宇宙航空研究開発機構(以下、「JAXA」)は、第一期水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W1)[平成24年5月18日打上げ]の初期校正作業※1完了に伴い、「しずく」に搭載している高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)の輝度温度プロダクト※2の提供を本日から開始します。
このたび公開する輝度温度プロダクトは、「しずく」が観測した生のデータに補正処理を加えたもので、気象庁や民間気象予報事業者をはじめ、気象・気候変動研究等に携わる研究者・研究機関での幅広い利用が予定されているだけでなく海外の関係機関(米国海洋大気庁等)における利用も想定されています。
今後、この輝度温度プロダクトをもとに積算水蒸気量、積算雲水量、降水量、海面水温、海上風速、海氷密接度、積雪深、土壌水分量といった8種類の地球物理量プロダクトを作成します。これについては、地上での測定データとの比較などの検証作業を実施中で、打上げ1年後の今年5月を目処に提供を開始する予定です。
【提供方法】
JAXAの第一期水循環変動観測衛星「しずく」のデータ提供に関するホームページ(https://gcom-w1.jaxa.jp)でユーザ登録を行えば、輝度温度プロダクトをダウンロードいただけます。
- ※1 観測装置(「しずく」の場合はAMSR2)が計測するデータを評価し観測装置や地上のデータ処理ソフトウェアの調整を行って計測精度(輝度温度の精度)の向上を図る作業。
- ※2 輝度温度は、地表面や大気中から放射される特定の周波数の電波の強さを表すもの。
第一期水循環変動観測衛星「しずく」については、JAXA宇宙利用ミッション本部のホームページ(
http://www.satnavi.jaxa.jp/project/gcom_w1)をご覧ください。
添付資料:「しずく」搭載高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)のプロダクトについて
(1)輝度温度プロダクト
AMSR2は地表面や大気中から放射される7GHz帯から89GHz帯までの6つの周波数帯のマイクロ波の強度を計測します。7GHz帯では6.925GHzと7.3GHzの2種類の周波数、89GHz帯ではA系とB系の2つの受信系統を有しており、また、各々の周波数/系統が垂直偏波と水平偏波を計測できるので、合計16種類の輝度温度プロダクトが提供されます。AMSR2の主要諸元を表1に、輝度温度プロダクトの例を図1に示します。
表1 AMSR2の主要諸元
観測周波数(GHz) |
6.925 |
7.3 |
10.65 |
18.7 |
23.8 |
36.5 |
89.0(A) |
89.0(B) |
観測偏波 |
垂直偏波 及び 水平偏波
|
計測範囲(K) |
2.7〜340
|
温度分解能(K) |
0.34 |
0.43 |
0.7 |
0.7 |
0.6 |
0.7 |
1.2 |
1.2 |
瞬時視野角
(Az×El) |
35×62 |
34×58 |
24×42 |
14×22 |
15×26 |
7×12 |
3×5 |
3×5 |
観測幅(km) |
1450
|

図1 輝度温度プロダクトの例(平成25年1月18日の昇交軌道)
(2)地球物理量プロダクト
ある周波数の輝度温度は、放射される地表面や大気などの物体や状態によって異なるため、いくつかの周波数の輝度温度の情報を組み合わせることによって、海面水温などの地球物理量を算出することができます。AMSR2の輝度温度プロダクトがどの地球物理量プロダクト(積算水蒸気量、積算雲水量、降水量、海面水温、海上風速、海氷密接度、積雪深、土壌水分量の8種類)に使用されるかの関係を図2に示します。例えば、海面水温の場合は、海面の温度に敏感な6.925GHzの輝度温度プロダクトを主として使用し、23.8GHzや36.5GHzの輝度温度プロダクトを使用して大気中の水蒸気などの影響を補正します。
地球物理量プロダクトについては、ラジオゾンデや海洋ブイなど、「しずく」と独立した地上観測などの手法で得られるデータと比較して精度を評価する検証作業を実施中で、打上げ1年後の今年5月を目処に作業を完了して提供を開始する予定です。
地球物理量プロダクトは、漁業把握のための漁海況情報の作成、干ばつ・洪水の把握や農業分野への応用、北極海域海氷の監視など、様々な分野での利用が予定されています。

図2 AMSR2の輝度温度プロダクト(6.925〜89.0GHz)と地球物理量プロダクトの関係

図3 地球物理量プロダクト例 (平成25年1月18日の昇交軌道)
現在、未検証のブラウズ画像については、JAXA地球観測研究センター(EORC)のホームページ(
http://suzaku.eorc.jaxa.jp/GCOM_W/JASMES_daily)でご覧いただけます。