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「第4回航空機による学生無重力実験コンテスト」
実施テーマの選定結果について

平成18年10月31日

宇宙航空研究開発機構

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、大学生等を対象に「第4回航空機による学生無重力実験コンテスト」の実験テーマ募集を行いました。有識者によるテーマ選定委員会での審査の結果、26テーマの提案から、下記のとおり無重力実験を実施する5テーマを選定しましたので、お知らせします。
 シャボン玉やロウソクといった身近な素材を用いての興味深い実験が来年3月頃に実施される予定です。取得された映像は、学校での授業素材としての活用も期待されます。なお、今回の研究提案書、過去の実験成果・体験談等は、以下のホームページをご覧ください。
 http://iss.sfo.jaxa.jp/education/parabolic/index.html


1. 選定テーマ名
テーマ名代表提案者(代表提案者学校名)
微小重力下における水と油の2重液塊の回転 荒井 俊哉(東京大学)他6名
翔ベ!大きな夢とシャボン玉 平野 大地(東北大学)他7名
無重力・微小重力空間における磁力造形 溝口 昭彦(筑波大学)他2名
加重力及び無重力時における上下肢の血流量の比較 松本 亜希子(京都大学)他3名
微小重力環境における「ロウソクの科学」 渋谷 龍一(学習院大学)他4名

2. 今後の予定
平成18年11月〜平成19年2月    提案者による実験装置の製作・技術調整。
平成19年3月    航空機実験の実施。データ解析。成果速報。

(概要)
 本コンテストは、無重力実験への学生の参加を通じて、宇宙環境利用への理解・関心を深めると共に、将来の宇宙開発を担うべき人材の育成に寄与することを目的としています。
 航空機を放物線飛行させることで、機内には約20秒間の無重力(無重量)状態が作り出せます。学生自身で実験装置を製作して航空機に搭乗し、この無重力状態等を利用した科学・技術・教育・芸術など様々な分野の実験を行います。

添付1:第4回コンテスト選定テーマ一覧
添付2:第3回コンテストまでの実施テーマ一覧



添付1

『 第4回コンテスト 選定テーマ一覧 』


実験テーマ名チーム名提案者
(○代表者)
代表提案者学校名分野実験概要
微小重力下における水と油の2重液塊の回転 東京大学無重力ゼミ ○荒井 俊哉
 (1年)
 西山 竜一
 栗木 辰悟
 釋 宏介
 塚本 昌也
 長谷川 彰洋
 福井 啓
東京大学 物理 微小重力状態では、容器内の水と油は、外側が油、中側が水の二重液塊を形成する。航空機実験で、二重液塊を回転させて変形挙動を観察し、回転数と形状の関係を求める。
翔ベ!大きな夢とシャボン玉 太田組 ○平野 大地
 (2年)
 太田 敦人
 村山 健太
 宮崎 真利
 小野 えりか
 小泉 正子
 中田 真帆
 丸山 美帆子
東北大学 物理 地上ではシャボン玉は自重および膜厚の不均一等のために割れる。微小重力環境下ではこの問題が発生しないことから、より大きなシャボン玉ができると予想され、膜の干渉縞の変化と共に検証する。
無重力・微小重力空間における磁力造形 magnet ○溝口 昭彦
 (修士1年)
 金 在樫
 東方 悠平
筑波大学 芸術 微小重力環境ならではの単純な造形要素の美的構成を確認し、宇宙空間での美術作品を開発するための基礎研究とする。航空機実験では、磁場中に打ち出した小円盤等による造形を創造する。
加重力及び無重力時における上下肢の血流量の比較 京都大学総合人間学部/大学院人間・環境学研究科チーム ○松本 亜希子
 (修士1年)
 牧 亜紗子
 森 彩子
 堀越 佳奈子
京都大学 医学
生物
微小重力条件下で生じる人間の上半身、下半身の筋萎縮の違いのメカニズムを明らかにすることを目的とする。航空機実験では、加重力および微小重力環境下での上下肢の血流量と酸素飽和度を測定する。
微小重力環境における「ロウソクの科学」 学習院大学理学部微小重力研究会2006 ○渋谷 龍一
 (3年)
 石井 啓太
 市村 豊
 水村 沙織
 小山 千尋
学習院大学 物理 ロウソクの炎の大きさには雰囲気(圧力等)・温度との線形関係が存在すると仮定した場合の「ロウソク係数」により、微小重力、加重力、1Gにおける燃焼特性を定義できるか否かを検証する。航空機実験では各種条件下で、ロウソクの燃焼状態を観察する。


添付2

『 第3回コンテストまでの実施テーマ一覧 』


第1回コンテスト (平成14年度。4テーマ実施)
(1)実験テーマ:磁場と重力場における化学波動の伝播
提案者:お茶の水女子大理学部化学科 中西奈美、他2名
テーマ概要:化学反応の中には、反応によって生成した物質(生成物質)が再び反応する物質となり、生成物質が時間経過とともに爆発的に増えるものがある。この自己触媒反応に分類される反応では、生成物質が爆発的に増加した時の濃度変化が化学波動と呼ばれる“波”として溶液中を伝わる。エチレンジアミン四酢酸コバルトと過酸化水素はこのような反応を起こし、化学波動が伝播する。その際、磁場が化学波動に対して予想外に大きな効果を及ぼすことが知られている。本実験は、この反応における対流の寄与を調べ、磁場効果のメカニズムを研究するために行なう。

(2)実験テーマ:微小重力下におけるサカサナマズの前庭代償による背泳姿勢制御
提案者:奈良県立医科大医学部耳鼻咽喉科 岡本譜史
テーマ概要:普通あおむけに泳ぐサカサナマズは、姿勢を保つ上で重要な働きをする前庭器官を片方摘出した(一側前庭器官摘出)直後は安定した背泳姿勢がとれなくなるが、一ヶ月後には正常に背泳するようになることが地上で確認されている。これは残った片側の前庭器官による代償作用(“前庭代償”)が生じたことを示している。本実験では、擬似微小重力環境である回転水流に曝した一側前庭器官摘出個体と回転水流に曝さない個体の遊泳行動を、サカサナマズを用いてパラボリックフライト中に観察、比較し、この“前庭代償”が環境に依存するものか、先天的なものかを調べる手がかりを得る。

(3)実験テーマ:人工重力下でのメダカの挙動解析実験
提案者:東京大学教養学部理科I類 細居洋介、他4名
テーマ概要:微小重力下において、地上でかかる重力とは異なる横方向の擬似重力(遠心力)をメダカにかけ、その時の水槽内でのメダカの位置を観察、解析することでメダカがどの程度の重力を感じているかを調べる。また、水槽の回転数を変えることで人工重力の強さを変化させ、メダカの挙動を調べるとともに、水流の圧力分布がメダカの姿勢制御、位置制御に与える影響を観察し、解析を行う。

(4)実験テーマ:温度勾配を有するワイヤ上の液滴の挙動観察(Wicking現象の観察)
提案者:青山学院大学工学部機械工学科 宮田啓志、他1名
テーマ概要:Wickingは、液滴が付着した表面の温度分布によって液滴内部に表面張力差が生じ、液滴全体が流動する現象である。この現象は「はんだ」の溶融時に観察され、接合不良の原因ともなるものである。地上では「はんだ」などの液体側の密度が大きいために重力の影響を強く受けるが、微小重力下ではこれらの密度差による動きが抑えられ、Wicking現象が観察され易くなる。本実験では表面張力差による流れの観察し易い試料(シリコンオイルなど)を用いてワイヤ上でWicking現象をとらえ、解析を行なう。


第2回コンテスト (平成16年度。6テーマ実施)
(1)実験テーマ:ミルククラウン形成に及ぼす重力加速度の影響
提案者:東京都立科学技術大学 渡健介、他2名
テーマ概要:様々な重力環境においてミルククラウンを形成し、その形成過程における重力加速度の影響を調べ、ミルククラウンの形成メカニズム解明に必要な実験データの取得を目的とする。実験は、液滴を射出する装置に試料(シリコーンオイル)を搭載しCCDカメラで試料の射出からミルククラウンの消滅までの撮影を行う。

(2)実験テーマ:重力変化時の血圧調節における前庭系のはたらき
提案者:福井大学 粟津ちひろ、他2名
テーマ概要:重力の受容器官である前庭系が血圧調節に関与していることがラットの実験において見出された。ヒトにおいても前庭系を介した血圧調整系が存在し、それが重力変化時の血圧調節において重要な役割を担っているという仮説を実験で証明することを目的とする。実験は、ヒトを対象にGVS(前庭系微弱電気刺激)を実施し心電図・血圧のデータを取得する。

(3)実験テーマ:国際宇宙ステーションで着る新しい機能を持つ衣服設計のための実験
〜微小重力環境下の水分移動挙動と形状変化〜
提案者:日本女子大学 小川芽久美、他2名
テーマ概要:近い将来、人類がISS等の宇宙空間で生活を行い、生活空間を快適にするためには生活関連の技術開発が必要である。地上実験では取得不可能な微小重力下での衣服材料と衣服デザインの最適化のための基礎データを取得し、飛行士の要求が高い温熱的な着心地を解明することを目的とする。実験は衣服の素材を3種類準備し、それぞれの通気性について検証する。また、あわせて衣服内環境および皮膚温を測定する。

(4)実験テーマ:微小重力下での磁性流体を用いた磁界解析実験
提案者:東京大学 阿南隆史、他5名
テーマ概要:微小重力下で磁性流体に働く重力の影響をなくすことにより、地上とは異なった磁性流体の形状変化を観察し、表面張力と静磁エネルギーが及ぼしている影響について解析することを目的とする。実験は、磁性流体に電磁石で制御した磁界をかけ、ビデオカメラを使って形状変化を記録する。

(5)実験テーマ:微小重力環境における線香花火の火花の飛び方
提案者:学習院大学 市村豊、他1名
テーマ概要:線香花火の火花の飛び方に対する重力の影響を定量的に調べることを目的とする。実験は、チャンバー内に花火を取り付けて点火し、火花の画像とチャンバー内の気体の対流をカメラで撮影する。

(6)実験テーマ:Sound Wave Sculpture II
提案者:東京藝術大学 小野綾子、他1名
テーマ概要:宇宙での長期滞在者の豊かな精神生活の糧として芸術の想像力や感性への刺激を探る。無重力でしか成立しえない新たな造形表現を行い、音波による物体の動きを調べることにより今後の芸術表現の可能性を開くことを目的とする。実験は、円筒筒内に衝撃LEDと鈴などを封入し、正弦波を与えて造形表現を行うと共にこれを記録する。


第3回コンテスト (平成17年度。6テーマ実施)
(1)実験テーマ:微小重力における毛管現象を用いた管内流体の挙動解析
提案者:東京大学 青木翔平、他2名
テーマ概要:微小重力下における毛管内の流体の動きを観察し、理論的予測との比較解析を行う。航空機実験では、断面形状の異なった毛管を扇状に配置し、ビデオ画像から毛管内の流体の到達距離と時間を計測する。

(2)実験テーマ:無重力時の上下肢における酸素飽和度の比較・検討
提案者:京都大学 山城丈、他2名
テーマ概要:微小重力条件下で生じる人間の上半身、下半身の筋萎縮の違いのメカニズムを明らかにすることを目的とする。航空機実験では微小重力および加重力下における上半身と下半身の酸素飽和度と血圧を測定する。

(3)実験テーマ:微小重力環境における霜の模様のパターン解析
提案者:お茶の水女子大学 矢口たかね、他3名
テーマ概要:霜の形成過程には水の表面張力と重力が関与する。本テーマでは微小重力条件下で種々の表面物質上に霜を形成させ、重力が減少することにより明らかになる現象を観察する。

(4)実験テーマ:Sound Wave Sculpture 3
提案者:多摩美術大学 南波幸子、他14名
テーマ概要:微小重力状態でのみ成立する造形表現の可能性を検討することを目的とする。航空機実験では音波による空気振動を利用し、透明プラスチックシリンダー内の微粒子や液体の動きを撮影する。

(5)実験テーマ:ぶつかれ青春〜粘性の異なる液滴同士の衝突
提案者:北海道大学 大村益孝、他3名
テーマ概要:無重力空間では液体同士が衝突した時に跳ね返ったり、質量の一部が移動したりする現象が見られる。この現象における液体の粘性や表面張力の効果を明らかにするために、微小重力条件下で液滴同士を衝突させ、液滴挙動を観察する。

(6)実験テーマ:金魚を用いた微小重力下での前庭−眼球運動反射と心拍変動解析
提案者:藤田保健衛生大学 江野佑子、他4名
テーマ概要:姿勢調節に関わる耳石系の運動反射と、生命活動やその自動調節に関わる自律神経系の働きが、微小重力を含む重力変動環境下でどの程度影響されるかを、金魚を用いて明らかにする。


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