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インタビュー > カトリーヌ・セザルスキー 世界天文年2009「宇宙 … 解き明かすのはあなた」
すばる望遠鏡が観測した、うみへび座にある85億年前の銀河団とその周辺(提供:国立天文台)
Q. 昨年は、天文学の分野ではどのような大きな発見がありましたか?
昨年はたくさんの発見がありましたが、中でも、多くの太陽系外惑星が見つかったことは大きな発見です。これまでに、340個の太陽系外惑星が発見されていますが、毎日その数は変化しています。また、地球よりは大きいですが、地球の質量により近い惑星の観察がされるようになってきました。それらはスーパーアース(Super Earth; 巨大地球型惑星)と呼ばれ、地球の数倍から10倍程度の質量を持ちます。すでに、いくつかのスーパーアースが見つかっていて、最近発見されたものは、地球のわずか2倍の質量しかありません。太陽のような恒星を回る地球型惑星はまだ発見できていませんが、近い将来、発見に必要な高性能な観測技術が開発されると思います。これは非常に面白い探査になるでしょう。その技術を使って、これらの太陽系外惑星の大気圏を観察し、過去あるいは現在の生命の兆候があるかどうかを調べることが可能になると期待しています。
ほかの興味深い話題といえば、日本のすばる望遠鏡が素晴らしい成果をあげていると聞いています。はるか遠くの銀河を観察しているとき、それは光を発したときのままの銀河を見ていますが、すばる望遠鏡の高性能カメラのおかげで遠くまで見られるようになり、宇宙誕生初期の頃の銀河の様子を観測できるようになりました。すばる望遠鏡は、私たちの銀河進化の理解を大きく変える素晴らしいものです。
Q. 天文学の分野で、今年はどのようなことが注目されていますか?
赤外線天文衛星「ハーシェル」(提供:ESA/AOES Medialab)
今年は、5月にヨーロッパから2つの天文衛星を打ち上げる予定です。1機は宇宙背景放射の観測を行う「プランク(Planck)」という衛星で、宇宙論の発展への貢献が期待されています。もう1機は赤外線天文衛星「ハーシェル(Herschel)」です。そして、アメリカは3月に、系外惑星探査衛星「ケプラー(Kepler)」を打ち上げました。「ケプラー」は太陽系外の地球型惑星の探査が目的です。日本のJAXAでも赤外線天文衛星「あかり」や X線天文衛星「すざく」など、極めて重要な天文衛星が現在活躍中です。
また、今年は、7月22日に起こる皆既日食を見逃せません。皆既日食としては長時間の、6分近く、皆既日食を観察することができますので、特別なものになりそうです。日本付近でも皆既日食が見られるようですが、日本の方々は運がいいですね。当日は忘れずに、雲のないところへ出かけて観察して下さい。
Q. 博士はどのような研究をされているのでしょうか?
アルマ望遠鏡の完成予想図(提供:ESO/ALMA)
私が興味を持っているのは銀河の進化です。私たちの銀河、つまり銀河系以外の銀河が宇宙や星形成の歴史のなかでどのように進化してきたのか、また、星形成に必要なガスの量などにも興味があります。このような研究は異なる波長を使って天文的に研究されていますが、特によく使われるのは赤外線です。こういったなかで、今年打ち上げる赤外線天文衛星「ハーシェル」の活躍が大きく期待されています。それから現在、アメリカとヨーロッパ、日本の共同計画、「アルマ(ALMA)」望遠鏡群がチリに建設されています。これは大規模な国際プロジェクトで、私の研究分野において極めて重要なプロジェクトです。
Q. 日本の天文研究やJAXAについてどのような印象を持たれていますか?
国際宇宙ステーション(ISS)に取り付けられたJEM-EUSO望遠鏡(想像図)(提供:独立行政法人理化学研究所)
日本は長年、X線衛星や赤外線衛星、太陽観測衛星を打ち上げていますが、どの衛星も素晴らしい成果をあげています。現在、私たちは地上と宇宙の両方で大規模プロジェクトを進めているところですが、日本も欧米と一緒にこの国際プロジェクトに参加しています。アルマ計画に関しては、現在、NASA、ESA、JAXAによる大型衛星「IXO(International X-ray Observatory)」の準備が地上で進められています。ほかにもJAXAには重要なミッションがありますが、その一つは、国際宇宙ステーション(ISS)に装着される「JEM-EUSO」望遠鏡の開発です。強い宇宙線の観測が目的ですが、日本独自の、これまでにないタイプの素晴らしい望遠鏡です。日本は誰にとっても優秀なパートナーと言えます。私自身、アルマ計画で一緒に仕事をするなかで実感しました。日本の方々と働けることを、とても嬉しく思っています。
Q. 博士は子供の頃から天文に興味がありましたか?どうして天文学者になったのでしょうか?
「世界天文年2009」の開会式にて(提供:IAU/Jos
Francisco Salgado)
私の家族は文学や芸術のほうに興味があったので、科学とはそれほど縁のない環境で育ちました。科学は学校だけでしか学んでいません。私はフランスで生まれ、アルゼンチンのブエノスアイレスにある、フランス人学校に通っていましたが、そこで素晴らしい数学と物理の先生に恵まれました。高校でいい先生達と出会ったおかげで、大学では数学と物理を勉強することに決めたのです。私はもともと数学が大好きでしたが、当時はまだ天文学に興味がありませんでした。大学で数学と物理を学び、4年生のときに新しい教授がやってきました。彼はブエノスアイレスで最初の天体物理学の教授でした。彼と出会えたのは幸運でした。私はその頃、研究テーマを探していたのですが、教授の授業を受けて、天体物理学が面白いと思いました。そして、教授に研究テーマを与えてくれるようお願いをしたのがきっかけで、私は天体物理学の世界に入りました。もしも、その教授の就任が一年遅れていたら、私は天体物理学者になっていなかったでしょうね。天体物理学は大好きですし、私に素晴らしいキャリアをもたらしてくれました。とても恵まれていると思っています。この分野で仕事ができてとても幸せです。
Q. 一般の方たちへのメッセージをお願いできますか?
私たちは「世界天文年」のスローガンを一所懸命に考えた末、「宇宙:解き明かすのはあなた(The Universe: Yours to Discover)」に決めました。私たちの伝えたいメッセージが、このスローガンには込められています。私たちが存在するこの宇宙について、あなたなりの興味を育てて下さい。ただ宇宙を見るだけでなく、見たものを自分のものにしていただきたいです。望遠鏡を通して自分自身を見る、知る、自分の考えをきちんと持つ、学んだことについて自分なりに理解してみる、といったことです。「解き明かすのはあなた」なのです。「期待しながら待つ人」になるのではなく、主体性を持ち「行動する人」になって欲しいという願いが、私たちのスローガンには込められています。そして、宇宙を見て、宇宙に関する本を読み、できらたら観察をし、宇宙について考えてみて下さい。きっとあなたの人生を高めてくれるはずです。