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地球の映像を見て、地球人だと感じてほしい
Q. 放送する立場から見て、日本の宇宙活動を広報するために、JAXAにこうしてほしいという希望はありますか?

地球(提供:NASA)
地球(提供:NASA)

JAXAは、地球の環境問題や、防災活動に貢献する衛星を打ち上げていますよね。宇宙から見た地球を伝える重要な仕事の訳ですから、一般の人たちに活動内容を知ってもらう機会がもっとあればいいと思います。
そういう意味で、宇宙連詩は効果的なのではないでしょうか。たくさんの方たちに宇宙連詩を鑑賞してもらえれば、さらに関心が高まり、応募も増えるでしょう。そしてそれが、日本の宇宙活動に興味を持つきっかけになると思います。詩人や子供たちが宇宙へ行ける日が来るとしたら、地球を見たときの気持ちを、彼らはどう表現するのかとても興味があります。ぜひ、そういう時代が来てほしいと思います。
また、先程ご紹介した「地球/母なる星」という本には、「宇宙飛行の1日目は窓から自分の国を指差し、2日目は自分が住む大陸を、3日目にはもう国も大陸も関係なく、自分は地球人なんだという思いになる」という内容の詩が掲載されています。このような宇宙へ行ったときの気持ちを、日本の宇宙飛行士の方からもたくさん聞きたいですね。そして日常的に地球の姿に触れる機会がもっと増えればいいと思いますね。宇宙空間に浮かんでいる美しい姿を見ることによって、奇跡ともいうべき地球の存在への認識が進むでしょうし、地球環境をもっと大切にしようという気持ちになるのではないでしょうか。

Q. 桜井アナウンサーは、2004年に新潟中越地震に遭遇されていますが、その時はどのような状況だったのでしょうか? また、その経験を踏まえて、衛星を使ったどのような防災サービスがあればよいと思われますか?

法事で帰郷していたときに中越地震に遭遇しました。日帰りで東京に戻ってくる予定が、電車が止まってしまったため帰れなくなりました。もちろん、すぐにNHKに電話をかけましたが、通じませんでした。アナウンス室からも私の携帯に電話がありましたがつながりませんでした。災害時には電話が集中してつながらなくなりますが、身をもって感じました。
避難所の体育館の入口にはテレビが1台あってニュースを流していましたが、全国ニュースは被災者向けだけではなく、直接被害にあっていない多くの全国の人に向けた放送だということを、改めて思いました。被災地では、食料が何時に届くとか、ゴミはどうするといった情報が常に必要です。このような生活情報やライフラインの情報を、NHK新潟放送局ではテレビやラジオを通じて放送していましたが、被災された人たちは精神的にも肉体的にも疲れきっています。わざわざ体育館の入口まで行ってテレビで情報を得るというところまで気持ちがいかないこともあります。
通信衛星を利用して、被災した現場で、インフラや生活情報などの情報を被災者が直接入手、確認できるようなシステムができればいいと思います。被災者一人一人、もしくは世帯ごとに、とりわけ高齢の方に直接簡単に情報が届くような技術開発が望まれますね。よりきめ細かな情報を、個人個人にきちんと伝えていくシステムを確立する必要があると思います。
宇宙のすばらしさを伝えるスポークスマンが必要
Q. 桜井アナウンサーは出演なさる番組を通じて、地球の素晴らしさを実感されることも多いと思います。地球を守るために、JAXAにしてほしいことはありますか?

桜井 洋子 写真

地球を守るというのは、人間や動物を含めてすべてを守るということだと思いますが、やはり、宇宙からの目を日常的に有効に使えるようなシステムがあればと思いますね。例えば、地球観測衛星の観測で得たデータを、「あなたの住んでいる地球は今こういう姿で、こんなふうに地球環境が危ういんですよ」というように、専門家でなくとも理解できるように、分かりやすい形で提供してほしいですね。特に、高齢の方たちにも情報がきちんと伝わるようなシステムがあればいいですよね。若い人たちは、インターネットなどを通じて新しい情報を常に入手できますが、パソコンを使ったことのない世代の人たちの情報源は限られてきます。年配の方たちが直接的に情報を得ることができるようなシステムを作ることは、これから一層進む高齢社会にとって重要だと思います。

Q. JAXA、あるいは日本の宇宙開発に期待することは何でしょうか?

私はどうも宇宙開発という言葉に違和感を感じてしまうんです。「開発」というと、森林伐採をする森林開発のような若干マイナスのイメージになりますので、一時期、「宇宙利用」という表現を使っていましたよね。ビックバンで宇宙が誕生し、46億年の地球の歴史があって、現在があります。開発を自然の摂理の中でやればよかったのですが、人間の欲望の時間、いわゆる「人間時間」で急速に進めてきました。ですから、今、環境問題も含めてさまざまな矛盾が表面化しているのだと思います。「人間は地球上をだいたい開発し尽くしたから、次は宇宙だ」という未来に向けた戦略が滲んでいるようにも思えますし、とうとう宇宙にまで食指を伸ばしたという語感が、「開発」という言葉に含まれているような印象さえ与えかねません。人間が生き残っていく上で、種として存在していく上で必要なことかもしれません。でも、「開発」という言葉を使うのであれば、自然の摂理を大切にした開発であり、利用であってほしいと思うんです。
昔は、人間が自分の生きる世界(地球)を考えるときは、平面でした。しかし、今は球体ですよね。それは、宇宙飛行士が撮ってきた写真で証明されたわけですが、実際に私たちも宇宙へ行って地球を見ることができたら、もっと地球環境を大切にしようという気持ちが生まれてくるでしょう。しかし、私たち一般の人間はなかなか宇宙へ行けないわけですから、JAXAの宇宙飛行士が、宇宙で感じたことをもっとアピールしていけば、地球環境はより守られていくような気がします。やはり、実際に体験した方の言葉や、宇宙で撮られた画像は心に響きますので、それがきっと、「地球を守らなきゃ」という気持ちにさせると思います。
また、一般大衆に向けて宇宙のことを、分かりやすく話せる存在が求められるような気がします。JAXAは専門的な集団で、科学技術の先端を行っていますが、「自分たちがやっていることは、こんなに有用でなおかつ楽しい世界なんだ」という、もう少し身近なPRがあって、それが宇宙利用に結びついていけばよいと思います。先端の部分の広報はやっていらっしゃるかもしれませんが、もっと基本的な、人の気持ちに訴えるような広報をやっていただけると身近になると思います。例えば、天気予報ですと森田正光さんや石原良純さんが気象予報士をされていることによって、気象に関心を持つ子供が増えましたよね。JAXA内部でそういう人材がいなければ、何人か外部の方を嘱託で頼んでもよいと思います。科学技術の先端的な研究も必要ですが、JAXAの仕事には、私たちの毎日の生活に有益な情報がまだまだたくさん眠っている気がするんです。JAXAの活動を、国民の一人一人の胸に落とすためには、スポークスマン的な人がきちんと伝えることが重要だと思います。

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