プレスリリース

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超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)回線を使用した
国立天文台VERA観測データの準リアルタイム相関処理の成功について

平成22年3月15日

宇宙航空研究開発機構
国立天文台

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)と国立天文台(NAOJ)は、デジタルデバイド地域にある国立天文台VERA(※1)観測局のデータを、超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)の回線により国立天文台三鷹キャンパスに高速伝送を行い、準リアルタイム処理を実施する実験に成功しましたのでお知らせいたします。

【本実験の背景】 国立天文台VERAプロジェクトは、水沢(岩手県)、入来(鹿児島県)、小笠原(東京都)、石垣(沖縄県)の4局に直径20mの電波望遠鏡を配置し、私たちの住む太陽系を取り巻く銀河系の精密な立体地図の作成などのため、天体位置の精密計測を行っています。特に年周視差(※2)の観測により天体までの距離の計測をこれまでにない精度(※3)で行うことができます。
 VERAにおける天体までの距離の計測は、各VERA観測局において同一天体を同一時刻に観測し、観測結果を国立天文台三鷹キャンパスに集め解析することで実現しています。現在、入来・小笠原VERA観測局において、広帯域ネットワークを整備することが難しいことから、各局での観測結果は、磁気テープにて輸送されており、その解析には観測から1週間以上の時間を要しています。このため、観測成果に問題があり再観測の必要性があった場合であっても、観測時から時間が経過しているため、年周視差の計測に最適な観測時期を逃してしまう場合があり、これは、年周視差観測に重大な支障を及ぼします。このような問題から、今回、各局と三鷹キャンパスを「きずな」の持つ広帯域ネットワークにより結び、観測データ伝送及び観測の準リアルタイム解析処理を行いました。

  1. 実施結果
    (1)実験日:平成22年3月4日(木)〜3月5日(金)
    (2)実施場所:国立天文台三鷹キャンパス、VERA小笠原観測局、VERA入来観測局、VERA水沢観測局、VERA石垣観測局、情報通信研究機構(NICT)小金井本部

  2. 実験内容
     4局のVERA観測局(小笠原、入来、水沢、石垣)の観測データを用いて実験を実施しました。これらの観測データは、小笠原観測局は既設の「きずな」用アンテナ(以下、アンテナ)を使用、入来観測局は可搬型アンテナを設置し、NICT本部の既設アンテナへ伝送しました。NICT本部からは高速の地上ネットワーク(JGN2+)を利用し三鷹キャンパスに観測データを伝送しました。水沢観測局、石垣観測局の観測データは、既設の地上回線により三鷹キャンパスに伝送し、同キャンパスにおいて4観測局の観測データの準リアルタイム解析処理を実施しました。

  3. 実験成果
    (1)「きずな」のアクティブ・フェーズド・アレイ・アンテナ(APAA)とマルチ・ビーム・アンテナ(MBA)による各拠点からJGN2+を介した三鷹キャンパスまでの接続性検証
     小笠原観測局はAPAA、入来観測局、NICT本部はMBAを用いて通信を実施し、JGN2+経由で三鷹キャンパスまで最大70Mbpsの通信が行えることを確認しました。両局については、既存回線が1.5Mbps(実測値)であり、既存回線と比較し45倍以上の伝送速度を達成しました。 これにより、「きずな」によってデジタルデバイド地域からの大容量データ伝送が可能であり、デジタルデバイド解消に「きずな」の高速大容量通信が有効であることを実証しました。

    (2)VERA観測データの準リアルタイム解析処理
     VERA小笠原観測局、入来観測局のデータを「きずな」を使用して伝送し、また水沢観測局、石垣観測局から のデータは地上回線を用いて伝送し、三鷹キャンパスにて準リアルタイムでの解析処理を行いました。その結果、これまで1週間以上かかっていた観測の成否判断を即時(5分以内)に行うことができることを確認し、観測・研究の効率化に大きな効果があることを実証しました。またこの結果を活かすと、観測中に突発的に明るさが急変する天体(激変星)を見つけた際に観測プログラムを柔軟に変更することも可能となり、突発的な天体現象も逃さず、より効果的な観測を行うことができるようになります。
■ 本件に関するお問い合わせ
(「きずな」の伝送に関するお問い合わせ)
  宇宙航空研究開発機構 広報部
  〒100-8260 東京都千代田区丸の内1-6-5 丸の内北口ビルディング
   Tel. 03-6266-6400 Fax. 03-6266-6911

(解析処理に関するお問い合わせ)
  自然科学研究機構 国立天文台 天文データセンター
  〒181-8588 東京都三鷹市大沢2-21-1
  Tel. 0422-34-3565 Fax. 0422-34-3840



(実験概要)

【実験イメージ図】


※1:VERAとは
 VERAはVLBI Exploration of Radio Astrometryの略であり、水沢(岩手)、入来(鹿児島)、小笠原(東京)、石垣(沖縄)の4局に直径20mの電波望遠鏡を配置し、銀河系内の電波天体の距離と運動を精密計測するプロジェクトです。それぞれの望遠鏡で同時に天体を観測することで、直径2300kmの電波望遠鏡に相当する高い分解能が得られます。さらに、VERAは年周視差計測に特化された世界でも唯一の電波望遠鏡であり、その2天体同時観測機能により天体の距離を正確に求めます。VERAはこの方法によって、最終的には銀河系の天体のうち約1000個程度について距離と運動を計測し、銀河系の精密な立体地図をつくることを主な目的としています。さらに、銀河の構造と運動状態を明らかにすることにより、現代天文学において大きな謎である暗黒物質(ダークマター)の量や分布を明らかにすることが期待されています。
 VERAによる天体距離計測成果として、メーザー天体(S269)の距離が17,250光年と、これまで最高距離の約2倍(Sco X-1(X線連星)天体、9,050光年、米国)を達成(2007年)しました。
 参考URL : http://veraserver.mtk.nao.ac.jp/index-J.html


【VERA観測局配置図】


※2:年周視差とは
 年周視差とは地球の公転により発生する星の見かけの位置変化であり、年周視差を計測することにより天体までの距離を決めることができます。年周視差による距離測定は天体までの距離を決めるのに最も正確な方法ですが、天体の年周視差は小さいのでその正確な測定はとても大変です。天体までの距離は天体の明るさや重さを知る上で必要な情報であり、年周視差の計測は天文学上重要な基礎となります。

※3:天体の位置測定性能
 従来のVLBIの精度は、0.001秒角でしたが、VERAの精度は、0.00001秒角(10マイクロ秒角)で従来の100倍の観測能力で、これは月面上の1円玉を判別できる測定精度です。

(VERA観測例)      

【VERA観測データのクロス・スペクトラム・マップ】
               

 「きずな」を使って伝送したVERA観測データを相関処理した例。左図は観測品質が良い場合、右図はある1局の観測品質が悪い場合です。右図のような結果では再観測が必要となりますが、現在は再観測の必要性を判断するのに1週間以上かかっています。「きずな」を使えばこの判断をほぼリアルタイムに行うことができます。

(参考URL)
「きずな」についてはこちらから
http://www.satnavi.jaxa.jp/project/winds/index.html

「きずな」実験推進ページ
http://winds-ets8.jaxa.jp/winds/