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シームレスな測位環境の実現へ 準天頂衛星システム プロジェクトマネージャ 寺田弘慈
カーナビやGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)機能搭載の携帯電話が普及し、衛星を使って測位情報を得ることは私たちの生活に欠かせないものになりました。準天頂衛星システムは、複数のGPS衛星との組み合わせで、都市のビル群や山陰などの障害物に影響されることなく、あらゆる場所で高精度の測位情報の提供を可能にするシステムです。JAXAは、総務省、文部科学省、経済産業省、国土交通省や、それらの研究機関、および民間と協力し、準天頂衛星システムの実現と利用拡大に向けて開発を進めています。日本は、カーナビが1980年代より商品化されるなど、GPS を使ったナビゲーションシステムが早くから一般に普及しているにもかかわらず、測位衛星に関しては日本独自のものがなく、海外の衛星に頼っています。国民生活に、よりきめ細やかなサービスを提供するためにも、日本に合った、独自の衛星測位システムが求められているのです。
GPSの位置情報の補完・補強
Q.準天頂衛星システムとはどのようなシステムなのでしょうか?

4機目のGPSとなる準天頂衛星
4機目のGPSとなる準天頂衛星

(※図1)GPSのみ(左)と準天頂衛星を加えたとき(右)の4機衛星以上観測可能な時間率
(※図1)GPSのみ(左)と準天頂衛星を加えたとき(右)の4機衛星以上観測可能な時間率

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準天頂衛星の「準」というのは「ほぼ」という意味です。日本の「ほぼ天頂に衛星が見える」ということで、「準天頂」という名前がついています。衛星がほぼ天頂にあると、障害物の少ない真上から信号を受信することができます。現在、アメリカのGPSによる測位情報がカーナビなどに広く利用されていますが、準天頂衛星を日本版GPSと考えていただいて結構です。
GPS信号を受信して三次元測位を行う、つまりXYZの3つの位置座標を求めるには、これに加え正確な時刻の情報が必要で、衛星が4機以上同時に見えなければなりません。4つの衛星から目標地点までの距離を測ることで、正確な位置情報を得ることができます。しかし、GPS衛星は地球の周りをまわっていて刻一刻配置が変わりますので、ビル陰や山岳の谷間にいると衛星4機が見えず、正確な測位ができないことがあります。それを改善するために、準天頂衛星が常時天頂付近の見えるところにいて、4機目の衛星になります。つまり、準天頂衛星が少なくても1機確実に見えることで、4機見えない時間帯を補い、測位可能な時間帯を一気に増やすことができるのです。
例えば、こちらの図(※図1)は準天頂衛星による測位をシミュレーションしたものですが、東京銀座地区で4衛星以上観測が可能な時間率を示しています。狭い路地やビルの陰になった部分は、GPSだけですと4機観測できる時間率が低いですが、準天頂衛星を1機加えることによって見える時間率が一気に高くなり、90〜100%見える青い部分が増えます。このように、GPSを補完し、測位可能時間率を向上させるのが、準天頂衛星の大きな目的の1つです。

準天頂衛星の軌道上配置
準天頂衛星の軌道上配置

準天頂衛星の地上軌跡(映像協力:(株)イメージ ワン)
準天頂衛星の地上軌跡(映像協力:(株)イメージ ワン)
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Q.準天頂衛星にはどのような新しい技術が取り入れられるのでしょうか?

準天頂衛星は、日本での利用に適した軌道に特徴があります。通常、静止衛星は、軌道傾斜角を0度にして赤道上に位置していますが、準天頂衛星はその軌道傾斜角を45度くらいに傾け、日本の真上を通る軌道を通るようにしています。ただし、1機の衛星が常に日本上空にいるのではなく、軌道が傾いているために、地球の自転とともに衛星が少しずつ位置を変え、南北に移動していき、約24時間でまたもとの位置にもどってきますが、1つの衛星が日本の真上に滞在できる時間は8時間程度なので、準天頂衛星を3つ組み合わせて、24時間常に上空に見えるようにします。3機にすると8時間ごとに次の衛星が天頂にやってきて、いつも衛星が見える状態になるのです。このような軌道を使った衛星は世界ではいくつか例があるようですが、日本では初の試みです。これまでの静止衛星とは違うこの軌道に対応するために、新しい設計を行いました。
準天頂衛星は、赤道面を中心に南北を非対称の8の字を描いて通り、日本上空で最も高度が高くなる軌道をとりますが、その結果、衛星が日本の上空に長く滞在することができます。そのため、北半球では高度が高く、南半球では高度が低くなっており、高度の高低差に関係なく、安定した信号を出す必要があります。測位する対象物から遠くても近くても、決められた範囲の強さの信号を出さなければなりません。その点も、技術開発の難しい課題です。
日本独自の測位システムの開発
Q.準天頂衛星システムの開発はどのような計画で進められていますか?

準天頂衛星のアンテナのフライトモデル電気性能試験
準天頂衛星のアンテナのフライトモデル電気性能試験

この8月に衛星システムや地上管制システムの詳細設計を予定どおり完了しました。現在は、衛星のフライトモデルの製造・試験や地上システムの整備・製造を実施しています。一方で、衛星を利用するための開発についても、研究機関や民間の方々と話を進めています。
この計画はJAXAだけのものではなく、総務省、文部科学省、経済産業省、国土交通省が共同で開発を行い、技術実証をする大きなプロジェクトです。民間からも、衛星測位利用推進センターが利用実証で参加します。計画は2段階に分かれており、第1段階では衛星を使ったいろいろな技術実証や利用実証を行います。そして、その結果の評価を行ったうえで、初号機を含めた3機の準天頂衛星による24時間体制のシステム実証を行う、第2段階へ進みます。ですから、まずは衛星1機で確実な成果を出すことが私たちの使命です。
JAXAは第1段階のシステムの整備・運用の取りまとめを行っています。第1段階では3つの技術実証が行われますが、1つ目は先ほどお話しました「GPSの補完」です。GPSと同様の測位信号が出せる機器を搭載した衛星を打ち上げ、いつでも見られる4番目の GPS衛星として機能させるほか、測位を行う上で重要になる時刻の管理を高精度に行います。JAXAはこの技術開発を、情報通信研究機構(NICT)と共同で行っています。2つ目は、国土交通省が中心となって進めている「GPSの補強」です。これはGPSの測位情報をもっと精度の高いものにする試みです。これまで単独では10m程度の精度でしか位置が分からなかったところを、鉄道や自動車などの高速移動体向けに約1m程度の精度で分かるようにします。また、衛星から送られてくる測位信号に「信頼性があるか」という情報を送信する技術も開発されています。例えば、衛星に搭載されている時計の調子が悪くて、正しい信号を出していない場合には、「この衛星は正しい信号を出していないので使わないでください」という情報を鉄道や自動車に乗っているユーザーにすぐ伝える必要があります。3つ目は、JAXAと経済産業省が行う「次世代基盤技術の修得」のための技術実証です。 GPSと同じ信号だけでなく、日本独自の周波数の信号を使って実験を行い、次世代の測位技術を日本で確立する目的があります。万が一、アメリカのGPSサービスが受けられなくなったとしても、我が国独自のシステムを構築していれば、新たな可能性が生まれてくると思います。
   
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