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詩歌月選


世界各国で古くから詠まれてきた「月」。地球から最も近い天体である「月」を想い詠う気持ちに今も昔も変わりはありません。このページでは月にまつわる詩歌をご紹介します。


第5回


今回は大正から昭和初期にかけて活躍した童謡詩人金子みすゞの詩をご紹介します。



「月の出」

だまって
だまって
ほうら、出ますよ。

お山の
ふちが
ぼうっと明るよ。

お空の
そこと
海のそことに、

なにか
光が
とけていますよ。


「昼の月」

しゃぼん玉みたいな
お月さま
風吹きゃ、消えそな
お月さま。

いまごろ
どっかのお国では、
砂漠をわたる
旅びとが、
暗い、暗いと
いってましょ。

白いおひるの
お月さま、
なぜなぜ
行ってあげないの。


「月日貝」

西のお空は
あかね色、
あかいお日さま
海のなか。

東のお空
真珠いろ、
まるい、黄色い
お月さま。

日ぐれに落ちた
お日さまと、
夜あけに沈む
お月さま、
逢うたは深い
海の底。

ある日
漁夫にひろわれた、
赤とうす黄の
月日貝。


「月のお舟」

空いつぱいのうろこ雲
お空の海は大波だ。

佐渡から戻る千松の
銀のお舟がみえがくれ。

黄金の櫓さえ流されて
いつ、ふるさとへ着こうやら。

みえて、かくれて、荒海の
果から果へ、舟はゆく。



金子みすゞ(1903年〜1930年)
山口県大津郡仙崎村(現長門市仙崎)生まれ。大正末期から昭和の初期に活躍した童謡詩人。1930年、26歳の若さで世を去りました。没後半世紀を経た1982年に遺稿が見つかり、全集が発行されると、多くの人の心に感動を呼び起こしました。

出典:『金子みすゞ童謡全集』JULA出版局
※詩は、金子みすゞ著作保存会の了承を得て掲載しています。転載・使用については、「金子みすゞ著作保存会」(TEL.03-3200-7795 ジュラ出版局内)にお問い合わせください。




第4回


伝承童謡として英語圏で親しまれている「マザーグース」にも月が登場します。



Hey diddle diddle

Hey diddle diddle,
the cat and the fiddle,
The cow jumped over the moon;
The little dog laughed to see such sport,
And the dish ran after the spoon.

お月夜

へっこら、ひょっこら、へっこらしょ。
ねこが胡弓(こきゅう)ひいた、
めうしがお月さまとびこえた、
こいぬがそれみてわらいだす、
お皿がおさじをおっかけた。
へっこら、ひょっこら、へっこらしょ。


The Man in the Moon

The Man in the Moon came tumbling down,
To ask his way to Norwich.
He went by the South and burnt his mouth,
By eating cold plum porridge.

月の中の人

月の中の人が、
ころがっておちて、
北へゆく道で、
南へいって、
凝(こご)えた豌豆汁(えんどうじる)で、
お舌をやいてこォがした。


The Man in the Moon looked out of the moon

The Man in the Moon looked out of the moon,
And this is what he said:
"'Tis time that, now I'm getting up,
All babies went to bed."

お月さまの中のおひとが

お月さまの中のおひとが、
お月さまの外をながめて、
そして、こうおっしゃるわ。
いま、いま、わたしはおきかかる。
赤子(ねんね)のみんなはいまお寝(よ)る。

(訳:北原白秋『まざあ・ぐうす』)


「マザーグース」は英米の子どもたちに古くから親しまれてきた童謡です。内容は子守唄、早口言葉、なぞなぞと多岐にわたり、韻(rhyme)を踏む特徴をもっています。親から子へ、子から孫へと語り継がれ、現代でも文学作品や新聞に引用されることが多々あります。







第3回


今回は江戸時代に活躍した代表的な俳人が詠んだ俳句をご紹介します。



名月や池をめぐりて夜もすがら

めいげつや いけをめぐりて よもすがら

解説
(月を眺めながら池の周りを歩いていたらいつの間にか夜が明けてしまった)

松尾芭蕉(1644年〜1694年)
伊賀上野の赤坂町(現三重県上野市赤坂町)生まれ。
芭蕉は月見の会を度々開き、月を句作の題材に取り上げました。上の句も月見の会で詠まれたもの。



菜の花や月は東に日は西に

なのはなや つきはひがしに ひはにしに

解説
(一面の菜の花畑を見渡している。日が西に沈む頃、東から月が昇り始めた。)

与謝蕪村(1716〜1784年)
摂津国東成郡毛馬村(現大阪市都島区毛馬町)生まれ。
俳句を絵で表現する俳画を完成させた蕪村。その写実的な俳句は正岡子規にも大きな影響を与えたといわれています。



名月をとってくれろと泣く子かな

めいげつを とってくれろと なくこかな

解説
(満月を取ってほしいと泣いてねだるわが子。それにこたえてやれない親のもどかしい気持ち。)

小林一茶(1763年〜1828年)
北国街道柏原宿(現長野県上水内郡信濃町)生まれ。
早くに実母を亡くし、その後も妻や子を亡くすなど家庭環境には恵まれなかった一茶ですが、平易な言葉を用いた句作で今も広く愛誦されています。







第2回


今回は一千年以上も前に詠まれた和歌をご紹介します。今も同じ月を見ているからこそ、歌の情景が思い浮かび、胸に迫ってくるのかもしれませんね。



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天の海に雲の波立ち月の船 星の林に榜ぎ隠る見ゆ

あめのうみに くものなみたち つきのふね ほしのはやしに こぎかくるみゆ
(柿本人麻呂・万葉集7-1068)

解説
(天上の海には雲の波が立ち、月の船が星の林の中に漕ぎ隠れて行くのが見える)

柿本人麻呂(かきのもとひとまろ)(飛鳥〜奈良時代)
万葉集には人麻呂の歌が短歌・長歌あわせて94首収められ、枕詞、序詞を駆使した格調高い作風で知られています。



あまの原ふりさけ見れば 春日なるみかさの山に出でし月かも

あまのはら ふりさけみれば かすがなる みかさのやまに いでしつきかも
(安倍仲麿・古今集406)

解説
(ここから見える月は故郷の三笠山で見た月と同じなのだろう)

安倍仲麿(あべのなかまろ)(奈良時代)
遣唐使として中国に渡った阿倍仲麿は玄宗皇帝に仕え、李白、王維とも親交がありました。歌は帰国を祝う宴で詠まれたものですが、仲麿の乗っていた船は難破し、日本に戻ることはとうとう叶いませんでした。



照る月の流るる見れば 天の川いづるみなとは海にざりける

てるつきの ながるるみれば あまのがは いづるみなとは うみにざりける
(紀貫之・土佐日記)

解説
(海に沈む月が波に流れてゆくのを見ると、天の川が流れ出る先はやはり海だった)

紀貫之(きのつらゆき)(平安時代)
貫之が土佐の国から都へ戻るまでの紀行を平仮名で綴った「土佐日記」に収められています。上句は大湊(現在の高知県南国市)で詠まれたもの。








第1回


月夜の浜辺

中原中也
月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちてゐた。

それを拾つて、役立てようと
僕は思つたわけでもないが
なぜだかそれを捨てるに忍びず
僕はそれを、袂(たもと)に入れた。

月夜の晩に、ボタンが一つ
波打際に、落ちてゐた。

それを拾つて、役立てようと
僕は思つたわけでもないが
   月に向つてそれは抛(はふ)れず
   浪に向つてそれは抛れず
僕はそれを、袂に入れた。

月夜の晩に、拾つたボタンは
指先に沁(し)み、心に沁みた。

月夜の晩に、拾つたボタンは
どうしてそれが、捨てられようか?



中原中也 (1907-1937)

山口県出身の詩人中原中也は、生前は十分に評価されず、30歳の若さで急逝しました。没後、その作品は年とともに評価が高まり、今では近代を代表する詩人として海外にも紹介されています。今年は中原中也の生誕百年にあたります。







Fly Me to the Moon

作詞・作曲:Bart Howard
Fly me to the moon
And let me play among the stars
Let me see what spring is like
On Jupiter and Mars
In other words hold my hand
In other words darling kiss me
Fill my life with song
And let me sing forevermore
You are all I hope for
All I worship and adore
In other words please be true
In other words I love you



1954年、アメリカ人バート・ハワードによって作詞作曲された"Fly Me to the Moon"はこれまでにもフランク・シナトラ、アストラッド・ジルベルトを始め、数々のアーティストにカバーされてきました。日本では『新世紀エヴァンゲリオン』のエンディングテーマ曲に使用されたことや、宇多田ヒカルがカバーしたことが記憶に新しいかもしれませんね。