ご覧いただいているページに掲載されている情報は、過去のものであり、最新のものとは異なる場合があります。
掲載年についてはインタビュー 一覧特集 一覧にてご確認いただけます。


初めての宇宙飛行に向けて 〜子どもに宇宙の素晴らしさを伝えたい〜 JAXA宇宙飛行士 山崎直子

山崎直子宇宙飛行士は、スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗し、初めての宇宙飛行に挑みます。JAXAの宇宙飛行士としては7人目、日本人女性としては向井千秋宇宙飛行士に次いで2人目です。山崎宇宙飛行士が参加するSTS-131は約2週間のミッションで、予定どおり打ち上がると、2009年12月から国際宇宙ステーションに長期滞在する野口聡一宇宙飛行士との、宇宙での対面も実現します。日本人が2人同時に宇宙に滞在するのは初めてのことです。打ち上げを直前に控えた山崎宇宙飛行士に、ミッションの目的や宇宙にかける思いなどを聞きました。

任務は物資補給とロボットアームの操作

Q. 山崎宇宙飛行士が搭乗するスペースシャトルSTS-131(19A)ミッションの目的と、山崎宇宙飛行士の主な任務を教えてください。

スペースシャトル・ディスカバリー号(提供:NASA)
スペースシャトル・ディスカバリー号(提供:NASA)

STS-131(19A)ミッションの目的は、国際宇宙ステーション(ISS)の完成に向けた組み立て作業を行うこと、そして、宇宙実験に必要な機材や試料、ISSに滞在する6名の宇宙飛行士の生活備品などを補給することです。また、実験が終了した装置など、ISSで不要になった物を地球に持ち帰ります。物資は多目的補給モジュール(MPLM)に入れられて運ばれ、ISSに取り付けて運び出された後に、ISSで不要になった物をモジュールに搭載します。地上から運ばれる物資の中には「きぼう」日本実験棟で行われる実験の資材も多く、例えば、ネズミの筋肉の細胞もその1つです。宇宙では重力がないため筋肉が衰えるといわれていますが、その仕組みをネズミの筋細胞を使って調べます。また、宇宙空間での皮膚のバクテリア計測なども行います。
その中で私の主な任務は、2種類のロボットアームの操作です。1つはスペースシャトルのロボットアーム(SRMS)を用いて、打ち上げ時の衝撃でスペースシャトルの耐熱タイルが損傷していないかを点検します。2つ目は、ISSのロボットアーム(SSRMS)を使って、多目的補給モジュールをISSに取り付け、地球に帰還する前にはモジュールを ISSから取り外して、スペースシャトルの貨物室に格納します。また、多目的補給モジュールに搭載された6 トン以上の実験資材を所定の実験装置に組み入れ、帰りの資材を搬入しなおす際には、きちんと順序立てて行う必要がありますが、物資と7名のクルーの作業を管理するロードマスター(積荷管理者)も私の役目です。さらに、クルーの活動風景や地球などをカメラで撮影します。

Q. このミッションに向けて、どのような訓練を行ってきましたか?

スペースシャトルの全機体訓練装置での訓練(提供:NASA)
スペースシャトルの全機体訓練装置での訓練(提供:NASA)

STS-131ミッションへの搭乗が決定したのは2008年11月で、クルーとの訓練が始まったのは2009年の春でした。まずは、スペースシャトルやISSに関する知識を個々に深める訓練から始まり、夏頃からは、2〜3人でペアを組みながら行う訓練が増えました。軌道上では、1人で作業をして何かミスしてしまうといけないため、ロボットアームの操作をするときもチームを組んで、確実に行えるようにします。誰かがミスしそうになっても、周りの人が指摘してミスを防ぐなど、コミュニケーションがとても大切です。打ち上げ数ヶ月前からは、クルー7名合同で、飛行時のスケジュールに基づいて、1日の作業を通しで全部行うようなシミュレーションも行います。
訓練のおよそ90パーセントは、何か不具合がおきた場合を想定した訓練です。例えば、コンピュータなど装置が壊れたときでも、ミッションを達成するためにどうすればよいかを、慎重に1つ1つクリアしていきます。こういった訓練は打ち上げ直前まで続きますが、クルーだけで行うのではなく、軌道上にいる私たちを24時間体制でサポートしてくれる、地上管制チームの方たちとも一緒に行います。ミッションを成功に導くためには、クルー同士はもちろんのこと、地上と宇宙がうまく連携をとって作業を進めていくことが重要です。

励みになった先輩の宇宙長期滞在

Q. 昨年、日本人初の長期滞在を行った若田宇宙飛行士の活動を、どのようなお気持ちでご覧になりましたか?また、若田宇宙飛行士はロボットアーム操作の先輩ですが、何かアドバイスはありましたか?

ロボットアームのシミュレーション訓練(提供:NASA)
ロボットアームのシミュレーション訓練(提供:NASA)

同じ日本人宇宙飛行士の仲間として、若田宇宙飛行士の活躍はとても嬉しかったです。若田宇宙飛行士は宇宙に約4ヵ月半滞在しましたが、初めての長期滞在ということもあり、2年半ぐらいかけてさまざまな訓練を行っていました。その訓練の過程で、若田宇宙飛行士が一生懸命頑張っている姿を見ていましたので、軌道上で本当に楽しそうに作業している姿を見て、「若田宇宙飛行士らしいな」と思いましたし、もうすぐ自分もISSで働くんだとすごく励みになりました。
若田宇宙飛行士は、ロボットアームのことに限らず、「宇宙ではこういうところに気をつけたほうがよい」といろいろ教えてくれます。例えば、ポケットに物を入れて蓋を閉めているから大丈夫だと思っていても、いつの間にか、ポケットに入れた物が漂ってなくなってしまうことがあるなど、生活に関するアドバイスも多かったですね。ロボットアームなどの操作方法は地上での訓練でしっかり学べますし、各ミッション後にクルーがデブリーフィング(反省会)で気づき事項を伝えてくれますが、宇宙での実生活に密着した部分はあまり教わらないので、先輩の宇宙飛行士たちの言葉がとても参考になります。

Q. 山崎宇宙飛行士はなぜ宇宙飛行士になりたいと思ったのでしょうか?

無重量環境訓練施設での訓練(提供:NASA)
無重量環境訓練施設での訓練(提供:NASA)

小学生のときに北海道の札幌に住んでいましたが、星空がとてもきれいで、家の近所で「星を見る会」というのがあると家族でよく参加していました。そのときに、天体望遠鏡で月のクレーターや星を見て、「宇宙ってすごいなあ」と思ったのが、宇宙に興味を持つようになったきっかけです。また、出生地の千葉県松戸市にもどってからも、兄と市民会館のプラネタリウムによく通い、宇宙への興味を深めていきました。そして、テレビアニメの「銀河鉄道999」や「宇宙戦艦ヤマト」を見て、「大人になったらみんな宇宙に行けるんだろうな」と素朴に思っていました。宇宙飛行士という存在を知ったのは、中学校3年生のときにテレビで見た、スペースシャトル、チャレンジャー事故の悲しいニュースでした。そこで初めて、「宇宙」と「宇宙飛行士」がつながったのです。当時、私は学校の先生に憧れていましたが、そのチャレンジャー号には民間の教師が搭乗していましたので、先生と宇宙が結びつくことにも驚きました。このことをきっかけに、宇宙飛行士という職業を意識するようになり、どんどん宇宙の道へ進むようになりました。

  
1   2
Next