宇宙航空研究開発機構(以下、「JAXA」)は、第一期水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W1、平成24年5月18日打上げ)の初期検証作業※1完了に伴い、「しずく」に搭載している高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)が観測したデータから、大気中の水蒸気量や海面の温度など、地球の水に関する物理量を算出した8種類の成果物(地球物理量プロダクト)の提供を本日から開始します。
これらのプロダクトは、近年その減少が懸念されている北極域の海氷面積や、エルニーニョ・ラニーニャ現象などの地球規模での環境の変化を捉えるのに貢献するとともに、気象庁や米国海洋大気庁などの気象機関で台風や豪雨などに関わる気象・降水予測、漁業情報サービスセンターで効率的な漁場探査のための漁海況情報の作成、アジア開発銀行(ADB)との協力プロジェクトにおけるアジアの国々での洪水対策改善など、様々な分野で利用される予定です。
- ※1「しずく」のデータから得られる水蒸気量や海面水温などの地球物理量の精度を、「しずく」と独立な地上観測などの手法で得られるデータと比較することによって評価し、精度を向上させる作業。
【提供方法】
JAXAの第一期水循環変動観測衛星「しずく」のデータ提供に関するホームページ(
https://gcom-w1.jaxa.jp)でユーザ登録を行えば、輝度温度プロダクトをダウンロードいただけます。 なお、輝度温度プロダクトについては、本年1月25日から提供を開始しています(
http://www.jaxa.jp/press/2013/01/20130125_shizuku_j.html)。
第一期水循環変動観測衛星「しずく」については、JAXA宇宙利用ミッション本部のホームページ(
http://www.satnavi.jaxa.jp/project/gcom_w1)をご覧ください。
添付資料:「しずく」搭載高性能マイクロ波放射計2(AMSR2)のプロダクトについて
JAXAでは、「しずく」搭載AMSR2が観測したデータから、地表面や大気中から放射される特定の周波数の電波の強さを表す「輝度温度プロダクト」と、輝度温度プロダクトを入力データとして地球の水に関する物理量を算出した「地球物理量プロダクト」を生成し、標準プロダクトとして一般の利用者に提供します。「しずく」の標準プロダクトの概要を表1に示します。
表1 「しずく」の標準プロダクト
プロダクト |
対象領域 |
空間分解能 |
輝度温度
(6周波帯・2偏波) |
全球 |
5-50km |
地球物理量 |
積算水蒸気量 |
全球洋上 |
15km |
積算雲水量 |
全球洋上 |
15km |
降水量 |
熱帯〜温帯 |
15km |
海面水温 |
全球洋上 |
50km |
海上風速 |
全球洋上 |
15km |
海氷密接度 |
高緯度洋上 |
15km |
積雪量 |
陸圏 |
30km |
土壌水分量 |
陸圏 |
50km |
(1)輝度温度プロダクト
AMSR2は地表面や大気中から放射される7GHz帯から89GHz帯までの6つの周波数帯のマイクロ波の強度を計測します。7GHz帯では6.925GHzと7.3GHzの2種類の周波数、89GHz帯ではA系とB系の2つの受信系統を有しており、また、各々の周波数/系統が垂直偏波と水平偏波を計測できるので、合計16種類の輝度温度プロダクトが提供されます。AMSR2の主要諸元を表2に、輝度温度プロダクトの例を図1に示します。
観測装置であるAMSR2が計測するデータを評価して、観測装置や地上のデータ処理ソフトウェアの調整を行って計測精度(輝度温度の精度)の向上を図る作業(校正作業)を実施後、本年1月25日に提供を開始しました。
輝度温度プロダクトは、地球物理量プロダクトを作成するための入力データになるとともに、気象庁や米国海洋大気庁など国内外で気象業務などに利用される予定です。
表2 AMSR2の主要諸元
観測周波数(GHz) |
6.925 |
7.3 |
10.65 |
18.7 |
23.8 |
36.5 |
89.0(A) |
89.0(B) |
観測偏波 |
垂直偏波 及び 水平偏波
|
計測範囲(K) |
2.7〜340
|
温度分解能(K) |
0.34 |
0.43 |
0.7 |
0.7 |
0.6 |
0.7 |
1.2 |
1.2 |
瞬時視野角
(Az×El) |
35×62 |
34×58 |
24×42 |
14×22 |
15×26 |
7×12 |
3×5 |
3×5 |
観測幅(km) |
1450
|

図1 輝度温度プロダクトの例(平成25年1月18日の昇交軌道)
(2)地球物理量プロダクト
ある周波数の輝度温度は、放射される地表面や大気などの物体や状態によって異なるため、いくつかの周波数の輝度温度の情報を組み合わせることによって、海面水温などの地球物理量を算出することができます。AMSR2の輝度温度プロダクトがどの地球物理量プロダクト(積算水蒸気量、積算雲水量、降水量、海面水温、海上風速、海氷密接度、積雪深、土壌水分量の8種類)に使用されるかの関係を図2に示します。例えば、海面水温の場合は、海面の温度に敏感な6.925GHzの輝度温度プロダクトを主として使用し、23.8GHzや36.5GHzの輝度温度プロダクトを使用して大気中の水蒸気などの影響を補正します。
地球物理量プロダクトについては、ラジオゾンデや海洋ブイなど、「しずく」と独立した地上観測などの手法で得られるデータと比較して精度を評価する検証作業を実施し、予定通り打上げから約1年後の本日から提供を開始しました。
地球物理量プロダクトは、北極海域海氷の監視、漁業把握のための漁海況情報の作成、干ばつ・洪水の把握や農業分野への応用など、様々な分野での利用が予定されています。

図2 AMSR2の輝度温度プロダクト(6.925〜89.0GHz)と地球物理量プロダクトの関係

図3 地球物理量プロダクトの例(平成25年5月8日の降交軌道)
参考:「しずく」の観測画像