宇宙航空研究開発機構
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、平成22年5月21日(日本標準時、以下同様)に種子島宇宙センターから打ち上げられたIKAROSの運用において、7月13日に姿勢制御デバイス(液晶デバイス)による展開後のセイルの姿勢制御実験※1を行いました。その後、データの確認・解析を行い、想定通りの姿勢制御性能を達成していることを確認いたしましたのでお知らせいたします。
姿勢制御デバイス(液晶デバイス)とは、通電することで表面の反射特性が変わる薄膜デバイスで、燃料を用いずに太陽光圧のみを利用してセイルの姿勢制御を行うための工学実験機器です。
IKAROSのようなスピン型のソーラーセイルにとって、柔軟性を有する大型の膜面に対して振動を励起しないように小さい姿勢制御トルク※2を連続的に発生させる技術や、スピンする膜面の持つ大きな角運動量の方向(姿勢)を燃料を消費せずに制御する技術は、非常に重要な技術となります。太陽光圧を用いて姿勢制御を行う今回の方法は、そのための有力な手段の一つであり、世界に先駆けてJAXAが独創的に開発してきたものです。
今後は、IKAROSでの姿勢制御実験を継続して実施し、姿勢制御性能を詳細に評価するとともに、ソーラーセイルを用いてより遠くへ、より長期間航行することを可能にする技術として、太陽光圧を利用した姿勢制御技術の研究を進めていきます。
※1 IKAROSの通常時の姿勢制御は、液晶デバイスではなく、実証機本体に搭載されたスラスタを用いて行っています。
※2 トルクとは回転軸まわりに物体を回転させようとする力のモーメントのことです。今回の液晶デバイスを用いた姿勢制御実験では、太陽光圧を用いて姿勢制御を行っているため、発生する姿勢制御トルクは非常に微小であり、連続的にトルクを発生させることで、膜面の振動を励起せずに姿勢制御することが可能です。
上記のように、スピン周期に同期して膜面上の8つのブロックの液晶デバイスのON/OFFを切り替えて、望みの方向の姿勢制御トルクを発生させることが可能です。
上の図は、2010年7月13日7時35分頃から翌日6時25分頃(ともに世界標準時)まで液晶デバイスによる姿勢制御実験を行った結果を太陽角※3で評価したものです。制御していない状態では、太陽角が徐々に増加しているのに対して、液晶デバイスを用いて太陽指向制御を行うことにより、太陽角が減少(太陽指向)していることが分かります。
本実験実施時の実証機のスピンレート、太陽距離、太陽角等を加味した初期評価により、想定する姿勢制御角の90%以上の制御性能を達成していることが確認できました。
セイルの若干のたわみによって液晶デバイスがスピン軸に対して傾いていることの影響や、軌道上でのセイルの展張半径の正確な解析結果などを踏まえた詳細な解析を継続して行い、姿勢制御性能評価の精度を向上させていきます。
※3 太陽角とは、以下の2直線(AとB)が成す角度
直線A:IKAROSのスピン軸
直線B:IKAROSと太陽を結ぶ直線