宇宙科学研究所は鹿児島宇宙空間観測所で8月3日(土)23時24分にS-310-31号機、同23時39分に32号機の打上げを行いスポラディックE層などすべての観測に成功しました。
今回の打上げは台風の影響等により、はじめの予定より3日遅れの7月30日より打上げ体制に入りました。
このロケット実験では、1)準周期エコーが種子島に設置したレーダーにおいて観測されていること、2)4ケ所(内之浦、種子島・西之表、宮崎県・高崎、高知県・幡多)にあるTMA(トリメチルアルミニウム)による発光雲の観測のためのカメラサイトのうち2ケ所以上が快晴である事、3)月の光が無い事の三つが揃わなければならないという大変きびしい打上げ条件がありました。
2機のロケットを打上げ直前の状態に保ちつつ準周期エコーの出現を待ち構えているのですが、天候の方は良く晴れて打上げ条件を満足している事が多かったのですが、肝心の準周期エコーの方がなかなか出現せず、連日の打上げ延期となりました。
5日間ほど待った8月3日、1時間以上も続く大変きれいな準周期エコーの出現中に、23時24分に31号機、23時39分に32号機を予定通り打ち上げる事が出来ました。
搭載機器は全て順調に動作し、TMAの放出による発光雲も打上げ後30分間に渡り観測が行われ、準周期エコーの構造と成因の解明の為の貴重なデータを取得する事が出来ました。今後の解析の結果が大変楽しみな実験となりました。
日本の夏季には、地上高度100〜120km付近の電離圏E領域にスポラディックE層(Es層)という電子密度の非常に高い層が頻繁に発生します。Es層にはFM放送やテレビ放送電波を反射する性質があり、時には電波干渉妨害を引き起こすことがあります。
これまで、わが国では京都大学宙空電波科学研究センターのMUレーダーによってEs層に伴う電離圏イレギュラリティからのエコー強度が時間的に数分毎に強弱を繰り返す「準周期エコー」と呼ばれる現象を世界で初めて発見するなどの成果をあげてきました。
この現象の発生機構を明らかにするため、本年7〜8月に観測ロケットS-310-31号機及び32号機を鹿児島宇宙空間観測所(内之浦町)から打上げ、種子島に設置される2機のHF帯レーダーや、内之浦を含む数ヶ所に設置される大気光イメージング装置等から構成される地上観測装置との同時観測を行います。本観測全体はSEEK-2 (Sporadic-E Experiment over Kyushu)と名付けられ、1996年8月に行なわれた同種の観測の2回目として、日本・米国・台湾から多くの研究者の参画を得て実施されます。
2機の観測ロケットの内、31号機では電離圏E領域の直接観測が行なわれ、プラズマ密度、温度、電界、磁界などの絶対値と変動分が観測されます。また32号機ではプラズマ密度、磁界と共にプラズマ波の直接観測が行なわれるほか、ロケットからTMA (トリメチルアルミニウム)を噴出して上空に光の帯を形成し、これを地上から写真撮影することによって中性大気風速を求めます。さらに150MHz/400MHzのビーコン送信機が両方のロケットに搭載されており、地上の受信機によってEs層プラズマ密度の水平構造を明らかにします。