岩手医科大学
宇宙航空研究開発機構
超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)を使用した遠隔病理診断実験〜衛星による病理診断の実利用化に向けた新しい試み〜 岩手医科大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、国際医療福祉大学三田病院、琉球大学の協力を得て、盛岡、東京、沖縄の3地点を超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)で結び、遠隔病理診断の実利用化に向けた実証実験を実施しました。
最新の遠隔病理診断機器には高速通信回線が必要であり、既存の通信衛星では通信速度が足りず使用することができません。本実験では、「きずな」の高速回線を使用して多地点の異なる分野の専門医によるカンファレンスを行いながら病理診断ができることを実証しました。この結果から、将来「きずな」のような高速通信衛星を用いることで、地上の高速回線が整備されていない地域においても最先端の医療が受けられるようになることが期待されます。
なお本実験は、利用研究・実証を通じた衛星及びデータの利用促進と新たな利用創出を目指すJAXAの取り組みと、「文部科学省宇宙利用促進調整委託費『通信衛星を利用した遠隔病理診断(テレパソロジー)の試み』」による岩手医科大学の取り組みとを連携させ、実施しました。
1.背景・目的
病理診断とは患者の体から摘出した病変組織や細胞を顕微鏡で観察して診断することです。日本では病理医の数が少なく、特に地方には少ないことが問題となっています。病理医がいない場合には、手術により一旦細胞を摘出して病理医へ郵送し、診断結果が返ってきた後、症例によっては病変部全体を摘出するためにもう一度手術を行うなど、患者の負担が大きくなってしまいます。
この問題を解決するために、通信回線を利用した手術中遠隔病理診断が行われるようになってきていますが、遠隔病理診断は大容量の画像を送るための高速通信が必要であり、光回線などの地上の高速回線が整備されていないデジタルデバイド地域では最先端の遠隔病理診断を受けることが難しいなど、医療格差が生じています。また、これは国内だけの問題ではなく、海外においても診断病理医の少ない地域でも深刻な問題です。
このため、「きずな」を使った遠隔病理診断実験を行い、「きずな」のような高速通信衛星の遠隔病理診断における有効性の検討を行いました。
2.実験概要
(1)実験日:平成22年6月28日(月)〜6月30日(水)
(2)実施場所:岩手医科大学、国際医療福祉大学三田病院、琉球大学
(3)実験構成と内容:
岩手医科大学、国際医療福祉大学三田病院、琉球大学の3地点に「きずな」用小型アンテナを設置し、「きずな」により図1に示すように3地点を結び、バーチャルスライドシステム(※1)と音声会議も加えた専門医による遠隔病理診断を実施しました。