プレスリリース

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神戸市消防防災ヘリコプターによる
「災害救援航空機情報共有ネットワーク(D-NET)」評価実験について

平成24年10月31日

宇宙航空研究開発機構
総務省消防庁
神戸市消防局

阪神・淡路大震災や東日本大震災では、多数の航空機が災害救援活動に従事し、大きな成果を挙げましたが、今後発生が危惧される大規模災害に備えてより安全で効率的な運用を行うためには、解決すべき技術的課題があります。この課題を解決するため、宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)は、総務省消防庁ならびに神戸市消防局との協力のもと、「災害救援航空機情報共有ネットワーク(D-NET)」を使った消防防災ヘリコプター運航管理システムの研究開発を進めております。
 この度、10月27日に行われた平成24年度緊急消防援助隊近畿ブロック合同訓練において、D-NETを消防防災ヘリコプター、運航拠点、総務省消防庁等に試験的に導入し、実際の災害を想定した運用を行うことにより、システムの評価実験を実施しました。
 実験を通じ、D-NETを用いて情報を共有化し、運航管理を行うことによって、災害救援活動をより効率的に実施できる効果を検証しました。

  1. D-NETを用いた運航管理の特長
    従来の運航管理では、各ヘリコプターと運航拠点の間は、航空無線を用いた音声通信によって情報のやりとりが行われます。運航拠点では、災害対策本部から電話やFAX等によって送られてくる災害情報をホワイトボード等を使って整理・共有化し、どの機体にどの任務を割り当てるかを決めていきます。
    一方D-NETの機材を搭載したヘリコプターでは、災害情報を機上でデータ化し、衛星通信を使って運航拠点に送信することが可能です。運航拠点では、ヘリコプターや地上の消防隊員から送られてくる災害情報が地理情報システム(GIS)上に表示されるとともに、その情報に基づいて最も適したヘリコプターに任務を割り当てるための判断支援をシステムが行います。任務を割り当てられた機体には、衛星通信によって任務に必要なデータが送信され、機内のディスプレイに表示されます。これにより、従来と比べてより迅速に任務を実施できる効果が期待されます。また、これらの全ての情報は、総務省消防庁に設置されたD-NET端末上でもリアルタイムでモニタすることが可能になります。
  2. 訓練およびD-NET評価実験の実施概要
    27日の訓練では、山崎断層で地震が発生、姫路市で震度6強という被害想定のもと、近隣府県からの応援も含めて7機の消防防災ヘリコプターが神戸ヘリポートに参集し、従来の手法で運航管理が行われました。
    一方、神戸市消防防災ヘリコプター1機にD-NETの機材が搭載されており、さらにD-NETを搭載したJAXAの実験用ヘリコプター「MuPAL-ε」も参加し、また運航拠点、災害対策本部、総務省消防庁等にD-NETの端末を設置することで、災害情報の収集から任務の実施までの一連の流れの運航管理をD-NETを用いて行いました。
  3. D-NET評価実験の主な結果
    今回の実験では、実際の災害を想定した運用環境の中で、D-NETを用いた運航管理の有効性を実証することができました。
    神戸市消防防災ヘリコプターからD-NETで送られてくる災害情報に基づいて、運航拠点において、JAXAのヘリコプターに想定被災地(赤穂市)へ救援物資を輸送する任務が割り当られ、実際に物資を輸送しました。このケースでは、D-NETを用いた場合に、従来の運航管理手法と比較して、災害の発見から救援活動を任務とするヘリコプターへ任務情報を伝達するまでの時間を約72%(23分程度)短縮できる効果が明らかになりました。
    また、総務省消防庁(霞ヶ関)用のシステムにおいても、緊急消防援助隊の活動状況がモニタ可能になることにより、広域応援(現地でヘリコプターが不足している場合に全国の消防防災ヘリコプターの中から最も適した機体を選定して派遣する)をより迅速に行える効果も確認することができました。
  4. 今後の課題と予定
    今後は、神戸市消防防災ヘリコプターの日常的な訓練等の運航を通してシステムの信頼性の確認を行うとともに、関係機関との協力のもと、今回の評価実験の結果のより詳細な分析を進め、実用化を目指したD-NETの改良を進めてまいります。




(1) 従来の運航管理


(2) D-NETを用いた運航管理

図1 災害発見からヘリコプターへ任務が割り当てられるまでの運航管理の流れ

図2 D-NET評価実験の実施概要

図3 D-NETを搭載した神戸市消防防災ヘリコプター

図4 D-NETを搭載したJAXA実験用ヘリコプター

(1) マップ表示画面の例

(2) 災害情報入力画面の例

(3) 任務情報表示画面の例


図5 機上ディスプレイの表示例

図6 地上ディスプレイの表示例

(1) 神戸ヘリポート内の運航拠点の様子

(2)ホワイトボードを用いた運航管理



(3) 神戸機が情報収集の任務で出動

(4) 近隣府県からヘリコプターが参集



(5) 神戸ヘリポートでJAXA機に救援物資を搬入

(6) 赤穂市に到着し救援物資を搬出


図7 緊急消防援助隊近畿ブロック合同訓練およびD-NET評価実験の実施状況


図8 D-NETによる情報伝達時間短縮効果の例