国民に伝えたいことは、宇宙が、日常生活において便利で必要なものであるということです。通信や医療など身近な生活に役立つだけでなく、自然災害や地球温暖化から地球を守り、未来の世代のためにも、宇宙の有効利用はとても重要です。年齢や性別、職業などによって、一般の人の興味はさまざまですが、最近の傾向としては、「これは何をしているか」ということよりも、「これが私たちの生活にどう役立つか」ということに関心を持たれる方が多いように思います。そのため、CNES では、宇宙プロジェクトを紹介する映像や出版物、テレビ番組、展示会、CNES職員による講演など、さまざまな方法で、国民に宇宙のことを紹介するよう努めています。また、教育を最重要視していますので、学校の教師を対象とした宇宙講座の開催を通じて、10万人以上の生徒に宇宙について最新の知識を学ぶ機会を提供しています。最近はフランスでも子供たちの理科離れが進んでいますので、宇宙を使って科学全般への興味を引きつけることも大切だと思います。さらに、CNESのホームページを通していろいろな情報を発信し、年間100万人以上がホームページを見て、宇宙での活動に触れています。
欧州で検討中の有人火星探査計画(想像図)(提供:ESA)
APRSAFを代表とするアジアの宇宙機関の動きはとても興味深いです。なぜなら、国際共同プロジェクトですと一国で行うよりも少ない予算で目標を達成できますし、多くの知恵を結集できるという意味からも、宇宙政策には常に国際的な協力体制が必要だと思うからです。例えば、フランスでは有人火星探査計画を検討していますが、昨年、フランスのサルコジ大統領がクールー宇宙センターを視察した際に、「空を見上げたとき、火星は小さな点にしかすぎません。人が火星に行って空を見ると、地球は同じように小さく光る点にしか見えません。その小さな光る点の上にひかれた国境に意味はあるのでしょうか?」と言いました。有人火星探査を国際的なプロジェクトとして進めるべきだと言った大統領の考えには賛成で、ほかの宇宙政策についても、常に国際協力を視野に入れて進めていくべきだと思います。そのためにも、JAXAがアジアの宇宙先進国として先導役となってくれることを期待しています。
衛星用半導体など宇宙部品の共同開発、海洋観測衛星Jason-2による宇宙放射線の共同観測など、宇宙分野における日仏の協力関係は20年前から続いていますが、それらをさらに大きく発展させていきたいと思います。また、JAXAには、これまで以上に国際共同プロジェクトを推進してほしいと思います。
現在、衛星やロケット、ISS、惑星探査などさまざまな分野でJAXAとの共同プロジェクトが進行していますが、特に、環境問題への貢献を優先課題にしていきたいと思います。近年では衛星による観測技術が向上し、大気、海洋、植生などについて、物理的および科学的なさまざまなデータ測定ができるようになりました。今年打ち上げられたJAXAの温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」の活躍にも期待していますが、これらの地球観測衛星に求められる役割は大きく、衛星からのデータは地球の気候変動を研究する上でとても重要です。また、グローバルな視点で観測できる衛星だからこそ得られる情報でもあります。今後はさらに新しい測定方法の開発も行っていきたいです。未来の世代にとって、地球が安心して暮らせる環境であり続けるためにも、地球温暖化を食い止める必要があります。
また、地球だけでなく、宇宙の環境についても考えていきたいと思います。地球の周りには、運用が終わった衛星など、スペースデブリと呼ばれる「宇宙ゴミ」があり、小さいものまで含めると数千万個あると言われています。運用中の衛星やISSは、スペースデブリの衝突に常に脅かされているのです。スペースデブリについては、世界の主要11宇宙機関によって構成される国際機関デブリ調整会議(IADC: Inter-Agency Space Debris Coordination Committee)などで議論されていますが、昨年には、デブリ除去に向けたワーキンググループも設立されました。デブリをレーダで観測し、いち早く発見し、回避する方法などが検討されていますが、宇宙の環境を守るためにも、JAXAをはじめ世界の宇宙機関と連携して取り組んでいきたいと思います。