プレスリリース

宇宙科学研究所 このプレスリリースは宇宙科学研究所(ISAS)が発行しました

SS-520-2号機 観測ロケット打上げ情報


平成12年12月4日更新
宇宙科学研究所

SS-520-2号機は12月4日(月)18時16分(日本標準時)に打ち上げられました。[発表文はこちら]


打上げシーン

動画 (Quick Time 766KB)
(Quick Time 160KB)
静止画像 打上げの様子


打上げの様子<別の位置から撮影>

準備の様子

ロケットを打ち上げるニーオルスンの全景


(c) Bjorn Frantzen

今は冬で太陽が昇らないので昼間でもこんな景色


SS-520-2の準備風景

SS-520-2号機の実験

---極域カスプ近傍におけるイオン流出機構の研究---

ロケット到達高度(km)水平距離(km)全重量(ton)搭載機器重量(kg)研究目的
SS-520-2 1000 1200 2.6 50 極域カスプ近傍におけるイオン流出機構の研究

1.実施責任者

宇宙科学研究所長 松尾 弘毅
神奈川県相模原市田野台3-1-1(電話042-751-3911)

2.実験実施場所

アンドーヤロケット射場施設(ノルウェー王国)
(Andoya Rocket Range SvalRak)

3.実験期間

平成12年11月25日〜12月15日(UT)
実験予定日は以下のとおり。

ロケット実験予定日(UT)実験時間帯(UT)延期する場合の期間(UT)
SS-520-2 12月4日(月) 7時00分〜12時00分 11月26日〜12月15日

観測目的

 1989年に宇宙科学研究所が打ち上げた磁気圏観測衛星「あけぼの」の観測結果によれば、大量のイオンが極域から逃げ出していることが分かっています。普通は地球の重力に強く引かれているはずのイオンが上層大気から脱出しているというのは不思議なことです。そんな現象が起きるためには、イオンに対して何か特殊な加速・加熱のメカニズムが働いていなければならないでしょう。「あけぼの」の観測は数千kmの高度で行われたものですが、イオンを加熱するメカニズムが働き始めるのはもっと低い高度からであろうと考えられています。
 そのイオンの加熱の起きている場所が、磁気圏の「カスプ」と呼ばれる領域らしいのです。「極域カスプ」と呼ばれる場所は、昼間側の磁気圏境界面と磁気的に繋がっているところで、そこには太陽風プラズマのエネルギーが上層大気に直接降り注いでいます。カスプ近傍のイオン加熱機構の研究というのは、現在ホットな研究課題の1つで、既にNASAも高度1400kmに達するロケット実験を行い、確かにイオン加熱が起きていることを観測しました。NASAのロケット実験の結果から、1400kmよりも低い高度から加熱現象が起きていることは明らかで、宇宙科学研究所では、1000〜1200kmの高度が重要と考え、そこへ直接ロケットを打ち込んで調べようというわけです。
 ちょっと難しくなりますが、イオンの加熱機構として最も有力視されているのは電流駆動型のプラズマ不安定によって励起される静電波動を媒介とするものです。でも、この現象の時間的・空間的変化が非常に激しいので、従来の観測結果では未だその詳細は明らかにされていません。ヨーロッパにおける地上の非干渉散乱レーダー(EISCAT)による最近の観測結果によれば、カスプ近傍の数百kmの高度からイオンの上昇流があることが分かってきています。そのため、EISCATのグループもこのたびの宇宙科学研究所のロケット実験に大きな関心を寄せており、本ロケット実験はEISCATとの共同研究として実施することになりました。
 このロケット実験が狙うカスプの位置は、太陽風の条件(特に磁場の極性)により変動しますが、平均的には磁気緯度が75度、磁気的地方時が正午前後にあります。そのためSS‐520ロケットの2号機を上記の条件に適合する世界で唯一のロケット実験場であるノルウェーのスピッツべルゲン島にあるニュー・オルソンから打ち上げることにしたものです。実験期間は、地上の光学観測の妨げになる太陽と月がいない時がいいので、今年の11月末から12月初め(11月25日〜12月10日)を予定しています。磁気地方時はUT十3時間で、正午前に現象の現れる確率が高いので、打ち上げ時間帯は08UTを中心に±3時間の05〜11UTとなります。その時間帯の中で、以下の情報に基づいてロケット発射条件を判断する予定です。
 このロケット実験は、宇宙科学研究所における今年度最大のロケット実験です。そして地上観測や最近打ち上げられたばかりの「クラスターII」衛星のグループからも熱いメッセージが寄せられています。



SS-520-2号機発表文

平成12年12月4日
文部省宇宙科学研究所

 極域カスプ近傍におけるイオン流出機構の観測を目的としたSS-520-2号機は、平成12年12月4日18時16分(日本標準時)、ノルウェー・アンドーヤロケット射場施設のスバルバードロケット実験場(ニーオルスン)から発射仰角86°、方位角192°で打ち上げられました。ロケットの飛翔は正常で、発射後67秒で1段目切り離し、69秒に2段目点火が予定通り行われ、発射後約600秒に高度1040kmに到達し、約1100秒に着水しました。
 テレメトリ及び搭載機器はすべて順調に作動し、観測センサのブーム展開やアンテナ伸展、種々のセンサへの高圧電源印加も予定通りに行われました。テレメトリ受信はニーオルスン、ロングイヤービン、アンドーヤの3箇所で行われ、いずれも良好なデータが取得されました。
 ロケットの発射は、ACE衛星による太陽風プラズマと惑星間空間磁場のデータおよびEISCATレーダデータをリアルタイムで監視することにより、ロケットがカスプ上空を飛翔すると判断して決定されました。当初予定した地上からの光学観測は天候の都合上できませんでしたが、搭載機器の観測データからロケットはカスプ上空を飛翔したものと推定されます。詳細な解析は、帰国後に日本で行われる予定です。
 本ロケット実験にご協力頂いたノルウェー・ロケット実験場及び関係各機関に心より感謝いたします。
 本日の天候は雪、地上風3m毎秒、気温-4℃でした。


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