宇宙航空研究開発機構
宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の観測データを用いて、初めて10m精度の「氷河湖台帳(インベントリ)」を作成し、ホームページで公開することとしましたので、日本とブータンで同時にお知らせいたします。本台帳は高精度に調査したブータン王国における最新の氷河湖の情報(緯度経度、面積、長さ、幅、標高等)で、現地で深刻な問題となっている氷河湖決壊洪水(GLOF; グロフ)(※1)の対策や危険度の評価への利用が期待されます。これらの活動を行っている国連や関係機関から早期公開の要望が高いことから、ブータン中央部に位置するマンデ川(Mangde Chu)流域の氷河湖台帳を先行して公開します。本流域内で93の氷河湖を抽出しており、氷河湖の総面積はおよそ903万平方m(東京ドーム約190個分)、氷河湖の平均長さ395m、幅280mとなっています。
ブータンやネパールといったヒマラヤ地方では、氷河から融け出した水分によって湖(氷河湖)を形成していますが、近年この拡大が急速に進んでいると言われます。氷河湖は自然の岩や瓦礫からなる堤状の地形(モレーン)によって堰き止められているため、いつ決壊するか分からない状況で、下流で生活する人々の安全を脅かしています。しかし、どのくらいの大きさの氷河湖が、どのように分布しているのか正確に把握されていないのが現状です。
JAXAではブータン王国経済省地質鉱山局と国内15機関(*)との協力の下、氷河湖の現状を把握し、氷河湖決壊洪水の危険度を客観的に評価するために、(独)科学技術振興機構(JST)と(独)国際協力機構(JICA)による「地球規模課題対応国際科学技術協力事業」(SATREPS)において「ブータンヒマラヤにおける氷河湖決壊洪水に関する研究」(研究代表:名古屋大学)を実施しています。今回公開する「氷河湖台帳」は本研究の成果であり、「だいち」(ALOS)に搭載されている高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2; アブニール・ツー)(※2)とパンクロマチック立体視センサ(PRISM; プリズム)(※3)による2006年から2011年の観測データを用いて作成しています。アブニール・ツーとプリズムから作成したパンシャープン画像(※4)から目視で水域を抽出し、一定の条件(※5)で氷河湖を抽出しました(一部は被雲のためアブニール・ツーのみ使用)。
図1は整備を進めているブータン全域のパンシャープン画像で、図中のグレーは国境、水色は水系、赤枠はマンデ川流域を示します。黄色枠は本台帳に掲載している92の氷河湖を示しています。また、図2はマンデ川上流部に位置するメタツォタ氷河湖付近の拡大で、黄色は本台帳による氷河湖、緑は2010年現地におけるGPS計測結果を示していますが、両者はよく一致していることが分かります。赤色は2000年に整備された台帳ですが、大きくずれていることが分かります。ブータン全域における氷河湖台帳は来年度末に公開の予定です。
* 名古屋大学、立教大学、北海道大学、(独)防災科学技術研究所、広島工業大学、(独)海洋研究開発機構、(財)リモート・センシング技術センター、新潟大学、総合地球環境学研究所、(株)地球システム科学、弘前大学、日本大学、帝京平成大学、群馬大学、慶應義塾大学
【サイト入り口はこちらから】
JAXA 宇宙利用ミッション本部 地球観測研究センター(EORC)
ALOSによるブータン氷河湖インベントリ:
http://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/bhutan_gli/index_j.htm (日本語版)
http://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/en/bhutan_gli/index.htm (英語版)
図1 ブータン全域のパンシャープン画像(グレー:国境、水色:水系)と今回公開する「氷河湖台帳」(黄色)
図2 メタツォタ氷河湖付近の拡大図(黄色:本台帳、緑:2010年現地におけるGPS計測結果、赤:国際総合山岳開発センター(ICIMOD)による2000年の氷河湖台帳)