ご覧いただいているページに掲載されている情報は、過去のものであり、最新のものとは異なる場合があります。
掲載年についてはインタビュー 一覧特集 一覧にてご確認いただけます。


いつでも、どこでも提供できる位置情報
Q.準天頂衛星は私のたちの生活にどのように役立つのでしょうか?

準天頂衛星
準天頂衛星
準天頂衛星が提供するのは、場所と時刻です。自分、あるいは物や人がいつ、どこにいるかという位置情報を提供します。いろいろな使い道がありますが、すでに普及しているのはカーナビや、GPS搭載の携帯電話です。また、犯罪や事故が起きた時に110番や119番に電話をすると、自分の位置情報が自動的に送られるシステムもすでに使われ始めています。準天頂衛星によって測位情報の精度が向上し、どこにいても正しい位置情報が受けられるようになると、事故のない安全で安心な暮らしが実現できると思います。例えば、測位情報を交通システムに応用した場合、それぞれの場所が分かっていれば、衝突を避けられますし、渋滞も避けることができるでしょう。また、GPSが搭載され、且つ、準天頂衛星の信号が受けられるような携帯端末があれば、山陰や谷底にいて遭難したときに、自分の位置が的確に分かります。あるいは、災害や事故、事件が起きたときの迅速な対応にも役立ちます。その他にも、地図の更新作業や、農業や漁業、山間地での建設施工の作業効率の改善にも貢献できます。日本は、GPSの信号を受信して、カーナビなどのナビゲーションシステムに応用する技術は世界一だと思いますので、準天頂衛星による高精度な測位システムが実現すれば、さらにいろいろな世界が拓けると考えています。

Q.今、なぜこのような衛星が必要とされると思われますか?

カーナビやGPS携帯が普及するまでは、自分の位置を知ろうというニーズはそれほどなかったと思いますが、位置情報の重要さが理解され始めると、もっと自分の位置を的確に知りたいと思うようになってきました。映像でも、これまで VHSレベルの画質で満足していた人が、ハイビジョンの高画質の映像でないと満足できなくなる、より良いものを求めるという傾向はあると思いますが、それと同じです。最近は、GPSを当たり前のように利用するようになりましたが、既存のGPS のサービスだけでは完全ではありませんので、それを補完・補強するシステムが、今、求められているのだと思います。

Q.準天頂衛星システムは、世界各国との協力体制があるのでしょうか?

モニタ実験局の配置
モニタ実験局の配置

衛星のモニタ局の設置は、国際協力のもとで進められています。衛星を正しく利用するためには、衛星が正常に動いているかどうか、どこを飛んでいるかという情報をきちんともつことが必要です。1ヵ所から衛星を観測すると同じ方向から見ることになりますので、いろいろな場所から衛星を見て、より正しい軌道を計算します。国内では北海道、小金井、小笠原、沖縄の4ヵ所に、海外はインドのバンガロール、アメリカのハワイ、グアム、タイのバンコク、オーストラリアのキャンベラの5ヵ所にモニタ局を置いて衛星を観測する予定です。
準天頂衛星は、日本上空により長く滞在する軌道を通りますので、日本に一番メリットがあるように考えられています。ですが、韓国でも日本とほぼ同じように衛星を見ることができますし、オーストラリアや東南アジアからでも受信できますので、同じようなサービスを提供することができます。現在、海外の国々と衛星の利用について話し合いを進めています。
シームレスの測位環境づくりを実現
Q.準天頂衛星が目指す最終的な目標は何でしょうか?

最終的な目標は、シームレスな測位環境をつくることです。携帯電話も最初は地下街では通じませんでしたが、「どこでも話したい」というニーズから、地下でも使えるようになりました。測位もそれと同じで、どこにいても自分の位置が分かるようにしたいと思います。GPSや準天頂衛星からの信号は、屋内や地下に届かないため、別の方法で位置情報を発信する装置を屋内や地下のいろいろ場所に置き、衛星からの信号と共通した信号を受信して、どこでも正確な位置情報が得られるようなシステムを考えています。このシステムはすでに社会実験の段階に入っており、シームレスな測位環境をつくることは、準天頂衛星システムの重要な役割の1つだと思います。そのためにも、まずは、1機目をスケジュール通りに打ち上げて、成果を出し、次の、3衛星による24時間体制の測位情報提供サービスへつないでいきたいと思います。

Q.寺田プロマネが準天頂衛星システムに期待している点はどこでしょうか?

寺田弘慈

これまで衛星による測位を行ってきたのは、アメリカの「GPS」、ヨーロッパの「GALILEO」、ロシアの「GLONASS」で、インドや中国でも計画があります。現在は、ごく一部を除き各国の衛星の信号は別々のものですが、将来的には全世界共通の信号にしようという動きがあります。それに先駆けて、準天頂衛星システムでGPS信号との共通化や相互運用性の確保を行っていますので、これで成果を挙げれば、衛星測位の分野で先進国の仲間入りができるだけでなく、先導役として貢献できるのではと思います。準天頂衛星システムが「地域測位システムの雛形」として世界の中で評価されて、全地球規模で展開されることを期待しています。
GPSは24機の衛星を基本として運用していて、ビル陰や谷間などではその精度が落ちます。アジア太平洋という限られた地域ではありますが、準天頂衛星が GPSの測位情報を補完・補強することによって、より優れたサービスを提供することができます。準天頂衛星のプロジェクトを成功させ、将来的には同じようなシステムを、アフリカやヨーロッパなど、アジア太平洋以外の全世界に広げていきたいと思います。

関連リンク:準天頂衛星

寺田弘慈(てらだこうじ)
JAXA宇宙利用ミッション本部 準天頂衛星システム プロジェクトマネージャ
1985年、東京大学工学部航空学科卒業。同年、宇宙開発事業団(現JAXA)に入社し、技術試験衛星VI型「きく6号」の開発に従事。その後、地球観測衛星の利用推進や、技術試験衛星VIII型「きく8号」の開発などに携わった後、2007年1月のプロジェクトチーム発足とともに現職。
Back
1   2
インタビューバックナンバーへ