プレスリリース

航空宇宙技術研究所 このプレスリリースは航空宇宙技術研究所(NAL)が発行しました

国内最大規模の三次元可視化システムを導入・本運用を開始


平成14年6月7日
航空宇宙技術研究所

 独立行政法人航空宇宙技術研究所(NAL)は大規模三次元可視化システムを導入し、この度、本運用を開始しました。

 NALは、富士通株式会社と共同で開発した高速並列スーパーコンピュータシステム「数値風洞(NWT)」を用いて航空機やロケットなどに関する大規模流体数値シミュレーションを行い、設計や解析に役立てています。NWTでは、実験だけでは解明し切れない、大気圏再突入時の宇宙往還機や、ジェットエンジン内部等の複雑な流れを計算することができます。しかし、研究者や開発者が大量で複雑なシミュレーション結果を直感的に理解するのは困難です。

 今回NALが導入した可視化システムは、これらの大規模なシミュレーション結果を可視化するシステムです。
 高速画像処理能力と三次元の高度な表示方法を備え、大画面を有しているこのシステムは、直感的な認識度を向上させ、共同で研究開発をする環境を提供します。さらに特別な訓練無しに容易に操作が行える環境を備え、航空宇宙分野の設計や解析に貢献します。
 この可視化システムは、日本SGI株式会社の最新ハイパフォーマンス・グラフィックコンピュータシステム「SGI Onyx3400」を中核とするシステムであり(約8億円)、航空宇宙分野の可視化システムとしては国内最大、世界でも最大クラスの大規模システムです。このクラスの可視化システムの例としては、米国ゼネラルモータースが自動車の開発に、また、NASAが航空管制のシミュレータとして利用しています。

 この三次元可視化システムを用い、NALで現在研究開発が進められている航空機・宇宙機の解析、設計に役立てるとともに、可視化システムで作成した画像やアニメーションを配信し、多くの人に研究開発成果を伝える予定です。

 なお、報道関係者の方で同可視化システムの見学をご希望される方は、問い合わせ先(広報室)までご連絡下さい。



大規模三次元可視化システムの概要

 NALでは、高速なスーパーコンピュータを用いて航空機やロケット、宇宙往還機などの航空宇宙分野の流体を中心とした数値シミュレーションを行っています。航空機の昇降舵や方向舵、フラップ等の付属物の操作等が行われる、離着陸時の複雑な形状をもった機体周りの空気の流れ、ジェットエンジン内部の回転する複雑な流路や燃焼器内の空気と燃料との混合流、燃焼に伴う反応流、熱の発生、乱流などの現象を解明し、設計に反映させることで安全性や経済性を高めることができます。

 機体まわりの流れの解明には、風洞実験などが欠かせません。しかし、風洞実験は時間も経費も掛かります。また、大気圏再突入時のような希薄な大気中の超高空、超高速流れや、ジェットエンジン内部等の複雑な流れや現象を、実験で解析することはできません。これらの問題には、数値シミュレーションによる解析が有効です。
 しかし、このような複雑な流れを数値シミュレーションにより解明するためには、大量のデータを複雑なプログラムで解かなければならず、計算処理能力の非常に優れたスーパーコンピュータが必要になります。そして、スーパーコンピュータから出力された大量のシミュレーション結果を、人間が瞬時かつ直感的に理解するためには、写実的な画像化(可視化)が欠かせません。また、複雑な現象を正確に理解するためには、条件を変えたシミュレーションを繰り返すことが重要です。

 これらの要求を満足するには、大規模三次元可視化システムが必要です。
 今回NALに導入された大規模三次元可視化システムは、高速画像処理能力と高度な表示方法を備えつつ、特別な訓練無しに容易に操作が行える環境を実現しています。

 このシステムは、「SGI Onyx3000シリーズ(日本SGI社)」の上位機種であるSGI Onyx3400(6PIPE(注1)/32CPU)を中核とするシステムです。メモリは次世代の大規模シミュレーションに合わせて64GB(ギガ・バイト)の大容量メモリを搭載しています。さらに、表示装置として3面の大型スクリーンを採用し、高解像度(3,300ドット×1,024ドット)、大画面(4.67m×1.5m画面)、三次元表示を実現しています。この可視化システムは、データが10億点を超える超大規模燃焼現象シミュレーションのボリュームレンダリング可視化(注2)や、1000以上の部品ブロックから成る実機の超複雑形状シミュレーションに対する可視化を瞬時に実現する能力を持っています。また、液晶シャッターメガネを装着し、シミュレーション結果を立体視することができます。さらに、画像を操作することにより、複雑な流れをどの角度からでも、また物体の裏側なども見ることができ、より正確に流れの現象を捉えることができます。

 NALは現在、3つのプロジェクト(次世代超音速機(SST)、成層圏プラットフォーム飛行船システム及び宇宙往還機やスペースプレーン等の再使用型宇宙輸送システム)の研究開発に力を注いでいます。導入した可視化システムは、数値シミュレーション結果から得られる機体まわりの流れや圧力分布だけでなく、設計構想等も同時に表示できる大型スクリーンを見て、効率的な研究を行える環境を提供することができます。これにより、生産性及びコミュニケーションの向上が期待でき、プロジェクト研究の推進に寄与するものと期待されています。また、この可視化システムにより作成した画像やアニメーションの配信を通じて、研究開発成果をより多くの人に効果的に伝えることができるものと考えています。




(注1)6PIPE
PIPEは画像データを蓄積しているメモリからディスプレイまでデータを送り出す装置。新システムのPIPEはハイビジョンテレビに比べて1.7倍の表示能力があり、それが6本あるので、10倍の表示能力がある。
(注2)ボリュームレンダリング可視化
三次元空間に分布している表面の定義できないデータを表現する手法。表面だけでなく内部状態も同時に可視化できる。

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