月周回衛星「かぐや(SELENE)」

日本の科学者たちとの協力は、1960年代のトゥンバ赤道ロケット打ち上げ基地を運用していた頃まで遡ります。赤道に近いということで、ロケットの打ち上げ基地としてはとてもユニークな場所でした。インドの科学者たちと共同で実験を行うために、東京大学(宇宙航空研究所)をはじめ、多くの日本の科学者がインドにやってきました。当時、日本とインドはとてもよい関係でした。しかしそれ以降、両国間にそれほど強い結びつきがあったとはいえません。しかし、最近の日本の宇宙開発計画や、これまでに日本の宇宙開発が成し遂げてきた成果、さらに日本とインドの科学者たちの共通の関心事などを見ていて、私たちは、両国の宇宙機関の関係強化を意識的に進めています。日本との親密な国際協力体制があれば、わが国の宇宙開発も大規模な基盤を持つことができますし、「センチネル・アジア」のような実用的なプロジェクトを実施できるようにもなります。このことは両国のみならず、アジア太平洋地域全域の人々に利益をもたらします。
最近日本は月周回衛星「かぐや(SELENE)」の打ち上げに成功しましたが、これはとても個性的なミッションだと思います。「かぐや」を開発し、打ち上げを成功させたことは、日本の素晴らしい先進性や技術力を示したといえます。私たちは、引き続きこのミッションの成功を祈願しています。そしてぜひ探査結果のデータを拝見したいものです。「かぐや」のデータから何がわかるか、わが国の科学者たちも研究する予定です。またインドでは、月周回探査機「チャンドラヤーン」のための衛星追尾地上局が2007年末に運用可能となります。万が一、日本の月周回衛星「かぐや」が、衛星追尾地上局の追加などの支援が必要であれば、わが国の地上局を使ってもらうことも可能だと思っています。
近年、宇宙科学や宇宙探査は、とても複雑になってきていると同時に、とても興味深いものになっています。宇宙科学の分野で、日本とインドは多くの共通点があります。ですから、そろそろ両国が手を結んで共通の宇宙探査に乗り出したり、技術や知識を共有すべき時期に来ていると思います。日本とインドの国際協力は、ほかの国々に対しても大変よいお手本となるでしょう。
Q.中国の宇宙開発についてどのように思われますか?

中国も、宇宙開発ではちょうどインドと同じように独自の道を進んできました。彼らも独自のロケットや衛星の開発計画を実施していますし、もちろん、有人宇宙探査の面では私たちを一歩リードしています。これまでの中国の宇宙開発の成果は評価できる立派なものです。いずれは、中国とも宇宙探査などで協力し合うことになるでしょう。わが国は常にオープンな立場です。ですから日本のJAXAと国際協力をしているように、今後は中国の科学者とも話し合いを進めていくつもりです。手始めとして、インドで運用している地球観測衛星のデータを中国の利用者たちにも提供しています。北京の近くに衛星データを受信できる地上局があり、インドの衛星のデータを受信して活用しています。さらに両国は、今後の協力促進を検討するための代表団も相互に派遣しています。しかしこれまでのところ、まだあまり強いつながりではありません。今後の中国との協力に期待しています。
Q.人類にとって宇宙開発の意義は何でしょうか?

人類はこれまでずっと冒険心に駆られてきたと思います。いつだって未知の世界を探険したいと思ってきたのです。ですから次の冒険の最前線は宇宙になります。今後も人類は宇宙へ進出を続けるでしょう。月面に有人基地ができて、そこが惑星探査の中継地点になったとしても不思議ではありません。また月面基地には、地球を常時モニターする観測所や月面天文台、太陽系のほかの惑星への中継基地、さらに太陽系外の恒星間飛行や探査衛星を飛ばす基地にするなど、いろいろな可能性があるでしょう。これらはすべて人類全体にとって大きな挑戦となります。それに向けて宇宙を見る新たな視点が必要で、危険で広大な宇宙に、居住施設を確立するという課題もあります。地球外でロケットやロボットなどを生産できる工場を設置することも、もう1つの挑戦となるでしょう。将来の宇宙開発にはさまざまな課題がありますが、インドは人類に貢献する宇宙開発を今後も進めていきたいと思います。