STS-131クルー(提供:NASA)
STS-131ミッションへの搭乗が決まったときは大変嬉しかったです。ミッションに向けて頑張ろうという具体的な目標ができ、クルーとの訓練が始まるのがとても楽しみでした。一緒に飛ぶ7名の宇宙飛行士の仲間は一緒に働いていて楽しい方たちばかりで、このようなすばらしいクルーと一緒に宇宙へ行けることを、とても光栄に思います。
また、私の家族も喜んでくれました。私には7歳の娘がいますが、これまでに、主人が娘を連れて、日本人宇宙飛行士が搭乗するスペースシャトルの打ち上げを見に行ったことがあり、「次はママがこのスペースシャトルに乗るんだね」と言って、娘なりに楽しみにしてくれているようです。先日、娘から「宇宙に行ったらたくさん写真を撮ってきてね。宇宙から地球がどんなふうに見えるか見てみたいの」と言われ、娘が地球や宇宙のことに少しずつ興味も持ち始めたと思うと嬉しかったですね。
ロシアでの訓練に参加
訓練は厳しいというイメージがあるようですが、私にとってはどれも楽しいものばかりです。ロシアに1年近く滞在してソユーズ宇宙船の訓練をしたことがありますが、それもすごく楽しかったです。私は大学で航空宇宙工学を勉強し、宇宙飛行士になる前は宇宙開発事業団(現JAXA)でエンジニアとして、「きぼう」日本実験棟の開発に携わっていました。そのため、アメリカやロシアの宇宙の現場で、本物の宇宙船のことを学べるというのは大変嬉しく、エンジニア冥利につきます。確かに、試験がたくさんあって学ぶことが多く、サバイバル訓練のように体への負荷が大きいものもありますが、そういった苦労はどんな職業にもあると思います。
また、私は、家族や親戚、友人、同僚といった周りの皆さんの理解と協力があってこそ、宇宙飛行士を続けてこられました。特に、2004年にアメリカでの訓練が本格的に始まるときに、主人が会社を退社して、家族ができるだけ一緒にいられるようにしてくれたことが大きかったです。最近は、結婚をしても仕事を続ける女性が増えていますが、仕事と家庭をどうやりくりするかは、各々の家庭環境によって違いますし、いろいろな方法があります。私たち家族も、これまで試行錯誤の連続でした。宇宙飛行士になって約10年が経ち、今、こうしてフライトに向けて取り組むことができるのは、決して私1人の力ではなく、周りの方たちがすごく頑張ってくれたお蔭なのだという感謝の気持ちでいっぱいです。
スペースシャトルの実物大模型での訓練(提供:NASA)
私は、女性も男性も個性の1つだと思います。宇宙飛行士といっても、それぞれ個性が違いますし、技術者出身の人もいれば、研究者出身の人もいるというように、その人のバックグラウンドにある文化もさまざまです。ですから、自分が女性であることに対しての、何か特別な意識はありません。ただ、日本人で、女性ということも含めた「私」が、今回のミッションにどう味付けできるかはとても楽しみな点であり、どう味付けしようかと考えているところでもあります。やはり、7名のクルーがみんな一緒ではなく、いろいろなバックグラウンドがあるからこそチームとして成り立っていると思いますので、その中で、自分がどう個性を活かし、ミッションに貢献できるかを意識しています。 Q. STS-131ミッション後の山崎宇宙飛行士の目標は何でしょうか?STS-131ミッションでの経験を基に、できればISSへ長期滞在したいと思います。また、日本の有人宇宙船を作って、その宇宙船で宇宙へ行くことが私の大きな目標です。日本独自の輸送手段で宇宙へ行けるようになると、もっとたくさんの日本人が宇宙へ行けるようになり、宇宙がさらに身近な存在になると思います。そして、宇宙飛行士という言葉自体がかわり、宇宙へ飛行するだけでなく宇宙で何をするかが重要になってくると思います。宇宙で料理人の方や芸術家が活躍するかもしれません。いつかそんな世の中になってほしいですね。個人的には、将来、月面基地が建設されたら寺小屋のようなものを開き、そこで先生をして、宇宙から地球の子どもたちに授業をするのが夢です。
シャトル・ミッション・シミュレータでの訓練(提供:NASA)
私は小学校の理科の授業で、私たち人間を作っているのは酸素や水素、窒素といった元素で、それが星を作っている成分とほぼ同じであることを知ったときに、すごくびっくりしました。夜空の遠くに見える星と私たちが同じものできているということは、人間は星の兄弟であり、宇宙の一部なんだと気づいて、とても感動し、宇宙に親近感がわきました。ですから、宇宙へ行くというのは確かに冒険的なチャレンジかもしれませんが、それ以上に、どこか懐かしい故郷を訪ねに行くような特別な気持ちにさせてくれます。私たち自身、そして私たちが住む地球も宇宙の一部であり、その広大な宇宙で、こうして命を授かったことはすごく奇跡的だと思うのです。こういった気持ちを大事にしていくことで、人間と宇宙が共存していけたらいいなと思います。
Q. STS-131ミッションに向けた抱負を聞かせてください。ミッションスペシャリスト(搭乗運用技術者)として宇宙へ行くのは、日本人女性として初めてになりますが、これはNASAの宇宙飛行士と同等に、技術的に認められたということで、エンジニアとしてとても嬉しく思います。今回のミッションでは、ロボットアームを含め、スペースシャトルの運航にも携わりますが、きちんといい仕事をして、後輩たちに道をつなげていきたいです。私がこのミッションに選ばれたのも、これまで日本人の宇宙飛行士たちが素晴らしい実績を残し、それによって培われた信頼のお陰だと思いますので、そういう信頼を次に残せるよう、STS-131ミッションを確実に成功させたいと思います。
また、2009年12月に野口宇宙飛行士がソユーズ宇宙船で宇宙へ行き、長期滞在を行っています。私の打ち上げが予定どおりにいけば、ISSで野口宇宙飛行士と一緒になり、初めて日本人が2人同時に宇宙に滞在します。このような機会はなかなかないので、宇宙で野口宇宙飛行士と一緒に仕事をするだけでなく、何か日本の文化も紹介できたらいいなと思います。また、たくさんの子どもたちに、宇宙の素晴らしさを伝えたいと思います。
山崎直子(やまざきなおこ)
JAXA有人宇宙環境利用ミッション本部 有人宇宙技術部 宇宙飛行士
1996年、東京大学大学院工学系航空宇宙工学専攻修士課程修了。1996年に宇宙開発事業団(現JAXA)に入社し、「きぼう」日本実験棟の開発などに従事。1999年、国際宇宙ステーションに搭乗する宇宙飛行士候補者に選定され、2001年に宇宙飛行士として正式に認定される。2004年、ロシアのソユーズ宇宙船フライトエンジニアの資格を取得。2006年、NASAよりミッションスペシャリスト(MS)として認定される。MSの訓練を継続しながら、「きぼう」日本実験棟および国際宇宙ステーションのロボットアームの開発・運用に関する技術支援にも従事。2008年11月、STS-131ミッションのMSに任命される。