プレスリリース

航空宇宙技術研究所 このプレスリリースは航空宇宙技術研究所(NAL)が発行しました

流体素子を用いた新しい低NOx燃焼方式の開発


平成12年7月4日
航空宇宙技術研究所
大阪ガス株式会社

 科学技術庁航空宇宙技術研究所と大阪ガス株式会社は共同で、「流体素子」(注1)構造を組み込んだ、広い作動条件において安定でかつ低NOxとなる燃焼方式を開発し、ガスタービン燃焼器に適用して高圧燃焼試験により、その性能を確認しました。
 この方式の特長は、「流体素子」構造を組み込んだことにより燃料供給ラインを1本にすることができ、しかも高出力から低出力まで安定した低NOx燃焼が得られることにあります。
 現在広く採用されている低NOx燃焼方式は、予混合希薄燃焼(注2)ですが、出力を大幅に変えると燃焼が不安定になるという問題点があります。これを解決するために現在は、保炎のためにパイロットバーナーを設けたり、メインバーナーを小さく多数個に分割して、出力に応じて燃焼するバーナーの個数を増減して対応しています(図1)。しかし、これでは、速い出力の変化には追随できずに失火や不安定燃焼が生じることがあります。また、バーナーの数だけ燃料供給ラインとその制御が必要となり、コスト面でも問題があります。
 今回開発した新しい燃焼方式は、NOx低減を主眼とする予混合希薄燃焼がおこなわれるメインバーナー部と高い保炎性能を有するパイロットバーナー部とで構成されています(図2)。流体素子は、1本の燃料供給ラインから送られてくる燃料ガスを出力に応じてメインバーナー部とパイロットバーナー部へ分配し、燃焼器に流入する空気との混合を自動的に制御する機能があります。燃料をメインバーナー部に導く孔の途中にスリットがあり、そこをパイロットバーナー部へ流れる空気が横から通過する構造になっています。
 高出力時には燃料ガスの運動量が大きいため、パイロットバーナー部へ流れる空気の影響が小さく、燃料ガスはメインバーナー部に大部分供給されて低NOx燃焼が行われます。それに対して、低出力時には燃料ガスの運動量が小さく、パイロットバーナー部へ流れる空気により、燃料ガスはパイロットバーナー部に運ばれて、保炎性能が高まり燃焼が安定します。(図3)
 このように自動的に燃料ガスの分配が可能になるために、高出力と低出力間の移行がスムーズに行われて、予混合希薄燃焼に伴う燃焼の不安定や失火等が発生せずに安定した低NOx燃焼が得られます。
 この機構を組み込んだ燃焼器を試作して加圧条件での燃焼実験を行った結果、従来方式の燃焼に比べ、低NOxで安定して燃焼できる出力範囲を大幅に拡大できることを確認しました。(図4)
 本方式は簡単な改造で、種々の実用ガスタービンに組み込むことが可能であります。今後、メーカーを含めた共同開発を進めて、各種ガスタービン燃焼器への適用を行うことを検討しています。


(注1)流体素子:
1つの流体の流れで他の流体の運動を制御するもの。ここでの意味は、複数の流れを、それぞれの条件を変えることにより、相互の干渉を利用して流れる方向や流れる量を自律的に制御する構造を持ったもの。
(注2)予混合希薄燃焼:
燃焼する前に予め燃料と空気を混合させて燃焼させることを予混合燃焼と言います。一方、燃料を空気中に噴射させて混合させながら燃焼を行うことを拡散燃焼と呼びます。また、希薄燃焼とは燃料を少なく混まぜた状態で燃焼させることです。この場合には燃料が少ないために、燃焼することによる温度上昇が小さく燃焼温度が高くならないので、高温で多く生成されるサーマルNOxが抑制されます。ただし、燃料が少ないので、燃焼が不安定になる傾向があります。予混合希薄燃焼とは上記の2つを同時に行うことである。




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