ご覧いただいているページに掲載されている情報は、過去のものであり、最新のものとは異なる場合があります。
掲載年についてはインタビュー 一覧特集 一覧にてご確認いただけます。


宇宙を知れば知るほど謎が深まる

Q. 宇宙のどのようなところが好きですか?研究を始める前後で、宇宙に対する印象は変わりましたか?

銀河団Abell2218。暗黒物質の重力により、この銀河団の背後にある銀河が、重力レンズ効果によってゆがんで見える(提供:NASA, ESA, Andrew Fruchter (STScl),and the ERO team (STScl + ST-ECF))
銀河団Abell2218。暗黒物質の重力により、この銀河団の背後にある銀河が、重力レンズ効果によってゆがんで見える(提供:NASA, ESA, Andrew Fruchter (STScl),and the ERO team (STScl + ST-ECF))
銀河団Cl 0024+17。中央の銀河団の外側に、暗黒物質がリング状に広がっている可能性がある(提供:NASA, ESA, M.J. Jee and H. Ford (Johns Hopkins University))
銀河団Cl 0024+17。中央の銀河団の外側に、暗黒物質がリング状に広がっている可能性がある(提供:NASA, ESA, M.J. Jee and H. Ford (Johns Hopkins University))

宇宙の好きなところは、「美しい」ということです。天体のきれいな写真を見ると、それだけで感動をします。それと、まだまだ分からないことが多く、謎めいたところも好きです。美しく、謎めいているという、この2つの組み合わせが宇宙の魅力だと思います。
宇宙の研究を始めるまでは、宇宙はとても大きく、はるか遠くにありますので、理解できないだろうと思っていました。実際にその場所に行ってサンプルを採ってこられるわけではありませんので、どうして分かるのだろう?と思っていたのです。しかし、研究を始めてみると、実際にその場所に行かなくても調べる方法があって、こんなにたくさんのことが分かるということを知りました。それは、とてもすごいことだと思います。その一方で、調べれば調べるほど、「まだこんなことも分かっていなかったのか」という驚きがあり、ある意味で、謙虚にもなります。宇宙で分かっている物質は全体の約4%で、残りの約96%はまだ分かっていないと聞くと、皆さん、きっとビックリしますよね。星が何でできているのかは分かっても、宇宙が何でできているのかは全く分かっていないのです。 Q. 宇宙の仕組みを理解することは、一般の方にどのような影響を与えると思われますか? 宇宙のことを知りたいと興味がある人にとっては、そういうことを考えているだけでワクワク、ドキドキして面白いと思います。宇宙に始まりがあったと聞くと、それだけでも驚きですし、銀河も年をとるとか、衝突して若返るという話を聞くと人間味があって面白いですよね。また、宇宙に興味がない人にも、人生観に影響を与えるのではないでしょうか。例えば、宇宙のことを考えると、人間がいかにちっぽけなものであるかを思い知らされます。昔の人々は、地球は平らで、すべての中心にあると思っていましたが、調べてみると、地球は球であり、宇宙にぽっかり浮かんでいる1つの星であることが分かりました。しかも、地球は太陽の周りをまわり、その太陽系も銀河の中をまわっています。そして、その銀河も宇宙の中にたくさんあるのです。そのようなことが分かってくると、自分中心には考えられなくなりますよね。このように、宇宙の仕組みを理解することは、人間のものの考え方などに何となく影響を与えているのだと思います。
宇宙を理解することが、何の役に立つのか?と問われると、私たちの日常生活を向上させたり、地球温暖化を防ぐなど直接的に役立つことはありません。ですが、何かを研究するために開発した技術が、医学や情報科学に間接的に役立ったという例はたくさんあります。例えば、ウェブは研究者がデータを交換するために開発したものが世界に普及しました。また、「宇宙の仕組みはどうなっているのだろう?」という素朴な疑問は、子どもたちにも分かりやすいため、若い世代が科学や数学に興味を持つきっかけになるでしょう。現在、危惧されている若者の「理科離れ」の問題にも貢献すると思います。

分かった!という瞬間が大好き

Q. 若い人を科学や数学など理系に引きつけるためには、どのようにしたらよいと思われますか?

サイエンスカフェにおける講演会(提供:IPMU)サイエンスカフェにおける講演会(提供:IPMU)

「こういうことはまだ分かっていない」ということを発信し、子どもたに疑問を持たせることが大切だと思います。私は子どもの頃、「これは事実だから、覚えなさい」と上から押し付けられるような学校の勉強が嫌いでした。もしも学校の先生が、「これはもう分かっていることだから覚えなければいけません。でも、実はこっちのことはまだ分かっていません」と言ってくれたら、子ども自身が「どうして分からないんだろう?」と疑問に思います。そして、自分たちで調べたり、考えたりすると思うんです。たとえ研究者にならなくても、「知りたい」と思うのは人間としてすごく自然なことです。知識を植えつけるのではなく、「自分たちもその謎に挑戦してみたい」という参加型の学習をすれば、子どもたちは自ずと理系に興味を持つようになると思います。子どもたちを、ワクワクさせるというのはとても重要です。
そういう意味で、私たちは、一般向けの講演会を開催したり、「サイエンスカフェ」という研究者と一般の方が気軽に語り合える機会をつくるほか、学生向けのスクールを行っています。地元の小学生にIPMUの外国人研究者が分かりやすく研究内容を話したこともありますし、女子高校生向けのイベントを行ったこともあります。また、機関誌やビデオをつくってウェブで公開しています。一般の方たちが科学を敬遠する大きな理由の1つは、聞きなれない言葉が多く難しいという点だと思いますので、専門的な言葉を研究者が解説するビデオも作っています。若い世代の方たちが興味を持っていただけるよう、これからもいろいろな企画を考えていきたいと思います。

関連リンク: IPMU はてな宇宙

Q. JAXAにはどのようなことを期待されますか?

次世代赤外線天文衛星SPICA 次世代赤外線天文衛星SPICA

JAXAは日本の宇宙開発の中心です。今までどおり宇宙飛行士を育てたり、小惑星探査機「はやぶさ」のようなロマンある計画を進めて、日本に夢を与えていただきたいと思います。
また、天文衛星は、地上にある天体望遠鏡のように大きいものを打ち上げることはできませんが、大気の影響がある地上からでは難しい観測もできます。JAXAの天文衛星と地上での研究を組み合わせて、いろいろと新しいことが分かってくると思います。例えば、現在活躍中のX線天文衛星「すざく」は、従来のX線天文衛星よりも高い感度を持っていて、薄く広がった高温ガスのX線放射も観測することができます。先ほど、私たちは宇宙全体の約4%の物質しか分かっていないと言いましたが、これらがすべて観測されたわけではありません。「ダークバリオン」と呼ばれる、観測可能なのにどこにあるか分からない物質があるのです。ダークバリオンの多くは高温の希薄なガスとして、宇宙に広く分布していると予想されていますので、「すざく」によって発見される可能性があります。ダークバリオンがどのように分布しているかが分かれば、暗黒物質の解明にもつながると思いますので、「すざく」の観測には大いに期待しています。
現在JAXAでは、次世代赤外線天文衛星「SPICA(スピカ)」の計画が進められています。これは、赤外線を使って銀河や星、惑星の誕生のメカニズムを調べるミッションです。SPICAは、欧州宇宙機関との本格的な国際協力ミッションですが、アメリカも真剣にこのミッションへの参加を考えていると聞いています。このような天文衛星が、どんな新しい発見で私たちを驚かせてくれるかとても楽しみです。

関連リンク: 次世代赤外線天文衛星SPICA

Q. 先生の今の目標は何でしょうか?

私の目標は、何かが分かったときの嬉しさを味わうことです。これは幼少の頃から変わっていませんね。私は子どもの頃から好奇心が旺盛で、「どうして?」と考えることが好きでした。そして私が幸運だったのは、父親が半導体の研究者で、子どものときに何か科学に関する質問をしても、すぐに答えてくれたことでした。それで、子ども心に、「質問には答えがある」ということを学びました。すると、「じゃあ、これはどうなんだろう」と次から次へと考えるのが楽しくなります。次第に内容が難しくなると父親は答えられなくなりましたが、「本当は答えがあるに違いない」という感覚が小さい頃から染み付いているため、「じゃあ、自分で調べてみよう」という気持ちになりました。そして、少しずつ分かってくるとワクワクして、ついに疑問が解けたときには、「分かった!」という瞬間が、気持ちよくてたまりませんでした。理解できて胸がすっきりした時の嬉しさが忘れられず、今も、「ああ、そうか!」と納得したくて、研究を行っています。

Back
1   2   3
インタビューバックナンバーへ