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国際的な協力関係のさらなる発展をフランス国立宇宙研究センター(CNES)理事長ヤニック・デスカタ(Yannick d’Escatha)

これまで日本とフランスは、1960年代から宇宙科学の分野で協力関係にあり、また宇宙分野での共同開発は、環境観測技術衛星「みどり」及び「みどりII」へのフランスの観測機器の搭載や、海洋観測衛星Jason-2による共同計測実験など、緊密な協力体制を築いてきました。JAXA の前身であるNASDA(宇宙開発事業団)の時代からフランス国立宇宙研究センター(CNES)と日仏宇宙協力シンポジウムを開催するなど、両国の宇宙協力は積極的に行われています。フランスの宇宙政策や今後のJAXAとの関係の展望など、CNESのデスカタ理事長にお話をうかがいました。

ヤニック・デスカタ(Yannick d'Escatha)
フランス国立宇宙研究センター(CNES)理事長
国立理工科大学(Ecole Polytechnique)卒業。フランス国立理工科大学、国立パリ高等鉱業学校、国立高等先端技術学院で、土壌、構造および破壊力学を専門として教鞭を執る。1978年、フランスの産業省の原子力発電所建設検査事務局長。1990年、フランス原子力庁(CEA)の先端技術部門局長を経て、1995年、フランス原子力庁の長官に就任。2000年、フランス電力公社(EDF)の産業担当副総裁。2003年、フランス国立宇宙研究センター(CNES)の理事長に任命される。

ESAへの最大の貢献国、フランスの宇宙政策

Q. フランス国立宇宙研究センターの概要と目的、活動の内容について教えてください。

アリアン5ロケット(提供:CNES/ESA/Arianespace/Activite Optique Video CSG, 2008)
アリアン5ロケット(提供:CNES/ESA/Arianespace/Activite Optique Video CSG, 2008)

欧州のGPS衛星「ガリレオ」(提供:ESA)
欧州のGPS衛星「ガリレオ」(提供:ESA)

フランス国立宇宙研究センター(CNES)はフランスの宇宙政策を立案し、管理、実施する国家機関です。フランスの宇宙政策は、衛星打ち上げなどの「宇宙へのアクセス」、環境問題などに貢献する「地球観測」、通信や放送、測位を行う「宇宙利用」、惑星探査など未知なる世界を探求する「宇宙科学」、国民の安全を守る「安全保障」という5つの分野に分かれており、すべての分野において包括的な宇宙戦略を持っています。
CNESは、パリにある本部をはじめ、研究開発部門があるトゥールーズ宇宙センター、アリアンロケットなどの開発をおこなうエヴリー宇宙輸送センター、南米のフランス領ギアナにあるロケット打ち上げ施設のクールー宇宙センターの4つのセンターがあります。私たちの役目は、次世代宇宙ミッションなど、新しい革新的技術の研究開発を行うことであり、開発された技術の応用に関しては産業界に移管していきます。
また、欧州の宇宙開発は、欧州宇宙機関(ESA)、欧州連合(EU)及び各国の宇宙機関が協力しながらプロジェクトを進める体制を取っています。EUは近年になって宇宙政策に関わるようになりましたが、それまでは、ESAが欧州の宇宙開発を担ってきました。例えば、ESAのアリアンロケットはCNESで開発されたロケットですし、GPS衛星「ガリレオ」の設計もCNESが担当しました。フランスの宇宙政策に40年近い歴史があるように、ほかの欧州の国々も自分たちで独自の宇宙政策を進めてきましたが、宇宙開発には莫大な資金を必要とするため一国だけですべてまかなうことはできません。そのため、1975年に欧州各国が共同でESAを設立しました。現在、18ヵ国が参加しています。フランスは、ドイツやイタリアと同様にESAへの最大の貢献国であり、ESAの予算の30%以上がフランスからの資金で占められています。

Q. 現在CNESが特に力を入れているプロジェクトは何でしょうか?

ISSから切り離されたATV1号機(提供:NASA)
ISSから切り離されたATV1号機(提供:NASA)

CNESは先ほど申し上げました5つの分野において総括的な宇宙戦略を持っています。ただし、その中でも、ロケット打ち上げや国際宇宙ステーション(ISS)には多くの予算が必要です。ロケットについては、ギアナのクールー宇宙センターから、これまでのアリアンロケットに加え、ロシアのソユーズとイタリア主導のヴェガロケットの打ち上げを来年から始める予定です。そのため、ロシアの技術者の支援のもとで、現在、クールー宇宙センターにソユーズ発射台を建設中です。まもなく、アリアン、ソユーズ、ヴェガの3種類のロケットで、数百キログラムから数トンに及ぶあらゆる重量の人工衛星を、クールー宇宙センターから打ち上げることが可能になるのです。
また、次世代のアリアンロケットについては、アリアン5 ME(Mid life Evolution)という発展型ロケットの開発を検討しています。一方、トゥールーズ宇宙センターでは、これまでプロジェクト管理や研究開発、衛星の運用を行ってきましたが、昨年からISSに物資を輸送する欧州補給機ATV(Automated Transfer Vehicle)の運用も行っています。ATV初号機は、昨年の3月にアリアン5ロケットで打ち上げられ、食料や水、酸素など約6トンの物資をISSに運びました。来年にはATV2号機の打ち上げが予定されています。日本の宇宙ステーション補給機HTV(H-II Transfer Vehicle)が今年の9月に初めて打ち上げられましたが、HTVとともにISSの運用に貢献できるよう、ATV2号機の打ち上げをぜひ成功させたいと思います。

長期的な活用すべき国際宇宙ステーション

Q. 欧州では独自の有人宇宙輸送機を開発しようとしていますが、有人宇宙活動についてどのようにお考えですか?

宇宙ステーションへ向かう欧州宇宙船ARV(想像図)(提供:ESA - D. Ducros)
宇宙ステーションへ向かう欧州宇宙船ARV(想像図)(提供:ESA - D. Ducros)

ISSには欧州実験棟「コロンバス」がありますが、そのISSへの有人輸送は、現在、アメリカのスペースシャトルとロシアのソユーズロケットに限られています。そのため2010年にスペースシャトルが退役したあとの有人宇宙輸送手段については、とても大きな問題となっています。これは、「きぼう」日本実験棟を運用する日本にとっても同じ問題だと思います。私たちはISSの建設や運用に大きな投資をしていますので、地上の生活や産業に役立てるためにも、ISSをできるかぎり長期間運用して、十分に活用する必要があります。少なくても欧州は、2020年までは、ISSを継続して使っていきたいと思います。そのために独自の有人宇宙輸送手段の開発を検討しています。

  
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