プレスリリース

航空宇宙技術研究所 このプレスリリースは航空宇宙技術研究所(NAL)が発行しました

スーパーコンピュータシステムの更新について


平成14年1月17日
航空宇宙技術研究所

 独立行政法人航空宇宙技術研究所(NAL)は、現行スーパーコンピュータ「数値風洞(NWT)」の後継機として、富士通(株)製の超高速スーパーコンピュータの導入を決定しました。

 NALでは、平成5年度より、富士通株式会社と共同開発した世界初の分散主記憶型並列ベクトルスーパーコンピュータ「数値風洞NWT(理論ピーク性能280GFLOPS、主記憶容量44.5GB)」を中心とした数値シミュレーションシステムを導入・稼働させて来ました。近年、複数の分野にまたがった現象の解析を実用の時間内で行うなど、研究対象が大規模化、複雑化、多様化しているため、計算量の増大と各種処理形態への要求が厳しくなり、これに対処するために新システムの導入に至ったものです。

 図1に示すように新システムは、全体で、現行NWTの30倍以上である9TFLOP(*1)(理論ピーク)の数値演算処理性能、主記憶容量では60倍以上の3TB(*2)を実現する超高速スーパーコンピュータを中心とし、総量で800倍以上の大幅な増強となる磁気ディスク容量57TB、磁気テープ容量620TBから成る大規模データサイロ・ストレージシステムを構成要素としています。また、多目的処理を行うノード(*3)を設けることにより、対話型ジョブなどの各種処理環境を実現しユーザ利用開発環境を充実させるシステムとなっています。また一方で、先に導入した世界でも最大クラスの可視化システムと超高速なネットワークで結合することにより計算と可視化がシームレスに扱える環境が実現されます。

 新システムの導入により、例えば超音速実験機等の設計においては、ある形状に対しさまざまな場合を想定した空力的な性能を調べる場合に、現行システムで、1ヶ月程度必要だったものが、新システムでは、1日程度で答えを得られるようになります。このような大幅な性能向上が、NALが中期計画で進めている、CFD(*4)を中心とした多分野統合シミュレーション技術(図2)の確立のための、航空機や宇宙機などに関する複雑かつ大規模で、なおかつ流体と構造、熱、制御等といった多分野にまたがる連成問題(*5)の解決を可能にします。また、従来はコンピュータの性能や容量の点で実現困難であった、数十億点を超える乱流の直接シミュレーション技術や非定常計算対応型システム(*6)の確立を通じて大規模数値シミュレーションの精度向上などを目指します。さらには、ITBL(*7)施策における航空宇宙分野に関する重要なアプリケーションセンターとして実働に供すると共に、大規模ストレージを利用した航空宇宙分野のデータ拠点として、新規機体開発や安全性向上に資することが期待されます。
 新システムは、2002年4月より現行システムからの移行を開始し、全システムは2002年10月より本格稼働する予定です。

図1 次期数値シミュレーションシステムの構成イメージ




図2 多分野統合数値シミュレータ適用例




<用語解説>

TFLOP(*1):
テラフロップス 1TFLOPSは毎秒1兆回の浮動小数点演算
TB(*2):
テラバイト バイトはメモリーの単位、1TBは1バイトの1兆倍
ノード(*3):
計算機の最小単位であるCPUとメモリがいくつか集まって筐体に収納される。その筐体単位をノードとよぶ。
CFD(*4):
Computational Fluid Dynamics 計算流体力学(計算機で流れを解くこと)
多分野にまたがる連成問題(*5):
流体はCFDにより解かれるが、構造(圧力による変形など)は有限要素法で解かれるなど、それぞれに異なった手法を用いてシミュレーションが行われる。それらを同時に解く必要のある問題
非定常計算対応型システム(*6):
時々刻々と変化する現象を観察したり、データを出力できるシステム
ITBL(*7):
IT-Based Laboratory インターネット等の情報技術を使った仮想研究所のことで、離れたところにある計算機やデータをあたかも自分のところにあるように使うことを可能とする。
国の策定したe-Japan重点計画の一つとして、理化学研究所、日本原子力研究所他当研究所を含めて6機関でITBL施策を進めている。

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