ここでは、内圧データから検出できない寸法の推進薬塊がノズルスロートインサートに衝突する可能性について検討した。
テレメトリデータとしての分解能は 0.05MPa でノイズレベルも同等と評価されているため、異物がノズルスロートを通過する場合の内圧変動として、約 0.1MPa 以下は検出困難である。
また時間応答性の観点からは、センサはkHzオーダの十分な応答性を有し、データサンプリングレート=200Hz(5ms) はチャンバ内定在波の周期約 20ms より短いため、ノズルスロート部をある寸法以上の異物が通過すれば内圧変動として捉えることができる。
推進薬塊がスロート部燃焼ガス流速約 1000m/s に比べて十分に遅い速度でスロートを通過すると仮定する。質量保存の関係から、塊の等価直径 Ds,eq は、ノズルスロート径を Dt 、推進薬燃速の圧力指数を n、モータ内圧を P、内圧変動をδPとして次式で表される。
ここで、定常モータ内圧約 5MPa からの内圧変動をδP=0.1MPa とすると、初期ノズルスロート径 Dt=745mmφに対して、内圧変動として検出できない塊の最大等価直径 Ds,eq=80mmφが得られる。
推進薬グレイン山部が一部損壊、欠落し、球状の推進薬塊となってノズルスロートに到達するまでの挙動をCFD解析した。解析上の仮定を以下に示す。
その結果、慣性力および流体力の働きを考慮して最も衝突の可能性が高いと考えられるケースでも、スロート通過時の等価径が 80mmφ以下の塊はスロートインサート内壁面に衝突しないという結果が得られた。さらに、確実に内圧センサ出力で検出可能なその1.5倍の寸法の塊(Ds,eq=120mmφ,δP=0.22MPa)についてもほぼ同じ軌跡をたどって落下し、衝突しないことを確認した。図1-2、図1-3に解析結果の1例を示す。また、3次元CFD解析の結果を図1-4に示す。3次元流れの効果を考慮しても塊は衝突しないことを示している。
内圧変動として検出できない寸法の推進薬塊が、スロートインサートに衝突する可能性は極めて小さい。
FTAを図2-1に示す。同図で×印は可能性が極めて小、△印は可能性有り又は要再評価を表す。前章の議論で、前報で検討中とした推進薬の衝突の可能性は無しとした。前報で規格項目不十分とした要因は設計マージン不足に含めた。
スロートインサートに使われているグラファイト材の各負荷応力での臨界き裂長さを非破壊検査の目安として推定する。簡便のため十分遠方に単軸引張応力が作用し純粋モードI破壊を起こすと仮定して推定を行う。表3-1-1に示す材料物性値を使用する。ここで求めた臨界き裂長さは応力拡大係数 KI の測定誤差が通常10%程度である事を考慮すると20%程度の変動を考慮しなければならない。
温度 | 室温 | 2000℃ |
---|---|---|
応力拡大係数 (MPa・m1/2) |
0.82 | 1.2* |
引張強度(A値) (MPa) |
24 | 33 |
* 他の等方性グラファイトの温度依存性から推定
以下の十分遠方に作用する応力σと KI の関係を用いて臨界き裂長さを推定した。
ここで、き裂長さ a は円板状欠陥の半径として計算されるので、内在欠陥の場合のき裂長さは 2a であり、表面欠陥の場合は a がき裂深さとなる。
以上から、室温及び 2000℃ における臨界き裂長さを求めると以下の表のようになる。ここで、欠陥存在部位に作用する負荷応力は引張強度のA値を仮定した。表面欠陥については半円状のき裂が存在した場合(a/c = 1.0)、表面に直線上のき裂が存在した場合(a/c = 0.0)を想定した。
温度 | 負荷応力 | 円板状内在欠陥 (2a)[mm] | 表面欠陥(a)[mm] | |
---|---|---|---|---|
a/c=1.0 | a/c=0.0 | |||
室温 | 引張強度A値 | 1.8 | 0.83 | 0.30 |
2000℃ | 引張強度A値 | 1.9 | 0.86 | 0.31 |
グラファイトに想定される欠陥を表面欠陥及び内在欠陥に分けて、それぞれ最適な検査手法を適用した場合の検出能力を以下に示す。
表面欠陥に関しては、さらなる試験等により、許容欠陥寸法に対して検出能力を有する可能性はあるが、内在欠陥の検出能力は十分でないことから、グラファイト製 M-14 スロートインサートの内在欠陥を非破壊検査で保証することは現時点では困難と考えられる。
グラファイト表面について、想定される欠陥は、割れ及び加工傷(機械加工時)である。それを想定した人工傷に対して、渦電流探傷検査を適用した結果から、幅 0.1mm、深さ 0.2mm、長さ 5mm 程度の人工傷が検出できることを確認した。したがって,臨界き裂長さの欠陥が a/c=0の場合には、検出できる可能性があるが、a/c=1の場合には検出できない(渦電流センサの周波数等の選定により検出できる可能性はあるが、さらなる確認が必要である)。図3-1-3に渦電流探傷検査の概要を示す。
グラファイトに内在する欠陥としては、割れ及び異物である。欠陥として特に有害な割れを想定した平底穴に対して超音波検査を適用した。その結果、割れの方向が検査面と平行にある場合には、グラファイト表面から深さ 61mm でφ1.0mm までの人工欠陥が検出できることを確認した。また、M-14 スロートインサート用のグラファイト素材では、立方向の高さが 380mm あることから、上面及び下面それぞれから検査することを想定すると、表面からの深さ 190mm ではφ3mm の人工欠陥が検出できる。図3-1-4に結果を示す。
しかし、本グラファイト素材では、その素材形状からすべての方向に入る割れを想定して超音波検査を行うのは困難であるのと同時に、超音波検査が行える場合でも検査面に対し斜めに超音波を挿入する場合には前述の検出能力はさらに低下する。またそれを放射線検査を併用して補う場合でも、放射線検査はグラファイトの透過厚さの2%程度が検出能力となるため、総合すると本グラファイト素材では、高さ 380mm に対して 7.6mm 程度の長さが検出能力となる。したがって、前節に記載した臨界き裂長さ(最小 1.8mm の欠陥)を確実に検出することはできない。