リアルタイム地球磁気圏シミュレーション(提供:NICT)
コンピュータ・シミュレーションによる数値予報など、定量的な予測を取り入れていくことが今後の課題です。例えば太陽の磁場の観測データを基にシミュレーションモデルを作って、数値計算をして宇宙天気の推移を予測するということです。気象予報の分野ではこの数値予報がかなり前から取り入れられていますが、宇宙天気予報では、リアルタイムの観測データと、これまで蓄積されたデータを使う経験的な予報を行っているのが現状です。
NICTでは数値予報の実現をめざし、スーパーコンピュータによる宇宙天気のシミュレーションに力を入れています。この研究分野でNICTは、実際の太陽風の観測データを使って地球磁気圏がどのように変動するかをリアルタイムで再現することに、世界で初めて成功しました。シミュレーションモデルに改良を加えて数値予報の精度が上がってきたら、経験的な予測から数値予報へと徐々に切り替えていきたいと考えています。数値予報が実用化されれば、数日先の長期的な予報が可能になり、宇宙天気予報の応用がますます広がると思います。例えば人工衛星の運用スケジュールへの利用が考えられます。太陽活動が活発になった時の一時的な体制を整えるためだけでなく、長期的な予定を立てやすくなるでしょう。また、航空管制システムや無人トラクターなどでGPSなどの測位衛星を使って測位を行う際には、リアルタイムで誤差を補正できるようになります。将来、民間宇宙旅行が実現すると、宇宙天気予報を見てから旅行に出かける、ということになるかもしれません。
太陽観測衛星「ひので」
現在運用中の太陽観測衛星「ひので」の活躍に期待しています。「ひので」の目的の1つは、太陽の磁場を高精度に観測することです。フレアは太陽面の磁場の歪みが蓄積されることで引き起こされる爆発現象なので、磁場の歪みがどれだけ溜まるとフレアが起きるという確率が定量的に分かると、フレアの発生を事前に予測することが可能になるかもしれません。
また「ひので」の観測データを、将来的な宇宙天気の数値予報にもぜひ使わせていただきたいと思っています。例えばコロナの温度や密度分布、フレアやCMEの引き金となる磁場のデータ、太陽風の加速の仕組みについての新しい知見を、宇宙天気予報のシミュレーションモデルに取り込んでいくことができれば、より良い予報が提供できるようになると期待しています。「ひので」だけでなく、JAXAの他の衛星からも宇宙天気に利用できるデータを提供していただければ助かります。
JAXAでは多くの衛星を運用されているので、その運用時には私たちの宇宙天気の情報をどんどん利用していただければと思います。これまでNICTとJAXAは、準天頂衛星初号機「みちびき」を使った技術実証実験などで協力関係にありますが、宇宙天気予報の分野でも良い関係を築いていければと思います。