宇宙航空研究開発機構
本日開催された宇宙開発委員会調査部会において、下記のとおり報告をいたしました。
(1) 2002年5月3日: | 観測機器をONして探査機温度の上昇を図った。熱解析の結果、9月ごろには衛星内部のタンク及び配管内の燃料が自然解凍することが判明。(2.3Nのスラスターは使用可能。但しメインスラスタへの配管の解凍にはヒーター制御回路の復活が必要) |
(2) 2002年5月15日: | 事故が「短絡」に起因することを想定し、この箇所に電流を流す事で「焼ききる」復旧作業を試行したが、この作業中に送信電波がオフ状態となった。(コマンド配信部ICへの電源の不完全な立ち上がりによって不正コマンドが生じ、X帯送信機のリレーが誤動作したと考えられる。地上試験の結果、確率的に復旧しうる可能性が示唆された。) |
(3) 2002年7月: | トラブルシュートの結果に基づき2ヶ月間通信系機能の復旧を試みた結果、最低限の通信が確保できる程度に通信系機能が復旧した。2003年6月に予定された地球スイングバイ・火星到達軌道への投入までは「復旧作業」を中断することと決定した。 |
(4) 2002年8月: | 凍結していた燃料が解凍した。(「探査機−太陽間距離の短縮」および「観測機器の電源投入」によって探査機温度が上昇した事による。以後、姿勢を適切に保ち燃料凍結を防止。) |
(5) 2003年6月: | 最低限の通信機能を使って地球スイングバイを実施、火星到達軌道への投入に成功した。 |
(6) 2003年7月: | 通信系・熱制御系機能の回復を目指して、「短絡モードの不具合箇所に電流を流す事で焼ききる」復旧作業を再開した。その過程において、再び送信電波がオフ状態となり、最低限の通信も確保できない状態になった。 |
(7) 2003年12月まで: | 復旧作業、具体的には共通電源を連続ONするコマンド [総計:約1億3千万回] を実施した。その後、搭載計算機の誤動作の可能性を排除するため、搭載ROM書き換えによる共通電源連続ONの実施。さらに、搭載ROMを初期値に戻して連続ON運用を実施した。 |
(9) 2003年12月9日: | 復旧に至らなかったため、火星周回軌道への投入を断念し、衝突回避を確実にする*1為の軌道変更を9日夜に実施した。変更後の火星への衝突確率は約0.1%となった。
*1 火星における生命探査への影響を避けるために、宇宙科学関連の研究者組織である国際宇宙空間研究委員会(COSPAR)から 「特別な処置を施していない火星周回衛星に関しては打上げ後20年以内に火星に落ちる確率を1%以下にするという方針」 (COSPAR planetary protection policy)がでている。研究者として可能な限りその方針を遵守する道義的責任がある為、この措置を実施した。
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(10) 2003年12月14日: | 火星表面から約1000kmのところを通過。12月16日には火星の重力圏を脱出したと思われる。 |
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