プレスリリース

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熱帯降雨観測衛星(TRMM)の運用終了について

平成16年7月9日

宇宙航空研究開発機構

 平成9年11月28日にH-IIロケット6号機により、高度約350kmに打ち上げられた熱帯降雨観測衛星(TRMM)は、定常運用段階を平成13年1月末に終了した後も観測運用が続けられてまいりましたが、本日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)はTRMMの運用終了につき、米航空宇宙局(NASA)からの提案に合意することを決定いたしました。

 TRMMは日米共同のプロジェクトであり、観測機器の1つである降雨レーダ(PR)の開発とH-IIロケットによる衛星の打上げを日本が担当いたしました。打上げ後、当初計画されていた3年間の観測運用期間を超え、6年間以上にわたる地球観測運用が続けられ、その間、海上・陸上の気象現象、地球上の水の循環に関わる多くの貴重な観測データを取得することができました。今回の運用終了につきましては、昨年10月にTRMM運用を担当しているNASA側から、設計寿命を大幅に超えた運用継続に関して安全上の懸念があるところから、同衛星を安全に海域に落下させるため早期に運用を終了したいとの提案がJAXAにあり、JAXAからは、運用の継続をNASAに働きかけ、両者による検討・協議を進めてきましたが、今般、JAXAとしてはNASAの方針に同意することは止むをえないと判断するに至りました。

 今後、7月中にもTRMMは観測運用を停止し、約1年かけて大気の抵抗により軌道高度を下げた後、最終的な制御を行い、安全な海域に投棄される予定です。






添付資料

熱帯降雨観測衛星(TRMM)の概要



【TRMMミッションの概要】

(1)TRMMミッションの目的
  1. 日米協力により全地球規模のエネルギー収支のメカニズム解明等に不可欠な熱帯降雨の観測を行なうこと。
  2. 降雨レーダの開発及び機能・性能の確認。
(2)TRMM衛星の概要
  • 重量:約3500kg
  • 軌道:円軌道
  • 高度:約350km
    (平成13年8月25日以後 約400km)
  • 打上げ日:平成9年11月28日
  • 寿命:3年
  • 主要ミッション機器
    1) 降雨レーダ(JAXA)
    2) TRMMマイクロ波観測装置(NASA)
    3) 可視赤外観測装置(NASA)
    4) 雲及び地球放射エネルギー観測装置(NASA)
    5) 雷観測装置(NASA)
(3)日米の分担
  1. TRMMについては、日米政府間の交換公文に基づくJAXA・NASA間の了解覚書において、両機関の分担が定められている。
  2. JAXAは降雨レーダの開発、TRMM衛星の打上げ等を担当し、NASAはTRMM衛星の開発・運用を担当することとなっている。

【運用の経緯】

  • TRMMは平成9年11月28日にH-IIロケット6号機で軌道高度350kmに打ち上げられ、初期機能確認フェーズを経て平成10年1月30日から定常観測を開始した。以降、NASAによりTRMMの運用が行われている。
  • 平成13年1月末に3年間の定常運用段階を終了し後期運用段階に移行した。
  • 平成13年8月に、観測寿命を延ばすため軌道高度を402kmに変更した。


【TRMMの成果】

(1)技術的な成果
  • 降雨レーダは(PR)設計寿命の倍以上の6年を超える期間にわたり正常かつ安定した動作を行い、良好な降雨観測データを取得した。
  • 気象庁へのマイクロ波放射計(TMI)観測データの準リアルタイムでの提供を含め、地上システムの運用も良好であった。
  • 降雨レーダからの降雨推定アルゴリズムも6回に渡り改良が重ねられ、降雨の推定精度が向上した。
(2)科学面、利用面での成果
  • 宇宙からの降雨観測技術を確立したことにより、重要な科学的成果が得られた。
    -6年以上の長期にわたる降雨レーダによる、海陸を問わない均質な降雨強度の分布の観測。
    -降雨レーダによる降雨の3次元構造の観測。特に台風や集中豪雨の詳細な構造の観測。
    -降雨レーダ/TRMMマイクロ波放射計同時観測による降水量推定精度の向上。
    -降雨レーダによる土壌水分の観測。
    -マイクロ波放射装置、可視赤外放射装置による海面水温分布の観測。
  • 一般に対して、TRMMデータを用いた降雨情報の提供を行った。
    -リアルタイム情報の配信。
    -TRMM台風データベース・台風速報。一日14,000件以上のアクセスを記録。
  • TRMMデータを用いた全球の水・エネルギー循環の評価を行った。
    -エルニーニョ・ラニーニャ等の現象解析
    -降雨による潜熱加熱量の算出。
  • 気象庁予報モデルへのTRMMデータ同化による気象予報精度の向上が図れた。
  • 国土交通省の洪水警報システムに対し、米国からTRMMも含めた複合降雨データセット(TRMM REAL-TIME MULTI-SATELLITE PRECIPITATION ANALYSIS DATA SET)の提供を行っている。


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